帰り道

会社を出たところで、後ろからコツコツと足音が聞こえてきた。薄暗いところだし、なんか少し怖いな。


「秋本さーん! 一緒に帰りましょう!」


誰かに肩をチョンチョンとされ、声をかけられたため、ビクつきながらも振り返る。


「ギャー!!!」


変な声が出たが許して欲しい。それくらい怖かった。だって、暗くて目元見えなかったんだぜ? 変な声も出ちまうだろ。


「ギャー! って。秋本さん驚き過ぎです」

「な、なんだ。水原さんか」

「流石にあんなに驚かれると、ショックですよ」

「悪い悪い。暗くて顔がはっきり見えなかったからな。幽霊だと思ってよ」

「なっ! 私を幽霊扱いするなんて酷いですよ!」

「す、すまん。それはそうと、なんで俺のところに来たんだ?」

「な、なんでって秋本さん、凄い悔しそうな顔で野田さんと八城さんの事見てたのでなにかあったのかなぁって思いまして」


なに、俺そんな顔で2人を見てたの? 自覚してなかったんだが。

……心では応援してるつもりだったし、理解してるつもりだったんだが、顔の表情までは自分ではどうする事も出来なかったって事か。よく言う無意識の内にってやつか。


「まぁな。色々あったんだよ」

「なにがあったんですか?」

「……ちょっとな」

「もしかして振られたとかですか?」

「……それもある。まぁそんな事はどうでもいい」

「振られたんですか。ふーん、ほー」


なんか水原さん、嬉しそうなんですけど。

そんなに俺が振られたのが面白かったのだろうか。


「……振られた事は別にいいんだよ」

「なら、なんであんな顔してたんですか?」

「……さあな。自分でもわからん」

「そうですか。ならこれ以上聞きません」

「……ありがとな」

「なにかあったら相談してください。私じゃ力になれないかもですけどね」


あははと笑ってる水原さんを見ると、俺はいい後輩を持ったなぁと思う。


「おう。そうさせてもらうわ」

「はい! いやぁ、秋本さんの顔怖すぎて、殴りかかるんじゃないかと思っちゃいましたよ」

「俺の顔そんなに凄かったのかよ」

「そうですよ〜。もうそれは凄かったです」

「ははっ。そんなにか」

「そんなにです。そうだ! どこか寄って行きません?」

「どこかってどこだよ」

「ん〜、スーパーでご飯買って行きましょうよ」

「それもそうだな。そんじゃ行きますか」


ほんとは家に帰れば陽菜が作ってくれているご飯があるのだが、陽菜の事を言うわけにもいかないしな。


「秋本さんって普段お弁当じゃないですか? 自分で作ってるんですか?」

「そうだよ。っていうか、作ってくれる人もいないし自分で作るしかない」

「それはそうでしたね。なんかこう、男の人の料理ってもっとワイルドだと思ってました」

「どーゆー意味だよそれ」

「なんかお肉をのっけただけのスタミナ弁当とかだと思ってました。まさかあんなに女の子っぽいお弁当を作ってるとは思いませんでした」


作ってるのは女子なんだがな。とは口が避けても言えない。俺が作ったら、水原さんが言ってた通りの弁当しか作れん。


「健康第一なんでな。野菜もとらないと」

「健康は大事ですもんね! いいことです!」

「おう」


十数分歩き、やっとスーパーに着いた俺たちは、スーパーの中を歩き回っていた。


「そういや、水原さんって自炊してるのか?」

「してますよ? お弁当ばかりだと身体に悪いですし、何よりお金かかりますし」

「へぇ〜、凄いな。って事はあの弁当も自分で作ってたのか」

「そうですよ!」

「美味そうだったし、料理上手なんだな」

「そうですかね? あっ、なら明日少しお弁当のおかずあげましょうか?」

「いいのか?! サンキューな」

「はいっ!」


会話をしながら、買いたいものを籠の中に入れていくと、結構多くなってしまった。

まぁ陽菜の買い物する量も減らせるだろうし、よしとするか。

ふと水原さんの籠の中を見てみると、水原さんも結構な、量を籠の中に入れていた。

会計を済ませ、スーパーを後にする。


「いやー、結構買っちゃいましたね! これなら1週間は買わなくてもいいかもしれないです!」

「そうだな。袋3つになっちまってるしな」

「安かったのでたくさん買っちゃいましたよ。今日セールの日だったなんて思いませんでした」

「確かにな」


会話をしながら帰路につく俺たちだったが、駅に着いたため、別れる。


「今日はありがとうございました! 今度またご飯でも食べに行きましょうね!」

「おう。また今度な」

「それと、今週の日曜日、遊びに行きませんか?」

「悪いな。その日は用事があるんだわ。いつになるかわからんが、近いうちに遊ぼうぜ」

「なら、近いうちに遊びに行きましょうね!」


そう言って水原さんは小指を出してきた。それに合わせて俺も小指をだし、水原さんの小指と絡めた。


「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます! ゆびきった! 忘れたら本当に飲ませますからね!」

「ははっ。それは嫌だな。ならちゃんと守らないとな」

「そうですよ! それじゃ、そろそろ帰りますね! また会社で!」

「おう。またな」


水原さんが電車に乗ったのを確認してから俺も帰る。

少し歩いたところで立ち止まり、さっき水原さんと絡めた小指を見つめた。


「……指切りげんまんなんて、初めてしたな」


そんな事をつぶやき、少し嬉しくなった俺であった。








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