第9話 宮地 雫 Ⅴ
結はあれから一度も砂浜に来なかった。
どうせ冗談だろう。きっと面白がって僕をからかっているだけなんじゃないかって思っていた。登校時、下校時、散歩の途中にどうせひょっこり現れるのだと思っていたが、そんなことはなく一週間が過ぎた。
僕はとっくに気づいていた。自分の気持ちが何なのかを……
ただ伝えるのが恥ずかしく、伝えてしまったら壊れてしまうと思って不安になった。
やはり彼女と話せないのは寂しい。僕の唯一の友達だった。夜はずっと彼女が言っていたことを思い出して全く寝ない日もあった。。
彼女は砂浜で総合病院に入院していると言っていた。総合病院は歩ける距離では一つしか思いたたらない。きっとそこに行けば彼女に会えると思う。そしてそんな時いつも出てくるのは彼女が最後にいた「さようなら」という言葉だ。その言葉のせいでほんとに会いに行ってもいいのか分からなかった。彼女は――
「雫!」
今日子叔母さんの声で僕は初めて自分がリビングにいたことに気付いた。
「どうしたの? 電気も付けないで」
どうやら考えているうちに日が暮れたらしい。今日子叔母さんはちょっと機嫌が悪いように見えた。
「いや、何でもないよ……」
僕はそう言って席を立ち、自分の部屋に戻ろうとした。
「ちょっと待って雫。あなた最近変よ。何かあった?」
僕に再び座るように手で合図を送り自らも僕の前の席に座った。
「だから、何でもないって」
「何でもないわけないでしょう!」
今日子叔母さんに怒鳴られた。めったに声を荒らげる人ではないので余計に僕はびっくりした。しかし僕は話したくなかった。
「話してよ……叔母さんはさ、雫が両親を亡くしてからずっと面倒を見てきたんだ。別にお腹を痛めてあなたを産んだ訳じゃないけども、ずっとあなたを育ててきたんだよ。今は私が雫の母親代わりなの……だから話してほしい。そしてちゃんと聞いてあげる。もし力になれるなら力になってあげる」
そんな今日子叔母さんの言ったことを聞いて僕の脳内に走馬灯のように今日子叔母さんと過ごしてきた日々を思い出されていた。そしたら涙が溢れ出てきた。もう止まらなかった。
ちょっとして落ち着いた僕は今日子叔母さんに一連のことを話した。今日子叔母さんはずっと真剣に聞いてくれていた。そしてちゃんと僕の力になってくれた。
僕は結が好きだ。この気持ちを伝えなければならない。
僕は家を出て病院に向かった。
病院に着くとまず僕は結の病室を知るために色々聞きまわった。どういう関係だとか、どう入った用事と聞かれて困ったが何とかして結の病室を突き止めた。
病室の前には浅海結と書かれた札が掛けられていた。引き戸の取っ手を握って僕は深呼吸をして扉を引いた。扉は待ってく音を立てずに開き、中には白い世界が広がっていた。
その世界はまるでベッドに座り、窓の外を見ている彼女を中心に回っていた。
「久しぶり」
僕は彼女に声を掛けた。彼女は驚いてこちらを振り返った。
「えっ……ちょ、なんで?」
目を真ん丸にして僕の方を見ていた彼女は少し経って、口に手を当てて布団の上に顔を突っ伏した。
「結、ちょっといいかな」
「ちょっと待って」
彼女がそういうので僕は少し待っていると、まだ頬と目は赤いが彼女がこっちを見てくれた。られて僕も泣きそうになる。僕は自分の気持ちを伝える決めていた。
「さよならは嫌だ。僕はもっと結と喋っていたい、もっと君と笑い合っていたい。伝えるべきことを恥ずかしくて伝えなかったりして後悔するのは嫌だから……だから……僕は結が好きだ。」
結の顔はさらに赤くなった。そして、
「私も、雫君のことが好き」
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