親戚との対話

「あなたが陽菜を連れ出したのね! 警察に通報しますよ!」


 何故か俺が陽菜の親戚の方に会った瞬間、通報されそうになっているんだが。

 はたから見たら誘惑犯だと思われてもおかしくないが、流石に携帯はしまってください。お願いします。

 写真を撮ってる人もいるが、それは警察に持って行くときの証拠かなにかなのだろうか。

 ほんと勘弁してほしい。話し合いの前に、お縄につきそうなんですけど。


 隣で陽菜は不安な顔で俺のことを見ている。それを俺は、心配いらんという意味を込めて、頷いた。それが陽菜に通じたのだろう。若干安心したような顔になっていた。


「すみません。俺がここにきたのは陽菜についてなんですけど」


 俺が一言いうと、さっきまであんなに騒いでいたのが嘘のように急に静かになった。

 静かになってくれたおかげで、話しやすくなったな。


「先程も言ったように陽菜についてです。昨日、夜といっても夜中の0時を回ってたんで、今日なんですけど、陽菜が外走ってたんですよ。それもなにかから逃げるような感じで」


 そこまでで区切ると、陽菜の親戚の方たちはなにか思い当たる節があるのか、動揺していた。

 いい感じだ。この調子なら確実に引き取ることができる。

 ついでに録音もしている。後で訴えられたらめんどいしな。


「その後、車に轢かれそうになったの、知りませんよね? 流石にその場にいた俺も、酔っていたとはいえ、助けるのに必死でしたよ。そのおかげで酔いなんか冷めちゃいましたけどね」

「そ、そんな訳ないだろ。なら、なんで陽菜と君は車にかれていないんだよ」


 苦し紛れに言ったような言葉を発していたが、目の焦点が合っていないあたり、本当はわかっているはずだ。


「轢かれる前に車が止まってくれたんですよ。そもそも、そんなにスピード出ていなかったので、簡単に止まれたみたいなんですよ」


 普通に考えれば、急に止まれるとは思わないが、元々交差点のところで止まろうしていたのか、結構前からブレーキをかけてくれていたため、轢かれることを回避できたのかもな。


「……」


 それっきり、親戚の方たちは黙ってしまったため、そこを更に畳み掛ける。


「それに、陽菜を施設に送るって言ったんですよね?」

「ああ、言ったが。それがなんだっていうのかね?」

「それは陽菜が施設に行きたい! って言ったんですか? それとも陽菜にはなんの説明もなしに、勝手に決めたんですか?」

「俺たちで勝手に決めた。そもそもこちらにも事情というものがあるし、なにより、赤の他人にうちの事情に口をだして欲しくないんだが」


 ここがチャンスだとでも思ったのか、言いたいことを言ってくる。

 大人の都合だけで勝手に決めたことに腹が立ってくる。それこそ大人のエゴだ。


「確かに、あなた方にも事情があるのはわかります。それに赤の他人の俺に口だしされるのも腹がたつっていうのもわかります。だけど、あなた方が真剣に陽菜のことを考えてないってことだけは理解できました」

「私たちも陽菜の事きちんと考えたさ」

「部屋からいなくなってた事にも気付かず、また心配する素振りすらみせていないのに考えてるっていえるんですかね?」

「……」


 まただんまりか。

 そろそろ腹が立ってくるんだが。

 自分たちに都合がいい事は話すが、都合が悪くなるとだまりこむとか小学生かよ。

 俺より年上なんだから、もう少ししっかりとした人たちなんだと思っていたが、どうやら違ったみたいだ。


「そこで提案なんですけど、陽菜の事は俺が引き取りますよ。施設に行かせるくらいなら俺が面倒みます。今日の朝、陽菜にも承諾しょうだくしてもらいましたし」

「……わかった」

「ありがとうございます。なら今から陽菜と話してやってください。陽菜が心変わりして、あなた方と一緒にいたいと言うのであれば、と謝罪して、すぐにでも帰ります。ですので、きちんと陽菜と話してやってくれませんか?」

「……わかりました。話してみます」


 陽菜たちが話し込んでいるうちに俺は誰にも気付かれないようにほっと息を吐き出した。

 流石に疲れた。今日は早く帰ってゆっくり寝たい。

 しばらくぼーっと待っていると、陽菜が笑顔で俺の方によってきたのでしっかりと伝えられたのだろうと察した。


「きちんと、言いたいこと言えたか?」

「はい! 秋本さんのおかげで言いたいこと全部言えたのでスッキリしました!」

「それはよかったな」


 きちんと言えたと聞いて、少しホッとした俺がいる。


「これからよろしくお願いしますね?」

「こちらこそ、よろしく頼む」

「はい! それじゃ買い物に行きましょう!」

「今からか? めんどいんだが」

「今からです! 食材買わないと、明日食べるものないですよ?」

「いや、コンビニ弁当でいいじゃん」


 正直言ってもう疲れたから一刻も早く家に帰りたいと言うのが本音だ。

 それはそうと、陽菜はなぜバックを持ってきていたんだ? 手ぶらでもよかったはずなのにな。


「それはそうと、なんでバック持ってきてるんだ? 今日は必要なかっただろ?」


「いえ、教科書を持って帰ろうかなって思ってたので、持ってきてました」

「なるほどな」


 陽菜はまだ高校生なんだし、教科書ないと授業受けられないか。なら、納得だわ。


「それはそうと、朝出るときに買い物行ってくれるって約束してくれましたよね?」

「は、はい。言いました」


 目のハイライト消して詰め寄ってくるので、反射的に返事をしてしまった。

 怖すぎだろ。怖すぎて敬語になっちまったじゃねーかよ。

 昨日、今日と一緒にいる時間は少ないが、陽菜を怒らせたら怖いと言うことだけはわかった。


「ふふ、それじゃ、行きましょっ!」


 何が楽しいのかわからないが、機嫌が良くなったのでよしとしよう。


「なら、さっさと行って早く帰ろうぜ」

「そうですね!」


 俺たちはどこか清々しい気持ちで買い物をし、帰宅した。




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