家でのひと時 2

「そういや、学校でもそんな感じなのか?」


 ふと疑問に思い、聞いてみた。

 家で変態な事ばかり言っている感じなら、学校でもそうなんじゃないかと不安になってくる。


「言うわけないじゃん。そもそも、誰かとそんなに話さないし」


 なんか悲しい答えが返ってきたんですけど。

 友達いないとかっていうオチなら聞きたくなかったんだが。


「……友達、いないのか?」

「ちゃんといます〜! 男子とそんな話さないだけで、女子とは何人か友達いますから〜!」

「それならいいが。てっきり学校では男子にモテてると思ってたんだが」

「私がモテるわけないよ。可愛い子沢山いるんだしね!」

「俺からすれば、客観的に見ても陽菜は可愛いと思うんだが。俺が同い年なら話しかけてたかもな」


 寧ろ、可愛すぎて近寄り難い存在なのかもしれないな。

 同じクラスに1人だけアイドルがいて、話しかけづらいみたいな感覚とほとんど同じだろ。陽菜はそこら辺のアイドルより可愛いし。


「私が可愛いって、そんな事ないよ。でも、パパに可愛いって言ってもらえて嬉しい!」


 陽菜は満面の笑みで俺の方を見た。

 凄い喜んでいるという事が伝わってくる。


「陽菜はもっと自信持っていいと思うぞ?」

「自信持てっていわれても……」

「自分の顔、鏡で見たことあるだろ?」

「それはまぁ、あるけど」

「自分の顔、どう思った?」

「中の下ってところじゃない?」

「はぁ。陽菜は誰が見ても上の上なんだよ。確かに、自分の顔を自分で可愛いって思う人はいないと思う。だが、少しは私イケてる! って思ってた方がいいんだからな? どんな人でもよ」

「パパは自分に自信あるの?」

「俺か? 俺の場合、見た目だけの問題じゃなくなってくるからな」

「自信ないんじゃん」

「ただ、ありのままの自分を、自分だけは肯定してやらないとな。全てひっくるめて俺なんだからよ。そこだけはちゃんとしてるつもりだ」

「そうなんだ。少しだけでも自信持つようにするよ」

「ていうか陽菜が、私そんなに可愛くないよ、なんて言えば逆にムカつくんだが」

「そ、そうなの?」

「おう。嫌味にしか聞こえてこないからな」


 陽菜が可愛くないなら、クラスの大抵の人は可愛くないって事になっちまうだろうし。


「そうだったんだ」


 若干ショックを受けているのか、陽菜は下を向いたままだ。

 そんな落ち込む必要なんてないのにな。


「ま、まぁこの話はこの辺で終わりにしようぜ」

「そうですね……」


 なおも落ち込んでいる様子の陽菜だが、さっきと違うのは、ちらちら俺の方を見てきている事だ。なにかをして欲しいのだろうか?

 もしかして頭を撫でて欲しいとかか? それとも抱きしめて欲しいのか? うーむ、分からん。

 まぁ頭撫でるくらいはしても大丈夫だろ。もしなんか言われたら謝るだけだしな。

 陽菜に近づいて頭を撫でようとした瞬間、思いっきり抱きしめられた。


「パパ〜!」


 そう言って陽菜は俺のお腹に頭をすりすりしてくる。

 なんか小動物みたいで可愛いな。

 自然に俺の手は陽菜の頭を撫でていた。


「ありがとうございました。少しだけ元気でたよ!」

「そりゃ〜よかった。1つだけ言っておくけど、むやみやたらに人に抱きつくなよ?流れでキスとか、その先まで迫られるかもしれんからな」

「大丈夫だよ。パパ以外に抱きしめてもらいたくないもん! だから、そんなことにはならないよ!」

「学校の男子とかで好きな人とかいないのか?」

「いないかなぁ〜。気になる人もいないかな」

「そ、そうか」


 男子諸君、ご愁傷様です。どんなに好意を持ってたとしても、付き合える可能性ゼロだな、こりゃ。


「そろそろシャワーでも浴びて寝ようかな」

「ご飯は食べないの?」

「今日はいいや」

「なら私も寝ようかな」


 わざわざ俺の行動に合わせようとする陽菜。


「別に俺の行動に合わせなくていいからな?」

「えっ? なに言ってるの? 私も眠いから寝るって言っただけだよ?」


 陽菜は、なに言ってんのこいつ。みたいな顔をして俺のことを見つめていた。

 やべーよ。めっちゃ恥ずかしいじゃねーかよ。なにが『真似しなくていいぞ?』だ。気持ち悪すぎだろ、俺。

 はぁ、リセットできねぇかな。


「……シャワー浴びてくる。先に寝ててもいいぞ」

「私もシャワー浴びたいので、まだ寝ないよ〜」

「そうか」

「はい!」

「なら行ってくる」


 そう言って俺は、風呂場に向かった。




「あがったぞ〜」


 さっきまで恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが、シャワーを浴びているうちになんとか気持ちを落ち着かせることができた。

 濡れた髪を乾かすため、ドライヤーを使う。

 流石に髪が濡れた状態だと寝ることもできないしな。

 いい感じに乾いてきたため、寝る準備をしていると、陽菜が出てきていた。

 ていうか、出てくるの早すぎだろ。まだ時間にして15分も経ってないと思うんだが。


「出るの早くねーか?」

「お風呂なんてこんなもんですよ? シャワーだったので、お風呂と違って湯に入らないから、その分早くなるよ!」


「へ〜、そうなのか。てっきり高校生とかって最低でも1時間は入ってるイメージだった」

「そんなに入ってたら、ふやけちゃうよ! 半身浴なら1時間くらい入る人もいるみたいだけど、私は半身浴なんてしないので、そんなに入んないよ?」


 俺の発言に対し、すげー笑いながら話してくる。

 女性の入浴時間なんて、聞く相手もいなかったし、知るわけないだろ。ていうか、俺そんなにおかしな事言ってなかったと思うんだが。


「なるほどな。にしても意外と出てくるの早かったな」

「髪と身体洗うだけなので、そんなに時間かからないよ? シャワーでも長く入ってる人もいるだろうけどさ」

 「そんなもんか」

 「はい! そんなもんです!」 


 とびきりの笑顔で力強く言ってくる陽菜にちょっとドキッとする。


「……まぁいいや。俺もう寝るな。ちゃんと髪乾かしてから寝ろよ?」

「ならパパが私の髪乾かして欲しいなぁ」


 ……今なんて言った?

 俺の聞き間違いじゃなければ、『髪乾かして』と聞こえたんだが。いや、なにかの間違いだ。そうに違いない。とりあえず、無視だな。


「パパ〜。聞こえてた〜?」

「お、おう。ちゃんと聞こえてたぞ? 聞こえていた上で無視したんだが?」

「なんで無視するの? 乾かしてよ〜」

「自分で乾かせよ。俺はもう寝る」


 今度こそ、陽菜を無視して寝る事にした俺は、ベッドに向かった。

 後ろの方でぶーぶー文句を言っている陽菜だが、諦めたみたいだ。

 最近疲れていたので、ゆっくり寝ようと心に決めてベッドに入った俺であった。




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