4ココネの家には女神がいる。


普通だけど普通じゃない。

その意味はまったく不明だった。

ココネはだが、見ていることしかできない。自分は無力だし、ソフラは毒が抜けなければ動けないのだ。

ココネはなにも言えずにソヨギを傍観ぼうかんした。ソヨギはブキミウサギを待っているかのように、やる気なくストレッチを続けている。ブキミウサギは力なく、ふらふらとたちあがった。

それを見て、ソヨギはジャージをめくってお腹のぽっこりをとりだした。それはあまりにも、場にそぐわない代物だった。

「キャベツ!?」

「…なるほど。さすがはソヨギさま」

ココネ的にはツッコミどころだったが、ソフラはしっかりと感心を示した。

ソヨギは完全にたちあがったブキミウサギに、ぽーんとキャベツを放り投げる。キャベツはかなり大きく、育ちすぎてしまった感があった。

なんにせよ、キャベツを投げつけられたブキミウサギは、そのキャベツを顔面に受ける。なるほど武器なわけだ――んなわけないでしょ! と、ココネは静かにノリツッコミをする。

ブキミウサギが大玉のキャベツを、バリバリと食べ始めた。両手でかかえて、まさにむさぼり食うといったように。バリバリバリバリ…と、夜のグラウンドに食事の音が響いた。ココネはハッとする。

「あれ、まずくないですか!」

「ええ…あれだけ育ってしまうと、味が悪くなるようですね」

「違あっ! キャベツじゃなくて! いや、キャベツのことなんだけど…とにかく、ソヨギさんの食べ物って、魔力が回復したりするんじゃないんですか、メィカーさんとかみたいに!」

「すると思います。だからこそ、ソヨギさまには好都合なのです」

…は? いや、さすがにワケわかんない。魔力が回復しちゃったら、さっきのソフラとの戦いみたいになるだろう。あんな動きにソヨギがついていけるわけがない。

「心配ご無用ですよココネさん。これから見るすべてのことは、ソヨギさまの計算です。ですので、安心してください」

「ええぇ…?」

「ソヨギさまは普通ですが、普通ではありません」

ソフラはまた、そんなことを言った。

「旨カッタ…うまかった! ヨコせ…もっと…あなた、食べてもカマイマセンヨネェ…!」

「…イヤです」

そんな会話が聞こえ、ふたりを見る。これまで言葉すらうしなっていたブキミウサギが、歓喜しながらソヨギを標的にしたようだった。ソフラがふっと笑った。

「魔力が戻り、意識も戻ったようですね」

「さっきのほうが倒しやすそうだったのに…」

「ですがそれでは、会話ができません」

はい? と、ココネが聞き返そうとした直前、ブキミウサギが動いた。あの超速突進のかまえだ。

「バラバラだ! バラバラにしていただきますヨ!」

「…なるほど」

納得ぎみのソヨギへと、ブキミウサギが跳ねた。遠目からでも、目で追うのがやっとだった。ソヨギはぼうっとしている。ココネは見ていられずに、思わず顔をそむけた。これで終わりだ。バラバラにされて、食べられて、ソフラも自分も襲われて終わり。

ソヨギは悲鳴もあげられなかったのか、なにも聞こえなかった。ズザアァ! というブキミウサギの着地と――悔しそうな声以外は。

「なぜだ! なぜあたらないのデス!」

ブキミウサギな悔しそうだった。なぜならそれは、攻撃が失敗したからだろう。失敗したということは、ソヨギは無事なのか? ココネはおそるおそる、クレーターを見た。

ブキミウサギが唾を飛ばしながらわめいている。ソヨギは頭をポリポリかきながら、

「さあ…なんでですかね」

「ナめやがってぇ!」

「ナメ屋がってん? やる気まんまんすね。でもナメ屋さんてなに屋さんすか?」

「ピィヨオアァァァッ!」

「聞いてない…」

ドォンッ! とブキミウサギが跳ねる。

ココネは今度こそ、見ていようと思った。

ブキミウサギの跳躍は、卓球プロのラリーを間近にしたような速さだ。右と思えば左に飛んでいくような速さ。目で追うのが追いつかない。ソヨギにぶつかる――が、ソヨギはすでに動いていた。

いや、違う。超速突進のまえは移動していなかった。ソヨギが動いたとしたら、ブキミウサギが跳ねた瞬間だろう。それくらいのタイミングならば、確かによけられるかもしれない。

ヒュオォッ! という感じで、ブキミウサギの攻撃は空振りに終わった。ソヨギがかわした勢いでくるりと反転し、そのあとでブキミウサギが着地する。ブキミウサギは間髪かんはついれずにさらに跳んだ――だが、ソヨギの体勢は整っている。ソヨギはあっさりかわし、また勢いで反転した。

「よけてる…嘘みたいに…だってあんなの…ムリでしょ普通…」

その単語をくちにした瞬間に、ココネは頭を殴られたような閃きに達していた。

普通だが、普通じゃない。その意味がわかるような気がしたのだ。

ブキミウサギは速い。それこそ飛んでくる虫くらいに速い。たとえば自転車でくだりの坂道を全力している最中に、羽虫がおでこにあたるときがある。あたる直前には見えるが、反応はできない。。奇跡的によけられることがあっても、それはたまたまで、あたる直前よりも早くに見えていたから…知っていたからだ。

それと面積めんせき。虫は小さいからあたらないこともあるだろう。だが、それが百キロ以上でせまる車だったら?

いや、ブキミウサギはもっと速い。横から見ていても、新幹線が通りすぎるくらいか、それ以上に感じる。つまり視認するのがやっとである。そのブキミウサギの体よりも外にいなければ、あたってしまう。体の強度はニンゲン以上。あたればそれこそにもなりそうだ。

「なぜアタラないのでスカあぁぁぁ!」

ブキミウサギがさらに速くなる――右、左、右、左――さきほど思いついた卓球のラリーを彷彿ほうふつとさせる。だがそれらすべてにソヨギは反応し、すべてかわしている。

「ソヨギさまは」

「…え?」

呆然としているところに、ソフラの柔らかい声が耳に入る。見るとソフラは、穏やかな顔つきで、

「よくおっしゃっています。いくら速くとも、軌道きどうさえわかっていれば、どっじぼーるの球をよけるのと大差ないと」

「ドッジボール?」

改めて、見る。

確かに似ている。

ひとりコートに残ったチームメイトが、敵の球を必死でよけている。そんふうに見える。

いや、違う。ソヨギは――

ブキミウサギは着地すると、足をすべらせて地面に倒れた。歯を食いしばりながら、恨めしそうにソヨギを睨みつける。

ソヨギはといえば、頭をポリポリしている。ソヨギに必死さはない。ソヨギは――余裕だった。

「…そういえばルール決めてなかったっすね」

「ルールだって?」

「そっす。いきなり言うじゃないすか。あ、俺いいこと思いついたからこうしようぜーって」

「なんの…話をしているのデスか…!」

ブキミウサギは跳ねる。だが、ソヨギはかわした。また似たような位置関係になる。ソヨギは続けた。

「なんでなんすかね? 最初から決めてあるのにいきなりですよ? しかもたいしていいことじゃないっていう。小学生っていうのはホントに勝手」

「アナタの言葉は理解ができナイ…なにが言いたいので?」

それはココネも同意見である。なに言ってるのかわからない。確かに小学生にはそんなところがある。いや、違くて。なんでこのタイミングでそんなことを? ソヨギが続ける。

「だからまあ、ルール決めましょう。野球っぽくしますか。ウサモンさんがあてられなかったらストライク。あたったらホームラン。三回ストライクでアウト――つまりあと三回で俺の勝ちっす」

「ピョピョピョ…ニンゲンがまさか、ワタシに勝てるおつもりで?」

「あ、やります? ちょっと待ってください。スコアボード」

ソヨギはキョロキョロとして、なにか探しているようだった。地面に書ける手頃な石でも探しているのだろう。

だが、そんなことをしているあいだに、ブキミウサギがかがんだのをココネは見逃さなかった。

「ソヨギさ――」

その警告をやめさせたのはソフラだった。彼女は手で、くちを押さえてきた。首を横に振る。

「大丈夫」

ドォンッ! とブキミウサギが跳ねた。まだキョロキョロしていたソヨギに向かって。

ココネはこれはダメだと、全身に寒気が走る。さっきはよける体勢だった。でもいまは違う!

――が、やはりブキミウサギは攻撃をあてられなかった。

ソヨギはなんというか、地面に伏せたように見えた。でも手が地面をまさぐっている。ブキミウサギの着地すら見ずに、なにかを拾った。

「固まった土…」

なるほど、石だと思ったらしい。母親のガーデニングを手伝っているとよくある。ソヨギはあからさまにガッカリしたようだった。ふらふらとたちあがる。

そこで初めてブキミウサギに気づいたように、そっちを見た。

「あ、ワンストライクっす。あと二回」

「ぐ…アナタ、本当にニンゲンでスカ…?」

「磯村っす。ソヨギっす。厨房バイト…石ないんで覚えててください。いやあれですよ? 俺のことじゃなくてスコアっす。俺のことはいいです」

「ソヨギ? どこかで聞いたナマエだ」

「忘れていいのに…」

ソヨギはなぜか不満そうだった。しかし言いまわしがいちいちメンドクサイ。

ブキミウサギはしばらく考えていたようだが、思いあたるフシがなかったのか、跳ねる体勢になった。

と、ソヨギがちょっとタイムと手をまえにだした。

「なんデスか?」

「フェアじゃないんで教えますよ。なんで

「ホウ…興味深いでスネ?」

ブキミウサギは言いつつ、あきらかに気分を害したようだった。歯を食いしばり、拳を握る。

ソヨギはだしていた手のなかで、ひと差し指だけをたてた。

「ウサモンさんはんすよ。しかも空中で方向が変えられるわけでもない。だからいちど跳んだら、まっすぐ進むことしかできない。それならよけるなんて簡単なことっす」

「なるほど…ではどうしたら?」

ソヨギは中指をたてた。

「速球を意識しすぎれば、制球はさがります。ムダに力も入るし。だからもっとあてることを意識しないと。キャッチャーが球を落としたら振り逃げされます。ミットに投げるんだ、みたいなことっすね」

「速さをうしなえば、それだけさけることもできるのデハ?」

「みっつめ。ウサモンさんはまっすぐすぎる。あるていどは相手の動きも予測しないとダメです。まっすぐくるなあって思ったら、誰でも打てます。この国では通じても、大リーグでは通じないっすよ。せめてメチャはやのフォークくらいは投げれないと…つーわけで、プレイボール」

「言葉のいくつかは理解不能ですが、ご教授きょうじゅいたみいりますよ…」

ブキミウサギは歪んだ笑みを浮かべ、ひざを曲げる。腹はたつが殺せればそれでいい…そんな笑みだった。

「ソヨギさん、あんなこと教えちゃって…」

「ええ、これでソヨギさまは勝ってしまいましたね」

「え――?」

ドォンッ! ココネがソフラの言葉を確認するよりも早く、ブキミウサギが跳んだ。

これまでよりも突進速度は遅い。でもそれは、三百キロが二百キロにさがったくらいで、まだまだニンゲンには回避できないだろう速さだった。

じっさいにソヨギまで到達とうたつするのに、さほど時間の違いはないように感じた。違いはない? いや、あきらかにさきほどとは違った。

ソヨギはあっさりとよけるが、同時になにかを空中に残していった。それは、ブキミウサギの武器――ソフラが折った仕込み杖の残骸ざんがいである。

ブキミウサギはその残骸をよけることができない。ぎゃっ! という悲鳴すら聞こえた。そのまま着地を失敗し、クレーターのなかをゴロゴロと転がった。

停止したブキミウサギの左の肩に、折れて残った刀身が深々と刺さっていた。

「ぐ…あぁぁぁぁ! やってくれマシタねニンゲン――ソヨギ!」

「…あ、まずかったですか?」

「キサマ…キサマは! これを狙っていたのデショウ! ワタシに一撃をくわえる算段さんだん! ルールだなんだとほざき、読ませないための話術!」

「…えーと、違います。武器を渡そうかなって」

「ドコマデも、ナメタやつでスネ!」

さっき拾いあげたのは――石を探すフリをしながら拾っていたのだ――仕込み杖の残骸。それをブキミウサギへの攻撃にするために、わざと速いだなんだと難癖なんくせをつけた。そしてになったところで設置。空中に剣を置きつつもソヨギならばよけることが可能になる時間をつくりだしたのだ。だから速すぎると教えたわけだ。

さらにあの速さならば、空中にあるだけだとしても、突きを放ったのとおなじような効果があるだろう。

ココネにはぜったいに思いつかない、とんでもない作戦だった。

「ソヨギさんすごい! 勝っちゃうなんて!」

ココネは心から感心していた。まさかモンスターをニンゲンが倒すとは思わなかった。

ソヨギは普通のニンゲンだが普通じゃないのだ。絶賛ぜっさんしたいがうまい言葉が見つからないくらいだ。とにかく感激して、ココネは表情を明るいものにしていた。

「…んじゃ、よけたのと痛いのとでツーストライク…アウトっすね。俺の勝ちで」

「認めるかそんナモノ!」

「まあでも、着地も失敗したからダメージもあるわけで…ダブルプレー。ではさいならー」

「待てぇ!」

ブキミウサギは傷を負った左肩が動かせないのか、腕をだらりとたらしていた。着地失敗のダメージもあるようで、なかなかたちあがることができない。

ソヨギはぺこっと頭をさげて、ブキミウサギがおりるときに転がっていたあたりの傾斜を、テクテクと登り始めた。

「ソフラさんの言ってた、普通じゃないって意味が、わかった気がします…すごい」

ソヨギがクレーターからでるころには、ブキミウサギもようやくたちあがったようだった。痛むのか、体を震わせながらソヨギを追う。

ココネは勝ちを確信していた。だからソヨギにかけよって、称賛しょうさんしてあげたかったのだが、ソフラがぎゅっと腕をつかんで、それをやめさせた。

「まだです」

「え…でも、ソヨギさんの勝ちですよね?」

ココネは聞くとどうじに、ソフラが真顔になっていることに気づいた。

勝負のゆく末を見守るような顔。

冗談を言っているのではないということが、すぐにわかった。

「待テ! まだ終わっテはイナイ!」

「…えー」

ソヨギがメンドクサそうにブキミウサギを見おろした。

ブキミウサギは息を乱し、苦しそうな呼吸をしている。見るからに満身創痍まんしんそういで、傷のある左肩を押さえ、あまつさえ足にもダメージがあるようだった。

なぜソフラはとめるのだろう?

ブキミウサギはもう、戦えるようには見えない。完全にソヨギがしてやったという感じで、そこらへんのケンカだったらもう決着しているようなありさまだ。

だからもう、ココネ的には終わっていた。そのはずだったのだ。

「くあぁぁぁぁぁ!」

いきなり、ブキミウサギが絶叫した――なにしてんの!? とココネはなかば驚愕きょうがくしていた。

ブキミウサギは左肩に刺さった剣を、力まかせに引き抜いた。紫色の液体が、その傷口からぼたぼとあふれている。ニンゲンならば致命的な血管を傷つけたような、おびただしい出血量である。ブキミウサギのだらりとした左腕に、紫の血がつたう。そして地面に大きな染みをつくりだしていた。

「マダ終わりじゃない!」

「えー…ま、いいですけど。次のルールはどうしましょうね?」

「もうどうでもいい! キサマは死ね!」

「えっと…それはイヤです」

ブキミウサギは折れた剣を横に振る。刀身に付着ふちゃくしていた血が飛んだ。

そしてブキミウサギは、あしに力を溜めているようだった。ソヨギとの距離は、クレーターの高さもふくめて二十メートル以上はありそうだったが、ブキミウサギはまだ攻撃をしかけようとしている。

「ソフラさん、なにしたってソヨギさんにはあたらないですよね?」

ココネは理由のわからない不安を感じて、ソフラとふたりとを交互に見る。

「…ラビリオン属の考えはわかります。残された手はハートレイトしかありません」

「さすがにヤバくないですか!」

ぎょっとして叫ぶ。女神のソフラですら無力化できる技だ。ソヨギは普通じゃないが、普通のニンゲンでもある。あんな技をくらえば形勢けいせいはブキミウサギに有利になる。

「万が一の場合はわたしがでます。なのでココネさんは守りますから」

「ま…万が一?」

「ええ。万が一にもありえませんが、ソヨギさまが敗北したときです」

ソフラはあっさりといった。

でもそれはつまり、ソヨギが死ぬことを意味していないだろうか…?

「ピュイアオァァァァッ!」

ブキミウサギの高い遠吠え。その跳躍力はずっと見てきたとおりである。一足跳いっそくとびの言葉のとおりに、ブキミウサギは高く早く跳んだ。そのいちどの跳躍で、ソヨギとの二十メートル以上の距離は、いとも簡単にゼロになった。

「なんでよけないの!?」

ソヨギはぼけっと、ブキミウサギを見あげていた。帰り道に空にあがった花火を見るように、ただ眺める。ココネは次には叫んでいた。

「――きゃあぁぁぁぁぁぁ! ソヨギさん!」

ブキミウサギが剣を振りおろし、ソヨギはあっさりと、正面から斬りつけられていた。



ソヨギは両腕をバンザイするように開き、うしろに倒れた。遠目からでもジャージが斬られて破けたのがわかった。ソヨギが力なく倒れ、砂が舞いあがる。

「ピョ…ピョピョピョピョピョ!」

ブキミウサギは奇妙に、その事実に歓喜して笑った。でもふたたび超速突進のかまえになる。そして、

「早くたちなサイ! そのふざけた演技をやめて、もういちど戦エ!」

――演技?

ココネはわけがわからずにソフラを見る。彼女は真顔のまま、なにも言ってはくれなかった。

すると、ソヨギがゆっくりとたちあがろうとしていた。負傷したから体を動かせない――というより、朝の起床がメンドクサイような感じである。

「…バレましたか」

「手応えくらいわかりますよ。だが、あなたはもうなにも見えない。感じない。孤独の世界で朽ち果てるのみなんでスヨ…」

「…真っ暗っすね」

ソヨギはキョロキョロした。だが動揺どうようはしておらず、ソフラのような変化は見られない。

「そっか、ハートレイトが失敗とかして…」

「いえ、ハートレイトは精神があるものすべてにかかります」

「でもソフラさんのときとは全然違うじゃないですか」

「はい。ソヨギさまは普通ではありません」

…またそのセリフ。ココネはたしょう、うんざりしながらため息をついた。

まともな説明を求めることもできたが、ソフラが勝ちの確信をもっている以上は、なにを聞いてもハッキリした回答は得られないだろうと思った。

なぜならソフラにとっては、説明するまでもないことなのだろうから。

ココネは静観せいかんを決めて、なりゆきを見守った。ちらりとソフラの状態を見れば、まだ弛緩しかんの症状があるようで、手がわずかに震えている。

ソヨギにまかせるしかない。だがハートレイトが効果を発揮はっきしている状態で、どう戦うというのだろう。

「…これ、便利ですよね?」

キョロキョロしながらソヨギ。ブキミウサギはくつくつと笑う。

「ええ、そうでショウ? 誰ものがれられない。自身の内包する闇にとらわれ、ワタシにただ、いいようにされる。最高の夜でスヨネ?」

「ですねー…これなら最高の夜になりそうっす。ほら、たまたま夜ふかししちゃったときにかぎって、なんでか面白い映画やってるんですよ。そんでガッツリ観ちゃう。でもちゃんと観たいのに、やたらうるさい車とか通って、セリフが聞こえなくなったりしません? そのときいいですよねコレ。自分しか見えないうえに周囲の音も聞こえない。一台ほしーなー…」

ソヨギのテキトーな言葉にたいして、ブキミウサギはそうでしょうとか相づちをうつ。たぶんソヨギの言葉の意味はわからないが、め言葉として受けとったのだろう。

だがソヨギがハートレイトにかかっていることは間違いなかった。あの暗黒の世界のことがわかるのは、ハートレイトにかかった者だけである。

ソヨギはなおもハートレイトの利点を言いつづけた。

明るくて寝れないときに便利(夜勤のひと)。ひとりになりたい寂しい夜にうってつけ(破局したひと)。悟りとかできそう(修行僧むけに)。赤ちゃんに使える(夜泣き防止?)。スイカ割りの価値基準が変わる(意味不明)――などなど。

「ピョピョピョッ! 孤独のなかで死ネ! そして喰われるのです、ソヨギ!」

「…それはちょっと」

ソヨギの意味不明な独り言は、まさにハートレイトにかかった者にふさわしかった。まさに術中にある者のように見えた。

だが、あきらかにソヨギのようすはおかしかった――そのことにブキミウサギは気づかなかった。

ブキミウサギは超速突進のかまえに、剣のかまえも混ぜた。刀身はなかばから折れているが、刺されればひとたまりもないだろう。

ソヨギの背後には防止ネットの鋼鉄製の支柱もある。あらゆる衝撃がソヨギを襲うことになる。なまじ支柱をさけたとしても、ネットなど簡単に突き破り、地面に落下し、ニンゲンならあっさり昏倒こんとうだってするはずだ。

ブキミウサギがかまえ、力をじゅうぶんに溜める。いまのソヨギにあてることは難しくない。そう思っているはずだ。

しかし、ソヨギはどこか、ような気がした。

ココネの勘違いでなければだが、ひたすら変なことをつぶやきながら、ブキミウサギの行動をまっている。

ココネには、そう感じてしまう理由がよくわからなかった。しかし、ソフラの言葉がなんども頭に響いている――――ブキミウサギが跳んだ。



ココネにはなにが起きたのか、一瞬でさとることはできなかった。だが思い返せばそれは、ひどく単純で、ひどく難解なものだったのだ――


ブキミウサギが跳んだ。超速突進でだ。

そのときソヨギはなぜか、ハートレイトにかかっているはずなのに、ように見えた。完璧にタイミングをあわせて、初めてかまえたように見えた。

ブキミウサギは剣を前方に、突きを放つ姿勢だった。やや体は水平で、狙っていたのはソヨギの頭部だったように思う。

だがココネには動いたことしかわからなかった。ブキミウサギは一瞬でソヨギに到達した。そして、剣がソヨギにあたるだろうと思ったとき――

――ソヨギはわずかに姿勢をさげ、ブキミウサギのしたに体をすべりこませた。片肘をあげ、ブキミウサギの体にあてる。

瞬間、バッ! と、布がはためく音がした。ソヨギも軽く跳び、空中で回転したようだった。その動きはまるで、カンフー映画にあるようなものに見えた。足を払われた敵が、なんども回転して地面に倒れる。そんな光景と似ていた。

そしてどうなったのか…ブキミウサギは完全に

超速突進の速さを維持したまま、ブキミウサギがネットの支柱へと飛んでいく。だがブキミウサギは方向転換ができない。

ブキミウサギはなすすべなく、声をあげるヒマもなく、そのまま時速なん百キロという速さで、鋼鉄製の支柱に吸いこまれていき――

ゴイィィィィィィィィン…!!

と、頭からぶつかった。


――ひたすらにマヌケな音がこだましていた。鐘をついたようなそんな音だ。

ドサッ…と、ブキミウサギが支柱をすべって地面に落ち、ピクリとも動かなくなる。

ソヨギは片膝かたひざをついた姿勢で、そのようすを見ていた。いつもの無表情で、あたりの静けさにあわせたように、こちらも動かない。

ココネも絶句ぜっくしていた。まるで映画を観ているときのような、現実から遠いところにいるような感覚だった。しかし、頭のなかではまだあの言葉があふれている。

(普通だけど…普通じゃない…普通だけど…普通じゃない…)

正確にいえば、それは不可能な動きではない。アクションスターならやっている。でも、まさか、そんな…?

この、どうしていいかわからない空気を破ったのは、ソフラの言葉だった。

「終わりましたね。さすがはソヨギさまです」

それは事実確認というか、ソヨギにむけての称賛だった。

そしてその声が聞こえていたのかどうかはわからないが、ソヨギがタラタラとたちあがり、ブキミウサギに歩いていった。意識を確かめているような動きをしたあと、こちらにむかってジョギングしてくる。

ほっほっ…ほっほっ――

まるですべてがなかったことのように感じるくらいに、なにも変わらない男が、普通に走ってくる。

「…なんか、気絶してます」

「そうですか。ソヨギさま、お怪我は?」

「べつに…ジャージが切れたくらいで」

「あら、大事なものだったのではありませんか?」

「…ジョギングするのに中学ジャージを使ってただけなんで…んじゃ、帰ります」

「はい。お休みなさい、ソヨギさま」

「…お休みっす」

ソフラのていねいなお辞儀に、ソヨギもていねいなお辞儀で返す。そしてそのままソヨギは、ほっほっ、ほっほっと、公園から去っていった。

「さ、ココネさん。これで危険はなくなりましたよ。おうちにもどってくださいね」

「へ? は…はいっ」

ココネ的にはブキミウサギがどうなるのかが気になったのだが、ソフラがぺこりと頭をさげてからブキミウサギに歩いていくのを見たので、これで本当に終わったのだと思うしかなかった。

ソフラが問題なく歩くのを見届けてから、ココネはひとつため息をついて、グラウンドからでた。

息をついたのはおそらく、安堵あんどなんだろうな…と、客観的に思う。

とりあえず誰も死ななかったし、傷ついたけど無事である。ソヨギなんてガチの無傷だ。怪物みたいなやつと戦って、なんともないのは奇跡だと思う。

「普通だけど普通じゃない…か」

わかるようでわからない。わかったような気がしたが、まだわかっていない。

ココネは足に痛みを感じて、そういえばケガしてたんだと思いだす。そんなことを忘れてしまうくらいに、夢を見ていたような感覚だった。

ケガに気づいたのとおなじくして、ひどく疲労していることにも気づく。緊張もしたし動いたし、とにかく心も体も疲れていた。

自販機をめざし、いつものプリンシェイクを買った。すぐ目のまえのベンチに座って、グラウンドを眺める。

ソフラがブキミウサギを肩にかつぐのが見えた。女神は腕力もあるらしい。そしてそのまま空を見あげた。

――と、ココネに気づき、ほほえみながら会釈する。ココネが軽く手をふって答えると、ソフラは夜空に飛翔した。

ソフラとブキミウサギとを、淡い白の輝きがつつみこんでいる。キレイだなと思うのはもちろん、彼女が女神だからなのだろう。

ひとよりも美しく、強い。それがココネにある女神のイメージだったが、ソフラはそのイメージをこえるほどに、強く美しいと感じている。

ココネは夜空に消えていくソフラを見送った。優雅な飛翔に思えたが、かなり速いらしい。あっというまに豆粒ぐらいになって、ココネの視力では見えなくなる。

ソフラのゆくさきでは、白亜の輪が月明かりを反射して、輝いていた。



「帰ろうかな…」

プリンシェイクをゆっくりと飲んでから、ココネはベンチに座りながらのびをした。

するといままで意識のそとにあった冬の冷気が、すぅっと入りこんできた。ちょっとブルブルっとし、ベンチからたちあがる。と、

「あれ?」

ハタと気づく。グラウンドのほうが、なんかおかしい。なにがおかしいのかわからないが、なんだか、さっきとは違う景色に見えた。

ココネはまぶたをゴシゴシしてから、もういちど見た。やっぱりおかしい気がするのだが、なにがおかしいのかわからない。

じっさいにグラウンドにいって、確かめる気にはなれなかった。足はまだ痛かったので歩きたくない。それ以上におかしいことはもう、ごめんだった。

歩きだして、でもやっぱり気になってグラウンドを見る。

するとなにがおかしいのかが、ようやくわかった。

グラウンドがもとどおりになっている。ソフラのあけたクレーターが、そっくりなくなっていたのである。ココネがベンチにいた時間は五分か十分くらいだろう。そのわずかな時間で、あのクレーターがなくなるなんてことが、あるのだろうか。

「まさか、夢でも見てたの?」

そんな気にもなる。

じつは自分は転んで、気絶とかしていたのだ。ベンチにちょうど座りこむかたちになり、ブキミウサギの夢を見た。そしてソフラやソヨギという見知った顔があらわれて、奇妙で不思議で、とっても短い冒険をしていた。

「ひょっとしたらでも、そうなのかも」

ココネはその夢だった説を、にわかに信じ始めた。だってあまりにも異常すぎる。あんなモンスターとか女神とか、現実にいるわけがないのだ。

…と、ココネの足もとをなにかが通りすぎた。一瞬では理解できなくて、てきとうな方向に視線を向ける。

すると、いちょう並木へと、小さなネズミが走っているのが見えた。もちろん普通のネズミではない。絵本にでもでてきそうな格好をした、二足歩行のネズミがダッシュしている。

しばらくながめていると、ネズミはいちょう並木の暗がりへと、消えていった。他にもなにかいないかとキョロキョロするが、視界にあるのは日常をとりもどした公園である。

「夢じゃ…なかったか」

ココネはソヨギのようにポリポリと頭をかいて、帰路についた。


ココネは家につくと、テキトーに両親に声をかけ、早々とベッドにもぐった。

そして眠りにつくまえに、ソヨギとソフラについて考えてた。

あのふたりの関係は――?

いちどは恋人どうしのようにも見えたが、そんな関係ではないとわかった。

ソフラはそんな感じがあるが、ソヨギはただ迷惑がっているようだ。片想いなのかなとも思うけれど、ソヨギはきっと、ソフラを助けにきたんだとも思う。

ソヨギは普通にしか見えないが、普通じゃない。だからきっと、なにを考えているかなんて、ココネには一生かかっても理解できないだろう。

だって、生身でモンスターを倒した。女神であるソフラですら手をやいた相手を、ただのニンゲンが倒した。しかもわけのわからない方法で倒した。

だが逆に、ココネには、ソヨギがブキミウサギを倒せた理由がなんとなくわかっていた。その理解不能な思考を読んでみようと思ったら、なんとなくわかってしまったのである。

ヒントはあの、キャベツだった。

ココネは閉じたまぶたのなかに、あの光景を映しだす。

ふらふらと歩く飢餓状態の限界にあったブキミウサギに、ソヨギは魔力回復が可能なキャベツをあたえた。それにはいくつかの意味があることが、わかっている。

ソヨギにとってなにが一番の邪魔になるか。それはバーサークで発動する魔力の鎧だ。ソフラの攻撃をえぬくほどの魔力があると、ソヨギにはなにもできない。じっさい地面にクレーターができるほどの攻撃をくらいながらも、ブキミウサギは生きていた。あれではニンゲンに手だしなどできない。

順序よく考えるとこうなる――まずブキミウサギが理性をうしなうほどの状態になるのを待つ。なぜなら理性があるうちにキャベツをあたえても、ブキミウサギは罠を予感してくちにしないだろう。だからキャベツをあたえるのには、あの状態が理想的だった。もはやくらいの状態が、ソヨギには理想的だったに違いない。

そしてキャベツをあたえることで、魔力の鎧をぎ、どうじに会話が可能な状態に回復させる。まず魔力を安定させてバーサークによる魔力の放出ほうしゅつをおさえて、防御力をさげた。そして会話による、まるでマジックのトリックのような話術で、ブキミウサギの行動を操作するために意識までも回復させる。

それはしかし、ブキミウサギの魔力を戻す行為でもある。だがおそらくソヨギは、ブキミウサギの手の内をすべて読みきっていただろう。あのソフラとブキミウサギの激しい戦いは、バーサークにないと不可能だとわかっていたのかもしれない――なぜ不可能だったのかは、ブキミウサギがソヨギとの戦いでことでわかる。どうしても倒したいのなら、あのニンゲンにはとらえられない速さで、あっさりソヨギを倒したはずだからだ。

ソヨギにはココネ以上のる力がそなわっている。もしかしたらソヨギには、ブキミウサギの魔力がどのくらいなのかわかるのかもしれない。魔力がどのくらいなのかわかれば、バーサークに近いかどうかもわかるだろう。

とりあえずそれはそれとして、ブキミウサギの魔力は安定した。そしてあの超速突進でソヨギを倒そうとする。

だがソヨギには通用しない。これはソヨギのほうだろう。やたら野球の話をしていた気がするが、あれは『ボールのい目『め』までハッキリ見えるぜ』的な意味あいだったのではないだろうか。

つまり、ソヨギは動体視力がずば抜けているのではないか。まるでプロボクサーのような眼を持っている。

そしてさらに、ソヨギの読みはするどいのではないか。軌道がわかればドッジボールと変わらないという言葉があったが、それは違う気がする。なぜならソヨギはに、動いていた。そんなタイミングで軌道などわかるものではない。なんとなくの予測は可能だが、確実な読みがなければよけるのは不可能である。

ソヨギは攻撃を完璧にかわす。かわしたうえでブキミウサギに忠告する――速すぎるのだと。

ブキミウサギに剣を刺し、完全な優位にたつ。

でもソヨギはブキミウサギにどうでもいいような態度で挑発した。ソヨギはこのときすでに、支柱を使う攻撃を考えていたのではないだろうか。帰るようなそぶりを見せて、クレーターからでたのは、支柱にブキミウサギをぶつける算段があったからに違いない。その行動は自然すぎて、まさかそんな狙いがあるとは誰も思わないだろう。

(誰も、じゃないか。ソフラさんはわかってたから、わたしをとめたんだ)

――まだです。

ソフラにはソヨギの考えがわかっていた。キャベツを放り投げたところで、ソフラはなるほどと納得していた。ソフラはあの時点で、どこで終わるのかがわかっていた――と、

「あー…なんか眠くないなぁ…」

ココネはガバッと起きて、ベッドからおりた。体はひどく疲れているのに、眠気がまったくない。

なにを考えてたんだっけ…ああ、キャベツだっけか。ソヨギはキャベツをあたえることで、ブキミウサギに攻撃が通用するようにした。

でもその倒しかたは、誰も想像できなかったろう。さしものソフラも、なにが決め手となるのかなんて、思いつかなかったはずだ。

そのためにソフラは見守るような顔つきになっていんだ。平気なそぶりで、全部わかっているようすで、でもきっと心配だったのだろう。

ソヨギのあの動きは、想像をはるかに越えたものだった。これもまた、普通じゃないところだ。

ソヨギは普通の大学生で厨房バイトをしている。でも、まるで映画のような動きをして、その手から作りだす料理で魔力を回復する。

ソフラがソヨギの隣に住んでいるのも、アニミスを回復するためにソヨギの料理が必要だからだ。

こちらの世界のアニミスと魔力はすくない。そういった意味でも今回の事件には、ソヨギが必要だったのだ。ソフラになにかあればアニミス回復が必要になる。あの水も、ハートレイトがアニミスをみだすのを、安定させるために買ったのである。

「普通だけど、普通じゃない」

やたらその言葉がひっかかる。

ココネはなんだか空を見あげたくなって、自室の窓のほうへと歩いた。寒そうだけど、ちょっと見れたらいい。

カギをはずして開くと、冷たい空気が流れこんできた。寒さにたえながら、腕を手でこする。ふぅと息を吐くと、白い息がふんわりと散った。

ココネの部屋からは、向かいの家並みしか見えない。道路には誰もいない。空は狭くて、次元門エルシアは影もかたちもないのである。

そうココネは、狭い世界で生きていた。これまでずっと、目に見える範囲がすべてで、この景色がいままでのココネの世界だった。

でも、向かいの家の屋根を、ちょっと越えたそのさきには、とんでもないものがあるのである。

次元門エルシアという意味不明の物体。ビルの影にある魔物たちの街。そしてどこかにいるだろう、ココネとおなじ眼を持ったものが――ハイスペックな魂たちが、ココネとおなじ世界にいながらにして、異質な世界を視ているのだ。

そしておそらくは、気づかないフリをして生きている。

「ひょっとしたらクラスメイトにもいるのかな。ハイスペック魂が」

そう言ってから、ココネはうーんとうなった。なにかもうちょいサマになる呼び名はないだろうか。

――レアーズ。

「れあーず?」

ココネはぼんやりしやがら聞き返した。ぱっとしない名前だったからと、なんでそんな名前が浮かんだのか、意味がわからなかったからである。

しかしその意味不明な声はさらに続いた。自分の声が反響しているようにも感じる。

――霊級。それはかつて選ばれた者のみが持つことを許された、神にすら宿ることのない魂の性質。その性質は神を従うことすら許され、破滅をもたらさんとする魔力の王の原質回帰すらも可能とする。

それはだが、エルシアの向こうの世界にある規律ルール。もしくは宿命ルールだ。

それはだが、この世界でも同様に存在する。エルシアにより世界どうしが密接となり、お互いの世界の法則が交差したからだろう。すなわち、あちらの世界の可能性が、アニミスも魔力も存在しないこちらの世界に、それらの概念がいねんをもたらした。結果として、

「アナタのようなニンゲンも、でてくるようになったわけでスヨ。ウチカドココネさん?」

「…な…なんで…? どうして!?」

ココネの吐く白い息が、夜に混ざった。

そして姿をあらわした。

倒したはずのブキミウサギが、宙に浮いて、ココネの顔を覗きこんできた。

「あんたはソヨギさんが…!」

「ソウですね。アナタのでは、やられましたヨ。あっさり…」

「わた――」

――しの、世界…?

そして、ココネの見ている街の風景が、バラバラに砕けちった…。


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