46 (幕間)迫りくる破滅を、逃れるために


「なぜ……っ!? なぜ、見つからないんだ……っ!?」


 少年は、焦燥のあまり、固く拳を握りしめた。

 少年が守るべき『宝』が地震により、行方知れずになってからすでに一カ月半以上。 


 必死で情報をかき集め、求めるものが乾晶にあるらしいという情報を、何とか掴みはしたものの。


「……見つからぬのは、人が多いせいなのか……? それとも……」


 脳裏をよぎった最悪の想像に、ぞっ、と全身から血の気が引く。


 もし、『宝』が失われてしまったら、いったいどれほどの混乱が起こるだろう。

 ただでさえ、不安定になっているというのに。――おそらく、壊滅的な被害が出るに違いない。


「……様」


 父の反対を押し切って飛び出してきた少年を見捨てず、ついてきてくれた従者の青年・孝站こうたんが、気遣わしげにそっと名を呼ぶ。


「まだ、手遅れではないはずです。官邸にあるというのは、確かなはず。前回は、気配を掴めぬまま、逃げ帰ることになりましたが、次こそは……」


「だが、官邸の警備は、前以上に厳しくなっている。王都から来られた皇子が滞在なさっているせいもあるだろうが……。毎日のように、官邸のそばまで行っても、もはや、気配さえ、感じとれない……」


 少年は肉づきの薄い肩をがっくりと落とした。

 返す返すも、前回、官邸に忍びこんだ時に、目的を達せられなかったのが、悔やまれる。しかも、侍女に顔を見られてしまうなど、大失態だ。


 顔を見られてしまった時の顛末てんまつを思い出し、思わずぶんぶんと首を横に振ると、孝站が、


「どうかなさいましたか?」

 と不思議そうに首を傾げた。

 あわてて「なんでもない」とつっけんどんに答える。


 薄暗がりの中でもみ合ったため、じっくりと顔や姿を見たわけではないが、少年の大切な女性ひとに、どことなく雰囲気が似ていた気がする。


 いつも、少年を心配してくれる優しいひと。

 彼女の憂い顔を何とかして晴らしたくて、父の制止を振り切って、孝站と出てきたというのに。


 きっと、なかなか帰ってこぬ少年のことを、心配していることだろう。


 胸の奥につきりと湧いた痛みを、少年は見ないふりをする。


 おそらく、もうほとんど猶予ゆうよはない。

 皆のためならば、この身が捕らえられようと、かまわない。多少、強硬な手を取ることになってでも……。


 祈るように、胸元に下げたお守りを握りしめ、悲壮な決意を固めた瞬間。


 りぃん――。


 鈴を思わせる澄んだ音に、少年は思わず身構えた。


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