一緒のベッドで
「お邪魔します」
「そんなかしこまんなくていいよ。今日からここが君の家になるんだからよ」
「は、はい。改めて言われると、緊張してきました」
「そ、そうか」
確かに、よく考えれば知らない人の家に来てるんだもんな。しかも歳上の。
緊張するのも当たり前か。
ていうか、これって
……いや、確実に誘拐だ。
他の人に見られて通報されていたら俺は捕まっちまう。それだけはなんとしても回避しないと。
「あ、あの。私には名前聞いてくれないんですか?」
そういえばまだ聞いてなかったな。名前教えてくれ」
「一応高校2年生の
「ヒナ」
「漢字は太陽の『陽』に菜の花の『菜』っていう字を書くんですよ!」
「いい名前だ」
俺がそういうと、陽菜は嬉しそうに笑っていた。
にしてもまさか高校2年生だったとはな。
見た目だけで言ったらまだ中学生なんだが。
……小さすぎじゃね?
そう疑問に思っていると、陽菜がなにかを察したのか、また話し出す。
「よく身長が低いので中学生と間違われるんですが、これでも高校生ですからね!」
陽菜は胸を張って言う。
まぁ確かに、身長は低いが、身体は幼児体型ではないしな。
でるところはそこそこでてるしな。なにがとは言わないが。
髪は黒髪ショートボブであり、めちゃくちゃ可愛い。客観的に見ても、その辺の芸能人より断然可愛い容姿だ。
クラスにいたら間違いなくモテてるだろ。
なんなら毎日告白されてるようなタイプだ。
「因みに何センチあるんだ?」
「146センチです! 因みに体重は38kgです!」
またしても胸を張って言う陽菜。
胸を張って言う事じゃないからな。
少しは恥じらいを持って言って欲しかった。というか、体重まで教えてくれたんだが、恥ずかしくないのだろうか?
「体重教えて良かったのか? 女性って体重のこと言えないもんなんじゃないの?」
「そんなことないですよ? 体重を教えたところでなんの問題もないです!」
「そ、それならいいんだが」
「はい!」
「後、女子の場合は身長低い方がいいと思うし、気にしてるんなら気にしなくていいと思うぞ?」
見た感じそこまで気にしてるそぶりは見せていないので、大丈夫だとは思うが。念のためにな。
「私は全然気にしてないので大丈夫です!」
「そうか。っとそろそろ寝るか。もう遅い時間だし」
「はい。そうですね」
「言い忘れてたが、明日陽菜の親戚の人と話したいことあるから、明日案内頼む」
俺が言うと陽菜は若干顔を
「わかりました。それはそうと、私はどこで寝ればいいんですか?」
「そのベッド使ってくれて構わないよ」
いつか使う時がくるだろうと信じ、ダブルベッドを買っていたが、今まで役に立ったことはない。3年間、俺以外が使う機会なんてなかった代物だ。買いなおそうかと思っていたが、陽菜が使ってくれるのなら有難い。
「いいんですか? でも、このベッド1人用にしてはかなりでかい気がするんですが」
「ああ、それ。ダブルベッドっていうのを買ってたんだ」
いつか使える日がくるかもしれないから、とは言えなかった。そんな事、高校生相手に言う事ではないし、ましてや陽菜には言ってはならない気がした。笑われるのが目に見えてわかるからな。
というか、そんなこと言ったら恥ずかしいし、黒歴史が残るだけだし。
「そうですか。2人でも寝れるって事ですね。なら、私と寝てください」
え、今この子なんて言った?
俺の聞き間違いじゃなければ、『一緒に寝よ』って聞こえたんだが何かの間違いだよな?
「じょ、冗談だよな?」
「冗談なんかじゃありません!」
……そこは冗談だと言ってくれよ。
「1人で寝てくれ。俺はソファーで寝るから」
「……わかりました。すみませんでした。わがまま言っちゃって」
「気にすんな。それより、寝るぞ」
陽菜は諦めたのか1人でベッドの中に入っていった。
これでやっと寝れると思ったら、隣から泣き声が聞こえてきた。
「グスッ、お母さん、お父さん。なんで私を置いていったの? 私も連れてってよ。私を1人にしないでよ……」
その言葉を聞いた時、俺は陽菜が無理している事に気付いた。
本当は寂しかったのかもしれない。誰かに側にいて欲しいのかもしれない。
そう思うと、さっきの俺の言動は失敗だったのかもしれない。
俺は無意識のうちに陽菜の頭を撫でていた。
撫でていると、陽菜が目を覚ましてしまった。
「秋本さん、どうしたんですか?」
陽菜は何事もなかったように聞いてくる。
「どうしたんですかって、こっちのセリフだわ。まぁしょうがないから一緒に寝てやる。酒臭いとは思うが、そこは勘弁な」
「ほんとに、いいんですか?」
「ああ、いいぞ」
俺がベッドの中に入ると、陽菜が俺に抱きついてきた。
全く、襲われるかもしれないというのに、
いや、ただ寂しいだけなのかもしれない。
今日くらいは許すとするか。
朝、目を覚ました俺は、柔らかい感触を感じた。
何でだ? と思い自分の状況を見ると、思いっきり陽菜の事を抱きしめていた。それも正面から。
これはまずいと思い、抜け出そうとしても、思いのほか陽菜の力が強く、がっちりとホールドされていた。
それも足を絡めながらのホールドだ。正直その体勢だけを見るとエロいが、決してやましい事はしていないはず。
俺があたふたしていると陽菜がもぞもぞと動きだし、目を覚ました。
「おはようございます」
ふぁぁと可愛らしい
俺からしたら起きてくれてありがたいんだがな。
「あ、あの秋本さん。なんかお腹らへんに硬いものがあたってるんですけど」
陽菜は顔を赤くして恥ずかしそうに言っているが、俺の方が恥ずかしい。
「ご、ごめん。でも、生理現象だからしょうがないだろ」
「それは、そうですけど」
「第一、抱きついてきたのは陽菜なんだし、俺は悪くないだろ」
「それもそうですね。というか、私は驚いただけで別に怒ってるわけじゃなないんですよ? それに男の人が大変だって事も授業で習ったので」
意外とそういう事に詳しいとは思わなかった。なんかもっとこう、純粋な感じの子だと思ってたが、どうやら違ったみたいだ。
「ま、まぁ明日もこういう事起こるかもしんないし、一緒に寝るのやめようぜ」
これを機に考え直して欲しい。
流石に一緒に寝るのは俺の心臓がもたん。
ガキに興味ないとはいえ、それでも陽菜は可愛い女の子だ。意識するなという方が無理な話だ。
「えっ? どうしてですか?」
そんな事言われると思っていなかった陽菜は今にも泣き崩れそうになっていた。
大方、これからも一緒に寝れると思ってたのだろう。
「あのな。昨日は陽菜が泣いてたから仕方なく一緒に寝てただけであって、本来は一緒に寝るつもりはなかったからな?」
「ご、ごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい」
「いや、そこまで迷惑って訳ではないが、陽菜は女の子なんだぞ? そう簡単に男と一緒に寝たいなんて言うな」
「そ、そうですよね。でも、昨日秋本さんと一緒にベッドで寝てたらとても落ち着いたんです。な、なので、あ、あの、その……」
一生懸命何かを伝えようとする陽菜を見てると、心にくるものがある。
はぁ、たくっ、しょうがねーなぁ。
「……わかったよ。俺が布団を買うまでは一緒に寝てやるよ」
「ありがとうございます!」
陽菜が嬉しそうに笑っているからよしとしよう。
……早く自分用の布団を買わないとな、と思う俺だった。
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