2 蒼也
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「蒼也くん、ミルクを飲みなさい」
赤岸もな美は数回繰り返したが、蒼也は背を向けたままで、要らないとぶっきらぼうに返すばかりだった。
夜になっていた。あまねは既に帰ってしまい、部屋にはもな美と蒼也のふたりきりだ。
「飲まないとおおきくなれないわよ」
「おおきくなんかならないよ、知ってるくせに」
「あっためてあげようか? それとも、ココアを入れたら飲む?」
もな美を聞こえないふりをして重ねて云った。
「昨日から何も飲んでないわ、一体どうしたの」
「……あいつ、誰なの」
蒼也がじっと黙ったあとぽつりと云った。怒っているうえに、傷心であるようだ、と、もな美は思う。蒼也は重ねて云った。
「どうして毎日一緒にいるの? お茶なんて飲んじゃってさ」
左近あまねとは、この建物で暮らし始めてから仲良くなった。それが以前から親しかった蒼也には面白くないのだろう、と、もな美は思った。
蒼也と知り合ったのは、もな美が十二歳だったときのこと。彼は一冊の推理小説のなかにいたのだ。もな美は彼が大好きになったし、蒼也はそれからずっと、もな美の傍に一緒にいてくれた。
それから六年経った今、少年はそのときも今も変わらず十一歳で、もな美だけが歳をとってしまった。
「あまねなんてさ、変な名前」
蒼也が唇を咬んで付け加えた。
「もな美だって……変な名前だけど」
「あたしの名前?」
もな美は少し驚く。
「モナミは仏蘭西語で、愛する人、という意味よ」
もな美がそう云うと、蒼也は彼女の首に腕を回して抱きついてきた。
「もな美、好きだよ」
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