引き取った彼女がファザコンになった件について

こめっこぱん

出会い

女子高生に出会った日

 人生で初めて告白をし、あっけなく振られた。

 同じ会社に勤めている同期の女性だ。

 名前は八城やしろさんだ。

 八城さんは人見知りだった俺に優しく話しかけてくれた女性だ。

 それに、笑顔が反則的に可愛いため、俺にとってはその笑顔が仕事場での癒しとなっていた。



「タイプじゃないなら、俺に優しくすんなよ」


 お酒に弱い俺だったが、既に何杯ビールを飲んだかわからない。

 向かいの席で他人事ひとごとのように笑っている野田のだ若干じゃっかんいらつく。

 そもそも告白する事自体がない間違いだった。

 今日、勤続3年目にしてやっと食事に誘う事ができた。誘いをこころよく受け入れていたように見えたため、これはいける! と期待に胸を膨らませながら俺は仕事帰りにお店に向かった。

 正直な話、私服姿を見てみたいという気持ちはあったが、仕事帰りなのでしょうがない。

 オシャレなレストランでの食事も終わり、少し話をして帰ろっかという話になったため、俺は勇気を振り絞って告白した。


「八城さんの事入社した時から好きでした! 俺と付き合ってください!」


 今まで告白した事もされた事もないため、ありきたりなことしか言えなかったが、真剣に気持ちを伝えたつもりだ。

 八城さんを見ると、困った様な顔をして首を横に振った。


「私、秋本あきもとくんのこと全然タイプじゃないんだ。ごめんね」



「全然タイプじゃないって流石に酷いだろ」

「秋本、それ言うの何回目だよ。そろそろ聞き飽きたんだが」

「何回でも言ってやら〜」

「何回も言うようなら、俺帰るけど」

「ちょっ、それは駄目だ! もう少し俺に付き合ってくれよ」

「ったく、しょうがねーなー。なら、今日の飲み代奢ってくれるならいいぞ」

「わかった。それでいい。今日は俺に付き合ってくれ」

「はいはい」

 野田は溜息を吐き、俺の話を聞く体制をとっていた。

 野田は俺をあわれんだような目で見てくるが、野田に俺の気持ちがわかるわけない。



 八城さんに振られた後、俺はその場で立ち尽くしていた。

 店員さんに声を掛けられて我に返り、そそくさと店を後にした。


「俺、馬鹿みたいだ」


 全く興味を示していない人の事を3年間も想い続けていたなんて。


「タイプじゃないなら、俺に優しくすんなよ。勘違いするじゃねーかよ」


 悲しい気持ちにもなったが、告白とはこんなにもあっけなく散るものなのかという事を聞いてみたいと思った。

 それに気付いた瞬間、申し訳ないとは思ったが野田に電話していた。


「 急に電話かかってきたと思ったら、これだもんなぁ」

「わりーな。でも、どうしても聞いときたい事があってよ」

「はぁ、しょうがないなまったく」


 なんだかんだと言いながら野田は優しい。こうして急な呼び出しやなんでも親身になって聞いてくれる。


「なぁ、いい歳した俺が聞くのもあれだが、恋愛ってこんなにあっさりと終わりを迎えるもんなのか?」

「まぁ、それが普通だと思うよ。なんなら1回の告白で付き合える可能性の方が低いと思う。でも、それが普通なんだよ。男は何回もそういう経験をする事で、いつか付き合えるんだと俺は思う」


 野田の言う事が俺の心に深く響いた。

 確かに1度振られただけでグズグズしてるのは情けないよな。

 でも、理解は出来たが納得はできない俺もいた。


「でもよ、じゃあなんで俺に優しくしてくれてたんだよ」

「それは社交辞令しゃこうじれいってやつだと思うよ。よくいるだろ? 同じ職場の人には誰にでも優しいっていう人とかさ」

「確かにいるだろーが、そんな事して勘違いされたらどうすんだよ。俺みたいな奴にさ」

「まぁそりゃーいるだろうな。特に可愛い人は社会での立ち回り方とかを知ってるから

な」

「だよなぁ〜。……でも、俺はそういうの尊敬するし、すげーなと思う」

「なんで?! 秋本は勘違いさせられたんだぞ?」

「それとこれとは話は別だろ。だってよ、社会での立ち回り方とかを勉強って言ったらあれだろうけど、身につけるために努力してんだろ? ならすげーじゃん。俺には無理だな」


 隣の席でんでいるOLたちはこっちを見てうんうんと頷いていた。

 やっぱ女性はそうなんだなと思った瞬間だった。


「確かにな。ってことは納得したのか?」

「納得はしてない」

「してないのかよ。ほんと秋本ってたまに頑固になるよな」

「俺がまだ童貞だから引っかかったって言うのか?! もう女の事信用できない」

「まぁまぁ、そんなに落ち込むなって。そもそも、童貞関係ないし。まだこれからだろ? もっといい人見つかるだろうよ」


 そんな事言われても、そう簡単に忘れることなんてできない。

 というか、今更だが八城さんには彼氏はいるのだろうか。


「なぁ、そもそも八城さんって彼氏いんのかな?」

「まぁ、あんだけ可愛ければいるんじゃない? もう24なんだし、そろそろ結婚も考えてるかもよ?」

「だよなぁ〜。なんか俺、申し訳ない事したな。もし彼氏がいるんならいい迷惑だっただろうに」


 だんだんと酔いが覚めていき、よくよく考えたら俺が迷惑をかけていたことに気付く事ができた。


「おいおいどうした。いきなり態度変わりすぎだろ」

「酔いが覚めてきたし、よく考えたら迷惑をかけていたのは俺の方だなと思ってな。正直、さっきまでの話、理解はしていたが納得はできなかった。だけど、勝手に勘違いして告白したのは俺だし、相手の事も考えないで愚痴ぐちばっか言ってるのも俺だしな。俺、みじめだよな」

「秋本、どうしてお前はモテないんだ?」


 疑問で返されても、俺にも分からん。


「そんなん俺が知るか。さっきも言ったように、人生で初めて告白したのも今日だし、告白されたこともない」


 なんならバレンタインにチョコをもらった事もお母さん以外からはなかった。

 あれ、目から汗が。


「俺が女なら、秋本に惚れてた」

「なんだそれ。まぁ今日は付き合ってくれてありがとな。そろそろ帰ろうぜ。俺も話せてスッキリしたしよ」

「だな。それじゃ、お会計よろしく」

「おう。先に帰ってていいからな」

「なら、先に帰らせてもらうよ。秋本も早く帰りなよ? 寄り道しないでまっすぐ帰るんだぞ?」

「わかってるって」


 子供じゃないんだからそこまで心配しなくてもいいってのに。

 でも、俺の事心配してくれてるってことはまぁ嬉しいんだがな。



 タクシーに乗り、家から少し離れたところで降ろしてもらう。

 少し頭を冷やしたかったってのもあり、歩くことにした。

 少し歩いたところに十字路があり、そこを渡れば家が見えてくる。

 十字路に差し掛かってきた時、人が飛び出したのが見えた。しかも車が通るというおまけ付きだ。


 俺は無意識のうちに駆け出していた。ギリギリのところで前に押すことができ、その人は助けることは出来たが、俺は引かれそうになる。

 ああ、俺はここで終わりか〜。せめて童貞は捨てたかったな。なんて思いながら目をつむって引かれるのを待っていたが、待っていても痛みがこない。

 目を開けてみると車が目の前で止まっていた。

 スピードがあまり出ていなかったのか、止まる事が出来ていた。そこに感謝だ。

 助けた人も心配になって俺の方に駆け寄ってきてくれた。

 よくみると、中学生くらいの女の子だった。というか制服着てるし、学生ということはわかった。


「君、なんで飛び出したんだ?」

「……ごめんなさい。ごめんなさい」


 質問しても、ごめんなさいとしか言わないため、どうしようかと思ったが、学生がこんな時間に出歩いてるのを見るに、大方家出をしたのだろうと思った。


「家出してきたのか? 君の親御さんも心配してるだろうし、なんなら俺が電話してやろうか?」

「……お父さんとお母さん、この前の交通事故で……死んじゃいました」

「そ、そうだったのか」


 今にも泣きそうな顔になっていた子に、どう声をかけたらいいのかわからなかった。

 悪い事聞いちまったな。流石に軽率けいそつすぎだな。


「はい。それで、あの、今は親戚しんせきの人から逃げてる途中なんです」

「は? なんで逃げる必要あるんだよ。親戚のかたが引き取ってくれてたんじゃないのか?」

「私は親戚の人たちのところに行きたくないんです。行けば明日には施設に送られちゃうんです。……所詮、私は邪魔者って事ですよね。ってこんなこと言っても何言ってんだこいつってなりますよね」


 あははと笑う彼女はどこか悲しそうだった。


「ならよ。俺んとこくるか? 来るってんなら俺は拒まないけど」


 どうしても俺は彼女のことが心配だった。もしかしたらこのままほっとくと、どこかで死んじまうかもしんないしな。


「えっ?! いいんですか?! でも、迷惑じゃないんですか?」

「そんなこと子供が心配すんな。君のことほっとけないしな」

「そ、そうですか。ならおじさんのところに行くことにします!」

「おじさんって、まだ俺24なんですけど。え、なに、そんなにおじさんに見えちゃう?」


 まだ年齢的にみても、若い方ではあるが、学生からするとおじさんに見えてしまうのか。なんか悲しい。


「ごめんなさい。でも、まだ名前聞いてなかったので、おじさんの名前なんて言うんですか?」

「……秋本だよ」

「秋本さん……うん。しっくりきますね」

 「なんか馬鹿にしてるだろそれ」

「い、いえ。馬鹿にはしてません。ただ秋本さんって感じがしたので」

「なんだそりゃ」


 確かに、俺も学生時代にたまに女子の事がよくわからなくなる時があるが、学生には特有ななにかがあるのだろうか。

 俺、ついていける気がしないんだが。

 俺は小さく溜息を吐いていた。


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