家でのひと時 1
「じゃーん!」
今日買ってきたアデダスのパーカーを着て俺に見せてくる。よほど嬉しかったのかその場でくるっと回ったりしているが、部屋着くらいでそんなにはしゃぐ必要はないと思うんだが。
「たかが部屋着ぐらいで、そんなはしゃぐなよ」
「パパとお揃いだから嬉しいんです〜!」
「そ、そうか。……ってそのパパって言うのやめてくれよ」
「えっ……だめですか?」
急に泣きそうになったため慌てて訂正する。
「せ、せめてお父さんって呼んでくれ」
「はい。わかりました、パパ」
流石にわかってくれたと思った俺だったが、その考えが甘いということを思い知った。
何が『わかりました』だよ。全然わかってないじゃんか。少し期待した俺が馬鹿じゃねーかよ。
俺はがっくりと肩を落とした。
そもそもお父さんっていうのもおかしな話だとは思うがな。
「……はぁ、もうそれでいい」
「はい!」
「ならよ、敬語も無しにしてくれ。パパって言われてんのに、その後敬語で会話されるとなんか変だしな」
「い、いいんですか? 私大分歳下ですし、他人ですよ?」
さっきまで俺の事をパパと呼んでいたやつとは思えない返事が返ってきた。
普通に考えたら、この反応が当たり前なのだろうが、今までが今までだったからな。
「この前も言ったが、俺と陽菜は家族なんだって言ったよな? そりゃー俺たちは他人だろうけどよ。今は違うだろ? だからよ、他人なんて言うなよ。悲しくなってくるだろ」
「ご、ごめんなさい」
急に抱きついてきたため何事かと思い陽菜をみると、俺の胸の中で泣いていた。
俺はそれを引き剝がさず、ずっと陽菜の頭を撫で続けた。出来るだけ優しく撫でていると、だんだんと泣く音が聞こえてこなくなり、安心する。
「あ、ありがとうございます。……もう少しこのままでもいいですか?」
「たく、しょうがねぇ〜なぁ〜」
抱き合っている状態で言われたため顔が近い位置にある。
よく見るとまつ毛長いな。それに肌も綺麗で唇も柔らかそうだ。
俺の意識は完全にそれにいっていた。
「パパ、パパ、パパ〜!」
俺の心情など
たく、こんなに甘えん坊だと困ったもんだな。まぁ見た目的にはまだ中学生でも通用するためいいかもしれないが、高校生なのだからここまで甘えんだろ、普通。
「何やってんだよ」
「何って、ハグして顔をすりすりしてただけですよ? そ、それに少しでも私の匂いがついてくれたらなぁ〜って」
最後になるにつれて声が小さくなっていたため、後半は聞き取ることができなかった。
まぁ、甘えてくれてるってことは、俺の事少しは家族って思ってくれてるって事だろうし、そこは素直に嬉しい。
「あとよ、さっきも言ったようにこれからは敬語なしな」
「ほんとにいいんですか?」
「おう。むしろそうしてくれ」
「わかった! ならこれからは敬語やめますね!」
陽菜は遠慮がちに言っていた。
そんな遠慮する必要ないんだけどな。もう少し子供らしく、
まぁおいおいそうなってくれればそれでいいか。
「無理そうなら今まで通りでもいいからよ。気軽にな」
「うん、そうする!」
「おう。っと今日受け取った荷物でも開けるとするか」
「そういえば、パパは何を買ったの?」
「何って、布団だよ」
「布団必要ないよね?」
なんで布団を買ったのかわからないというような表情をしていたが、何かに気づいたのか『なるほど』と言って手をポンと叩いていた。
「なんで買ったのかわかったか?」
「はい! 来客用でしょ?」
見当違いな事を言ったため、違う意味でびっくりした。
確かに来客用って思うかもしれないが、ベッドが1つしか無いんだから、普通に考えれば分かる事だろ。寧ろわかって欲しかった。
「いや、これ俺用だから」
「えっ?! パパには必要ないよね? 私とこれからもずっと一緒に寝てくれるんじゃないの?」
「いや、それは布団を買うまでの話であって、布団を買ったら一緒に寝なくていいだろ?」
「そ、そんな」
この世の終わりのように顔を青くさせ、膝から崩れ落ちていた。
その姿を見た時心が一瞬ぐらついたが、流石に毎日一緒に寝るのもどうかと思い、なんとか踏みとどまる。
「陽菜はこれからもベッドで寝てくれて構わないからな? 俺は布団で寝るからよ」
「えっ? なんでそうなるの?」
「いや、普通に考えて今までがおかしかっただろ?」
「全然おかしくないよ! 寧ろ毎日一緒に寝たい!」
陽菜は目をキラキラさせながら拳を握っていたが、どう考えてもおかしいだろ。普通、思春期の女の子ってのはそういうの気にするもんなんじゃないのかよ。
「ダメなもんはダメだ。もう少し自分が女の子だって事自覚しろ」
「私は、自分が女の子だって自覚してるよ!」
「なら一緒に寝たいなんて言うな」
「なんでそんな事言うの? パパと一緒に寝たかっただけなのに」
陽菜は今にも泣きそうになっている。
なんか陽菜を見ていると、精神年齢が小学生で止まってるんじゃないのかと思えてくる。
あれが演技だとしたらとんだ小悪魔だが、演技に見えないし、何よりがち泣き一歩手前だ。
両親が生きていた時もあまり構ってもらえず、甘える事を知らなかったのも原因の1つだとも思うがな。ここは大目にみるか。
「たく、しょうがねぇーな。陽菜は甘えん坊だな」
「えへへ」
誰が見てもわかるくらい、満面の笑みを浮かべていた。
「ただし、条件がある」
「条件って?」
「抱きついてくるの禁止な」
「えっ? なんで?!」
陽菜は抱きつくのが当たり前だと思っていたのか、びっくりしたような顔をしていた。
びっくりなのは俺の方なんだが。まさか抱きつくのが当たり前だと思ってたなんてな。
将来が心配になってくる。
「逆に聞くが、最初っから抱きついていいなんて言ってないからな? そもそも一緒に寝ることそのものがおかしいからな?」
「そうなの?」
「当たり前だろ!」
「でも、それって大体は思春期で親と寝るのが恥ずかしいからっていう理由だよね? 私、別に恥ずかしくないよ?」
「いや、それでも何かと問題があるだろ」
「家族ならなんの問題もないよね?」
それを言われると、何も言えない。
俺も母親と一緒に寝てたしな。というか、家が小さいため自分の部屋がなかったから、一緒に寝るしかなかったと言った方が正しいんだが。
そもそも本当の家族なら全然問題ないんだが、俺と陽菜は
何かあってからだと手遅れになる。
「問題しかないだろ。もし俺が抑えきれなくて、手だしたらどうすんだよ」
「寧ろウェルカムだよ。私はパパになら犯されても嫌じゃない。寧ろ犯して」
陽菜がとんでもない事をさらっと口走ったため、軽く頭を叩く。
陽菜は俺に頭を叩かれたため、『痛っ!』と言ってるが関係ない。
「よく聞けよ。簡単に犯されてもいいなんて言うなよ。ここにくるまでの陽菜のことは何も知らないが、もっと自分を大事にしてくれ」
「……わかった。もう言わない」
「陽菜はめちゃくちゃ可愛いんだからこれから好きな人とそーゆーのだって経験できるんだからよ。好きでもない相手にそんな事言うなよ?」
「私、パパのこと大好きなんだけどな」
陽菜は俺に聞こえないような小さい声でぼそっと何かを言っていた。
「なんか言ったか?」
「パパは優しいなぁって」
「そ、そうか。にしても陽菜はちょいちょい変態発言するが、誰から聞いてんだよ」
「お父さんがいろんなこと教えてくれたんだよ。男の人は何が好きなのかとか他にもたくさん教えてもらったんだよ!」
陽菜は嬉しそうに話てくる。
俺からしたら全く喜ばしい事じゃないんだが。
ていうかお父さん、陽菜になんて事教えてんだよ。全部貴方の仕業だったのかよ。なんて事してくれてんだ。
陽菜のお父さんが、どんな人なのか、ちょっぴり気になる俺であった。
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