お泊まり

 仕事を終えて家に帰ると、仁王立ちした陽菜がそこにいた。

 腕組みをして、目つきがいつもと違っていたため、ただならぬ事があったんじゃないかと思ったが、思い当たる節が俺にはなかった。


「パパ〜、ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」


 陽菜が猫なで声で言ってくるため、思わず後ずさりした。

 こんな声今まで一度も聞いたこともなかったため、鳥肌が立つ。

 これ絶対になんかあったっていうのはわかるのだが、それがなんなのかがわからん。

 まぁ聞いてみるしかないか。


「ど、どうしたんだ? 何かあったのか?」


 冷静に言えた俺を誰か褒めて欲しいくらいだ。

 それほどまでに変な緊張感があった。


「あの、今日お友達が泊まりたいって言ってるんだけど、泊まっても大丈夫?」


 思っていた事と全然違い、ホッとする。

 てっきり高級な物でもねだられるのかと思っていたが、そうじゃなかった。いや、寧ろ子供ができたから、産んだら一緒に育て欲しいな! くらい言ってくるもんだと思ってた。

 よく考えたら最後のやつなんて、絶対にあり得るわけないんだが、陽菜の顔がいつになく真剣だったため、思考が変な方向にいってしまった。

 それに陽菜は彼氏いないって言ってたし、今までもいた事ないって言ってたから、その辺は大丈夫だろう。


「別にいいけど、この家狭いけど大丈夫か?」

「大丈夫だよ!」

「何が大丈夫なのかわからないんだが? 第一、寝るときとかどうすんだよ!」

「3人で一緒に寝れば問題ないよ!友達もそれがいいね! って言ってたし」


 どう考えてもその友達は言っていないと思うのだが。

 まさか陽菜レベルの変態とかが来るのか?

 それはそれで問題なんだが。できれば普通の子が来て欲しかった。


「い、いや、流石にそれはまずいだろ。第一3人も寝れるだけベッド大きくないだろ」

「抱きつきながら寝るから大丈夫! 私とパパが抱きついて寝れば3人で寝れるよ?」


 なんか陽菜が親指立ててドヤ顔しているんだが。

 ドヤ顔するような事1つも言っていないんだが。


「いやそれ完全にアウトだろ。いーよ、俺前買った布団に寝るから、ベッドは友達と使ってくれ」

「……はーい」

「汗臭いかもしれんが、そこは勘弁な」

「全然大丈夫だよ! 昨日もお布団は干してたからね!」

「それなら安心だ」

「うん! それじゃ、ちょっと友達に連絡して来る!」

「おう。って、その友達この家の場所知ってるのか?」

「うん、知ってるよ? ちゃんと教えといたから!」

「それならいいんだが」

「うん! なら今から呼ぶね!」

「わかった」


 そう言って陽菜は友達に電話していたがしていたが、少し心配だ。

 少しだが暗くなってるし事件に巻き込まれてないといいが、まぁ大丈夫か。





 数十分待っていると、ピンポーンと呼び出し音が鳴った。

 鳴ったと同時に陽菜が動き出していた。

 反応早すぎだろ。人ってあんなにすぐ反応できるもんなのか?

 陽菜が扉を開け、中に友達を入れていた。

 もう少しで会うとなると、な、なんか緊張して来る。


「お邪魔します!」

「お、おう。よく来てくれたね。まぁ適当に座ってくれ」

「はい。わかりました!」


 なんかニコニコしてるんだが、なんでだろうか。

 というか、こんな可愛い子と陽菜は友達なのかよ。すげーな。


「この子が、私の友達の弥生ちゃんって言うんだ! パパの事唯一話してるんだ〜」


 陽菜からの紹介で名前がわかったが、できれば苗字の方を教えて欲しかった。

 下の名前だけじゃそっちで呼ぶしかなくなるじゃねーかよ。


「さっき陽菜ちゃんからの紹介にあったように、私は弥生って言います! 陽菜ちゃんから秋本さんの話聞いて興味湧いたので、泊まりに来ました! よろしくお願いします!」

「お、おう。俺は秋本って言います。まぁ陽菜が俺の事なんて言ってるのかわからんが、よろしく頼む」

「はい。凄いかっこいいって聞いてましたが、ほんとにかっこいいですね!」


 どこをどう見たらかっこいいと言う発想にいたるのかわからない。

 まぁこれも社交辞令だとは思うが、言われて悪い気分にならないはずもない。


「それはないだろ」

「いえ、とてもかっこいいです!」

「そ、そうか。まぁ遊ぶものもほとんどないがゆっくりしてくれ」

「はい!」


 俺はそう言って台所に向かった。気まずいっていうのもあったが、お茶でも淹れたほうがいいと思ったからだ。


「陽菜ちゃん、これからどうしよっか?」

「うーん、とりあえず、お風呂でも入る?」

「それいいね! 陽菜ちゃんと入れるなんて最高だよ!」

「へんなところ触ったら私も触るからね?」

「なら、触りっこでもしよっか」

「楽しそう! 早く行こっ!」


 2人が話しているのが聞こえたが、何かがおかしい。なんか、親父がセクハラする時みたいな発言が弥生ちゃんの口から聞こえてきたんだが、なにかの間違いだと信じたい。

 そんな事を思っていると、陽菜と弥生ちゃんが風呂場に向かっていた。

 なんか、もう1人陽菜が増えた気分だな。まぁ後はご飯食べて寝るくらいしかないから、もう少しの辛抱だろう。





「パパ! 弥生ちゃんの肌凄い綺麗だったよ! すべすべで気持ちよかったし他の場所も最高だったよ!」


 陽菜達がお風呂から出てきた大一声がこれである。

 ほんと、どこのエロおやじですかって感じなんだが。


「陽菜、なんて事言ってんだよ。弥生ちゃん、ごめんな。陽菜がこんな変態でよ」

「いえ、大丈夫ですよ! 寧ろ私も色々触りましたし!」

「そ、そうか。まぁ陽菜はあんな感じだけど、これからも仲良くしてくれると助かる」

「はい! 陽菜ちゃんの事は任せてください!」

「おう。そんじゃ俺も風呂入ってくるわ」

「行ってらっしゃい!」


 弥生ちゃんに一言そういい、俺も風呂場に向かった。


「ふぅ、やっと落ち着ける。でも、陽菜が友達を家に連れてくるとはな。あんま友達の話とか家出してくれないから心配だったが、ちゃんといて嬉しい限りだな」


 湯船に浸かりながら1人そうごちた。


「弥生ちゃんも、少し変態だが、話した感じ優しそうだし、安心した。陽菜みたいにアクセル全開でこられたらやられたな」


 ははっ、と乾いた笑いが風呂場に広がった。


「さてと、そろそろでるか」


 そう言ってでると、ご飯が並べられていた。

 なんかすげー豪華なんだが。


「パパ、ご飯の準備できてるから、食べよ?」

「そうだな。にしても、凄い豪華だな」

「えへへ、弥生ちゃんと一緒に作ったんだよ! 味には自信があるから!」

「いつも食べてるからわかってるよ。弥生ちゃんもありがとな」

「いえ、そんな。料理するのは楽しかったんですが、美味しいかどうかはわかりませんよ?」

「そこは気にしないよ。作ってくれるだけでもありがたいからな」

「あ、ありがとうこざいます!」

「そんじゃ、食べますか!」


 いつもより華やかな食卓だったが、陽菜の学校でのこととか、俺のこととか、弥生ちゃんのこととか色々な話をしながら食べたご飯は、いつもより最高だった。




 ご飯も食べ終わり、後は寝るだけになった。


「陽菜。そろそろ俺は寝るけど、電気とかちゃんと消しといてくれよ?」

「うん、わかった〜。おやすみ〜!」

「おう。おやすみ〜。陽菜も弥生ちゃんも、早く寝るんだぞ?」

「うん、もう少ししたら寝るよ〜」

「そうか」


 そういって、俺は布団を引っ張りだしてくる。前自分用にと買ったが、結局使わず客用になっていたのだが、まさか俺が使うことになるとは思わなかった。

 よかった〜、自分用にと思っていいの買っといて。

 布団を敷いて、俺は眠りにはいった。

 目が覚めたとき、驚くことになっているとは、この時の俺は思わなかった。


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