47 賊を捕らえるのは簡単にはできません!? その2
「安理は何をやっている……!?」
「英翔様、追ってください! 私は、ここでお待ちしていますから!」
一瞬、
「わかった。すぐに賊を捕らえて戻る! 明順、お前はここで待て!」
厳しい声で告げた龍翔が、つないでいた手を放し、屋根を伝って逃げようとする賊へと駆けていく。
賊を追って屋根にひらりと飛び乗った安理の後姿も見えた。
「は、はい!」
明珠は駆けてゆく龍翔の背中へ答える。
手はずが狂ったようだが、龍翔と安理がいれば、きっと、すぐに捕まえられるに違いない。
明珠が一緒に追いかけても、足手まといにしかならないだろう。
龍翔に心配をかけぬよう、大人しくここで待っていようと、何気なく、賊がいた部屋の窓を見上げて。
「……?」
窓近くの景色が揺らめいた気がして、明珠は瞬きした。
見間違いと思ったが、違う。あれは。
(《
そんなことができるのは、術師以外にいない。
だが、先ほど屋根を伝って逃げた人影は、確かに二つだったはずだ。
もう一人、賊がいたのだろうか。いや、そんなことより。
(逃すわけにはいかない……っ!)
明珠は目を
「どこ見てやがるっ!?」
「すみませんっ!」
走り出してすぐ、向かいから来た男にぶつかりそうになり、怒声を浴びせられる。
謝罪しつつも、《幻視蟲》の揺らめきから、目を離さない。
術師である明珠ですら、気を抜けばどこにいるか見失いそうなのだ。道行く人々は、誰一人として気づいていないだろう。
いったい、どうやって移動しているのか、術師はすいすいと飛ぶように屋根の上を移動していく。
対して、明珠が走っているのはごみごみした路地だ。龍翔か安理に知らせたいが、一度見失ったら、絶対に見つけ出せないだろう。
(《
屋根の上に視線を向けながら、道行く人々の間を懸命にすり抜けて走る。
と、不意に《幻視蟲》の揺らめきが
(だめだっ、見失っちゃう……っ!)
必死で足を動かして、角を曲がり、賊が消えた屋根の向こうへ回りこむ。
そこは、家と家との間、路地とも呼べないような細く狭い隙間だった。人一人が通れるくらいか。
突然の乱入者に驚いた野良猫が、明珠の足元をすり抜けていったが、それどころではない。
まるで、鳥が降り立つように、《幻視蟲》の揺らめきが下りてくる。
今まさに、地面に下りようとするそこへ。
「待って!」
明珠は、無我夢中で飛びついた。
不意を突かれた術師が、明珠もろとも、地面に倒れる。明珠の体重を一身に受けて、術師がくぐもった声を上げた。
飛びついた瞬間、解呪の能力が発動したのか、術師が《幻視蟲》を解いたのか、泡が弾けるような小さな音とともに《幻視蟲》が消え、術師の姿があらわになる。
薄暗い路地でもきらめく《
四日前、明珠が捕まえそこねた少年に、他ならない。
お互いに息を飲み、見つめ合ったのは一瞬。
少年の右手から放たれた《晶盾蟲》が、主を守ろうと、明珠めがけて羽ばたく。
「《
すんでのところで召喚が間に合った盾蟲が、《晶盾蟲》の突撃を受けて弾き飛ばされる。
せまい路地で器用に旋回した《晶盾蟲》が再び襲ってくるより先に。
「
明珠の叫びに、少年の目がこぼれんばかりに見開かれる。
身をよじった拍子に、明珠が飛びついたせいで乱れた着物の合わせから、のぞいていたあざやかな組紐が、さらに大きくこぼれる。
明珠と同じ柄の、複雑な編みの組紐が。
同じ柄の組紐を持っている少年は、知る中では、一人しかいない。
「な……っ!?」
名を呼ばれた衝撃に見開かれていた晴晶の目が、焦点を取り戻す。
恐怖と憎悪が入り交じった刃のような眼差しが明珠を捉えたかと思うと。
少年の唇が、痛みをこらえるように引き結ばれる。
「《晶盾蟲! この者を――っ!》」
悲愴な決意をこめた声が、蟲――《晶盾蟲》へと命じる。
そわり、と明珠の全身が総毛立った。だが、身体は凍りついたように動かない。
呆然と、明珠めがけて飛んでくる、きらめく殺意を見つめ――、
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