帰宅後
水原さんと別れた後、嬉しい気持ちで家の玄関の戸を開けていた。平常心を保とうにも初めてのことだったため、どうしてもニヤけてしまう。
こんな顔陽菜に見られたら気持ち悪がられるだろうな。
「お帰りなさーい! 今日は随分と遅かったね?」
「ちょっと同僚と買い物に行ってたんでな」
「ふーん、そうなんだ。それにしても、なんでそんなにニヤけてるの? ちょっとだけ気持ち悪いよ?」
陽菜は気持ち悪いものを見るような目で俺のことを見てきていた。
その反応を見るに、ちょっとだけ気持ち悪いというのは嘘だったのだろう。ほんとは気持ち悪いのだろう。自分でも自覚はある。
「ちょっといい事があったんだよ」
「もしかして、八城さんと?」
「そんなわけないだろ」
「だよね〜。この前振られたばっかりだもんね!」
陽菜は口を大きくニコーッと開いて嬉しそうにしていた。
そんなに俺が振られた事が嬉しかったのかよ。もう少し励ましたりとかないのかよ。
「そうだよ。もう終わった事だしな」
「って事は、今日は違う女性って事?」
「女性って言っても、職場の人だけどな」
「やっぱりそうなんだ。その人可愛いの?」
「まぁ客観的に見ても可愛いと思うぞ」
「ふーん、そうなんだ。それは良かったね」
こんな事を言っている陽菜だが、顔をみると機嫌が悪いように見える。
俺、なんか変なこと言ったか? いや、言ってないな。きっと見間違いだったんだよ。
「お、おい。どうしたんだよ。俺なんかしたか?」
「いえ、何もしてないよ? ただ、可愛いって言うんだなぁって驚いただけだよ」
「いや、陽菜にはいつも言ってるだろ? 陽菜も俺からするとすげー可愛いと思うぞ」
「そっか〜。私の事そんな風に思ってたんだ。なんだか嬉しいな!」
「いや、誰が見たって陽菜の事はそう言うだろ。事実なんだし」
「私、男性に可愛いなんて言われたの、パパが初めてだよ?」
「まぁ、高校生なんて思春期真っ只中だからな。そーゆー事面と向かって言うのは恥ずかしいんだろ」
まぁ俺は中・高と男子校だったため、そんな事を言う事など一度もなかったんだがな。だから、今の高校生がどんなもんかはわからんが、それでも恥ずかしいもんなんじゃないだろうか。
「そーなのかな? よくわからないね!」
陽菜は首をフリフリさせて、ハァーッと少しため息が出ていた。なんなら、呆れているようだった。
「そーゆーもんだよ! 陽菜だって、クラスでカッコイイ人とかいても、その人にカッコイイね! とかって言えないだろ?」
「うーん? 私のクラス、カッコイイ人いないんだよね〜」
「そんな事はないだろ。1人・2人くらいはいるだろ?」
「ほんとだって! 私からすると、だけど」
「なるほどな。そーゆー事ね」
「ほんと、男子ってなんであんなに胸ばっか見てくるんだろっていつも思うんだよね! どう見ても下心丸出しだし」
陽菜は頰を膨らませて少し怒っているみたいだった。
「目が胸にいくのは男なら誰でもあるし、しょうがない事だな」
「もしかして、パパも見てるの?」
「そりゃーな。と言っても、それは高校生までだったけどな」
「ふーん。パパも胸大好きなんだ〜。変態だね〜!」
「男なら誰でも胸見ちゃうって言ってるだろ? ましてや高校生なんだぞ? お盛んな時なんだから、そりゃーしょうがないさ」
「それはわかったんだけど、やっぱり見られるのは嫌だよ。男子達に見られても興奮しないし」
「いや、判断基準がおかしいだろ。なんだよ興奮しないって。学校でもそんな事考えてるのか?」
ここまでの変態だったとはな。
女性の方が男性よりも6倍変態だってのはあながち間違いじゃないかもな。
陽菜をみると、あたふたとしていた。
「いや、そんな事学校で考えるわけないよ! さっきは言い間違い! よくあるよね?」
「いや、そんな間違いがよくあったら、それこそ問題だぞ?」
「と、とにかく、そーゆー目で見られるのが嫌なのっ! 嫌悪感さえ抱いちゃうのっ! だから、クラスの男子には興味ないんだ〜」
陽菜はこの話を早く終わらせたかったのだろう。結論を出していた。
それにしても、男子に興味ない、ねぇ。まぁ陽菜なら、いつでも彼氏の1人や2人できるだろうし、心配する必要ないか。むしろ、心配するだけ無駄だろ。
「女性も大変なんだな。でも、これだけは言っておく。高校生のうちに恋愛はしておいた方がいいぞ」
「どうして?」
「……俺みたいになっちまうからな。こうなりたくなければ、早めのうちに恋愛はしておくんだな」
「なら私はパパと同じ道歩もっかな! 胸にしか興味ない男子と付き合いたいとも思ってないし!」
「そ、そうか。まぁ陽菜の人生だ。後悔しないようにな」
「うん! あっ、それで、弥生ちゃんと一緒に3人で遊ぶって言ってたよね? それ、土・日だとお金かかっちゃうから、日曜日だけに変更になったよ!」
「了解。どこに行くかも決めてあるんだろ?」
「うん! 動物園に行こうかなって思ってるんだ! ほんとは遊園地とかに行きたかったけど、お金結構かかっちゃうし」
ったく、遊園地に行きたいって言うならそう言えばいいだろうに。お金の事など心配しなくていいのによ。
というか、遊園地に俺が行きたい。なにもかも忘れて遊び尽くしたい。そうと決まれば俺から提案してみるか。
「……遊園地か。遊園地なんて修学旅行以外で行ったことなかったし、遊園地にするか?」
「えっ? いいの? お金結構かかっちゃうよ?」
「お金の事は気にすんなって」
「で、でも」
「もっと俺に甘えてくれていいんだからな? お金なら独り暮らしの時に使い道なくて貯めまくってたから、たんまりあるし気にすんな」
そう言って陽菜の頭を少しだけ乱暴に撫でる。
陽菜をみると『やめてよ〜』とは言っているが、嬉しそうだ。
「勿論、弥生ちゃんの分のチケットも心配しなくていいぞ。俺が買うからさ」
「な、なんでそこまでしてくれるの?」
「遊ぶときはみんなで遊んだ方が楽しいだろ? 折角俺とも遊びたいって言ってる弥生ちゃんだし、1回くらい奢るのもありだろ。それにチケット代だって高校生からしたら痛い出費になるだろうし」
「ううん。今回はバイトもしてたから、私たちのチケットは私たちで買うよ。パパは自分の分だけ買ってくれればそれで大丈夫!」
「そ、そうか」
もしかしたら、陽菜がバイトしてる理由も、これ以上俺に迷惑かけたくないからって事なのかもな。
全然迷惑だって思った事なんてなかったんだがな。
「うん! なら日曜日朝から遊園地に行こうね! 弥生ちゃんにも言っておくね!」
「おう。そうしてくれ。そんじゃ、そろそろ寝るとしようかな」
「私も寝よっかな」
俺たちはいつも通り同じベットの中に入る。毎度の事ながら、陽菜は抱きついてくる。さっきまで胸の話をしていたため、意識するかと思いきや、今日はその感触が心地よく感じ、すぐに眠りにつく俺であった。
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