第3話 仲良しな姉妹
山賊との初めてのゲームを終えた俺とキトは近くの町、『セントロール』に向かっていた。
「セントロールってどんな町なんですか?」
「一言で言えば、人類のための町。他の種族に飲み込まれないように食べられないように皆で守る町。まぁ、穏やかな町だよ」
「でも、何で他の種族はいないんだ?人類のためって言っても何かいるんじゃないのか?」
「それはね、私が王様になった時に遡る。詳しくは今言ってもよくわからないと思うから割愛するけど、端的に言えば戦争があったんだ」
「じゃあ、その戦争の名残ってわけ?」
「うん。……ほら、その『セントロール』にもう着くよ」
キトがそう言うと、目の前には大きな門が見えていた。その門は俺の身長をゆうに越していて名も知れぬ圧迫感を感じた。
「ねぇ、キト……ここは本当に町?帝国の間違えじゃない?」
「間違えじゃないよ。しっかりとした町だよ」
「町ねぇ……」
俺が知っている町とは違って、門の奥にはRPGでよく見る宮殿見たいのが建っていた。見るからに町と言うより1つの国と感じられた。
(キトは町って言ってるけど、実際のところは国だろう。そして、種族ごとに国は存在していて、キトはそのすべてを率いている神の立場ではないだろうか?だとすれば、キトはまだ隠していることがあるに違いない。時間をかけてでも隠しごとを明かさないとな……)
門の中に入るとそこはやはり人類しかいなかった。
場所を移してここはセントロールの宮殿。王の間の中心にあるテーブルで2人の少女がポーカーをしていた。
1人は長い金髪で青い眼をした少女。姿勢や服装から見て宮殿の者だと見て取れるのに対して対戦相手の女の子は短い銀髪に赤い眼をしていた。椅子に座る姿勢は金髪の子と打って変わって少々汚いが、服装は同じような物を着ていた。
「う~ん……負けちゃう」
「早くしてよ。待ちくたびれちゃうよ」
「せ、急かさないでよ~」
金髪の少女はそう言うと再び手にしているトランプに目線を下げた。手元にはすでに2ペアが出来ていたが確実に勝てる札じゃないため、悩んでいた。そして、銀髪の少女は手札交換を終えているのか暇そうに外を見つめていた。
「早く帰って来ないかな。リーゼお姉ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「ううん。何でもない。どう?決まった?」
「うん!」
金髪の少女は手札の1枚を捨て山札から1枚引くと仲良く2人そろって手札を公開する。
「2ペア!」
「フルハウス」
「そ、そんな……また負けちゃった」
「これで、お姉ちゃんと一緒に寝れる券ゲット」
「も、もう1回!」
「今日は疲れちゃったからまた明日やろ」
「……うん」
勝負に負けた金髪の少女が俯きながら言うと、不意に王の間の扉が開いた。急な出来事にびっくりした銀髪の少女は金髪の少女の後ろに隠れて、外を見ると見たことある人物とそうではない人物がいた。
「おかえり!キトさん!」
金髪の少女が元気よく言うと、呼ばれたキトも元気よく「ただいま!」と言った。
「元気にしてた?リナ、オルカ」
「うん!」
「……うん」
キトは金髪の少女を「リナ」、銀髪の少女を「オルカ」と呼んだ。どうやら2人とは知り合いらしい。
キトにおんぶされている金髪の女性に気づいたのか、リナとオルカが心配そうな顔をした。
「大丈夫だよ。空腹に脱水症状が重なって倒れていただけだから」
キトはそう言いながら王の間の奥にあるベッドに女性を寝かせた。
「あとは食べ物と水分を上げれば大丈夫。リナ。メイドに食事を用意させて」
「うん!わかった!」
リナは大急ぎで王の間を抜けて廊下に飛び出して行ってしまった。それに変わってオルカと呼ばれていた少女は俺の方をじっと見つめていた。
「?」
「ああ、紹介が遅れたね。この人は私の補佐をしてくれる……名前って何だっけ?」
「まだ1度も言ってませんよ。……俺の名前はハクって言う」
「まぁ、そういう訳だから別に怪しい人じゃないから警戒しなくていいよ」
「うん。わかった」
オルカはそう言うと言動とは裏腹に女性が眠るベッドに直行して行ったかと思えば今度は、食事が乗ったプレートを持ったリナが歩いてきた。その足取りは不安定でちょっとしたところに躓けば食事をばら撒くような感じだった。
「だいじょ―――」
「駄目だよハク。手を貸しちゃ」
「え?でも」
「この町は出来る限り子供が出来ることはやらせているんだ。小さいころから様々なことの経験があれば将来に役立つかも、と言ったこの町の王の考えだ。だから手伝ってはいけない。もし失敗しても、次のために考えて行動すればいいだけだから。見守ってね」
「わかった」
それからキトと2人でリナがちゃんと女性の下まで食事が持っていけるかハラハラしながら見守っていた。やはり途中で水がこぼれそうになったりと危ない場面があったがなんとかベッドまでたどり着いた。
「よくできたね。リナ」
いつの間にかベッドまで移動していたキトがリナの頭を撫でるととても嬉しそうな顔をしていた。その顔は母親に褒められた子供のような顔だった。
「あとは私に任せて」
「うん」
「わかった!オルカ、行こ!」
一仕事終えたリナはオルカの手を引いて王の間から走って出て行った。
「ほら、起きて。リーゼ」
キトは金髪の女性の名前と思われるのを言いながら体をゆすっていた。
「はぁー仕方ない」
そう言うとキトはリーゼの頬をビンタした。
「!?」
驚く俺を無視してもう一発叩くとリーゼが目を覚ました。
「あれ?ここは……」
「おはよう。リーゼ。気分はどう?」
「……え?ええええー!な、なんでここにキトさんがいるのー!」
「いや、そこまで驚かないでよ。しかも今更様付けなんてしっくりこないから昔みたいに呼んでよ1人の母として」
「……わかったわ。お母さん。」
(え?待って。俺の目の前で何が起きてるんだ?キトがリーゼとか言う女性の母親だって!?マジで!?)
そんな俺を置いて2人は2人だけの世界に入っていってしまった。なんか居づらくなった俺は王の間を出て適当にぶらついているとテラスであの2人を見つけた。
2人はポーカーをしていた。
(ポーカーか、楽しいよなあれ。どれ、少し見てくか)
俺がテラスに行くとポーカーをしていたはずのオルカがリナの後ろに隠れてこちらをじっと見つめてきた。その眼差しは恐れと言うより恐怖が感じ取れた。オルカを刺激しないようにリナに話しかけようとするとオルカの顔がだんだんと泣き顔に変わっていった。
「あっ……えっと……え?」
俺が戸惑っているとリナが助け舟を出してくれた。
「そのぉ……オルカはね?すごい人見知りでわたしとお姉ちゃんとキトさん以外には緊張しちゃうの!だから、嫌いにならないで!」
「だ、大丈夫。わかってるから。……ところで、2人はポーカーしてたの?」
「うん!お兄さんもやる?」
リナは明るく誘ってくれるが未だに隠れているオルカは少し涙で濡れた瞳でこっちを見ている。その瞳はまるで『拾ってください』と書かれた段ボールに入っている子犬みたいな感じがしたが警戒は怠っていないみたいだった。
「俺もやっていいかな?オルカちゃん」
「強い?」
「うん。強いよ」
「なら、やる。待ってて」
オルカは手にしていたトランプをテーブルに置くと宮殿の中に入っていった。
暫くすると、椅子を持ったオルカがテラスに入ってきた。その姿は先ほどのリナ同様で危なっかしかった。
「うんしょ、うんしょ……」
どうやら俺用に椅子を用意してくれているらしい。なんか申し訳なくなった俺は手伝おうとして思い出した。子供がしていることに手を貸してはいけないことに。そのため、俺はしっかり持ってくるまでリナと一緒に待つことにした。
「うんしょ、うんしょ、もう、少し……」
オルカと俺たちまでの距離およそ1メートル。目前と迫ってきたオルカの顔は疲れていた。
「や、やっと着いた!」
それからすぐにオルカはテーブルに着くことが出来た。
「よく出来たね。オルカちゃん」
俺はそう言いながら頭を撫でると「子供扱いしないで!」と言われてしまった。
「じゃあ、撫でるのはやめてゲームをしようか」
「え……そんな」
オルカは先ほどのやり遂げた自信に満ちた顔から絶望に満ちた顔に変わった。少し意地悪しただけなのにこのありさま。俺はロリコンかもしれない。
「ごめん、ごめん。嘘だよ」
そう言って再びオルカの頭を撫でると嬉しそうな顔をした。
(めっちゃ可愛い!銀髪に赤目って最強すぎるだろ!)
そう思いながら撫でていると、横から視線を感じそちらを向くとリナがうらやましそうに見つめていた。
「リナもして欲しいのか?」
「え……う~ん。……うん」
「じゃあ、おいで」
第三者から見ればロリコン間違いなしのセリフを言いリナを近くに来させて頭を撫でていると、テラスの入口からまた別の視線が感じられた。その視線の方を向くと、冷や汗が止まらなくなった。
「き、キト?な、何をしているんだい?」
「何をしてるって、こっちのセリフだよ。王女の妹を侍らせて頭を撫でてるって、君はあれか。ロリコンか」
「ち、違うし」
「へぇ~」
キトは俺を不審者か何かを見るような目で見ているとその後ろから寝ていたはずの人が表れた。
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