27 あっちもこっちも隠し事? その2
低い声で発された龍翔の問いに、季白は渋面を作った。
明珠は季白の講義の内容を必死に思い出す。
国土自体は広めだが、ほとんどが草原か砂漠、荒れ地という乾燥した地域のため、自然に恵まれ、豊かな龍華国の富を、常に狙っているのだという。
堅盾族の村に近い
主の問いに、季白は己の中の考えをまとめるように、ゆっくりと答える。
「現在のところ、砂波国が今回の件に関与しているという証拠は、全くございません。加えて、個人的な意見に過ぎませんが、今回のやり方は砂波国らしくないかと……。砂波国のお国柄は、もってまわった方法を好みません。もし、堅盾族を官邸襲撃の犯人に仕立て上げ、龍華国と堅盾族の関係にひびを入れたいのなら、現場に堅盾族が犯人だと明らかにわかる品を残すでしょうし、そもそも、官邸の倉などではなく、総督自身を害していたでしょう」
季白は表情一つ変えず、恐ろしい内容を淡々と告げる。
「もし総督が殺害されれば、乾晶の混乱は必至。その隙を突いて、砂波国が攻め入る好機は、いくらでもあったでしょうから」
「確かに、そうだな。わたしの考え過ぎか」
「いいえ。あらゆる可能性を見落とすまいとなさる龍翔様の姿勢は素晴らしゅうございます。何せ、今回の賊に関しては、乾晶に来るのが遅かったこともあり、手がかりがほとんどないのですから」
ちらり、と季白が明珠に視線を向ける。
「であれば、賊と捕らえることはかなわなかったとはいえ、賊の一人の顔を明らかにした明順には、何か褒美をやってもよいかもしれませんね」
「えっ!? ほんとですか!?」
思わず弾んだ声を上げると、じろりと季白に睨まれた。
「浮かれるのは早いですよ。褒美は、あなたの似顔絵を元に、賊を捕まえられた場合に限ります」
「あ、だったらさ~」
安理がうきうきと口を開く。
「賊の顔を直接見たのは明順チャンだし、堅盾族の無実を証明したいなら、明順チャンが賊を追ったらいいんじゃね?」
「安理」
龍翔の低い声。
馬車の温度が下がった気がして、明珠は龍翔の険しい顔を思わず振り向く。
「明順を
「もっちろん、わかってるっス~。ただ、敵が術師だとしたら、ひょっとするとオレの手に余るかもしれないな~と。明順チャンなら、術師だから対抗できるんでしょ?」
「誤解しているようだが、明順は術師ではないぞ? むしろ、解呪の能力が際立っている分、蟲の召喚は不得手だ」
「龍翔様のおっしゃる通りなんです。すみません、術師を名乗れるほどの力がなくて……」
「明順。お前が謝る必要はない。安理のことだ。どうせ、お前をだしにさぼりたいだけだろう。明順を危険に晒すくらいなら、わたしが自ら出る」
「いけません、龍翔様!」
季白が目を怒らせて即座に反対する。
「龍翔様自らが賊を追われるなど、危険なことはおやめください! もう少し、ご自身の御身分をお考えくださいませ!」
厳しい眼差しで告げた季白が、「そもそも」と頭痛を覚えたように額を押さえる。
「龍翔様がご自身が動かれれば、嫌でも目立ってしまい、捕らえられるものも捕らえられません」
きっぱりと言い切った季白に、龍翔がしかめつらになり、安理が無遠慮に笑う。
「身分があるってのも、なかなか面倒っスね。ま、明日だけで我慢してくださいっス」
「明日?」
きょと、と首を傾げると、いたずらっぽい光をたたえた黒曜石の瞳にぶつかった。
「ああ。明日も出かけるからな」
「次はどちらへ行かれるんです?」
尋ねたが、龍翔は笑うばかりで答えてくれない。
「わたくしは反対なのですがね……。しかし、まあ……」
季白が渋い顔で吐息する。
「そう言うな。たまには羽を伸ばさせろ。せっかく、はるばる乾晶まで来たのだ。少しくらい楽しんでも罰は当たるまい。何より、張宇も望んでいるのだし」
龍翔が、壁の向こうの御者台へ視線を向ける。
「張宇が目を離さないと言っていますから、許しますけれども……。本当に、明日限りにしてくださいね!」
「?」
明珠には何が何やら、全く話がつかめない。
が、いたずらっぽい龍翔の笑顔を見るに、きっと聞いても教えてくれないだろう。
それに、こんな楽しげな龍翔を見るのは、久しぶりな気がする。それだけで、何だか嬉しい。
きっと明日になればわかるだろうと、明珠は問いただすのをやめた。
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