第7話 宮地 雫 Ⅳ

彼女のことを結と呼ぶようになって少し経ち、恥ずかしさは最初に比べれば少なくはなった。さらに敬語をやめて同い年だからタメ口にしたらと言われたので直した。

 彼女と出会ってから、気づくと僕は彼女のことを考えていた。


――結

 

 とても素敵な名前だと思う。響きもよくて僕はとても気に入っている。

 今日もいつもの登校ルートで登校して、砂浜のところで彼女がいないかと期待したが時間的にいるはずもなく、学校に着いて教室に入るなり自分の席で僕は読書を始めた。

 

 四限目が始まって間もない頃、授業に退屈した僕はふと窓の外を見るとそこには見慣れた服装をした人がいた。その人がすぐに彼女だと僕は理解した。だが、どうして彼女がこんな時間に、こんな所に来ているのかは理解できなかった。

 結局、僕は家に帰っても彼女のいた理由が分からずにいた。しかもさらに彼女について疑問は増えるばかりであった。


 学校で彼女を見つけてから一日が経った。謎が解明しないまま今日も僕は家に帰ろうと砂浜のところで足を止めた。

 いもは散歩の時だったが初めて学校帰りに彼女を見つけた。最近は特にためらわず声をかけたり、反応したりできていたのに今日は少しためらってしまった。

「ど、どうも……」

 彼女に近づいて声を掛けた。

「こんにちは」

 依然会った彼女とは異なってとても元気そうで僕は安心した。

 いつもならここで喫茶店に誘われて雑談をするはずだが、どうやら今日はこの砂浜で過ごすらしい。なら、ちょうどいいと僕は思った。これを機に気になっていたことを彼女に聞いてみよ。

「結、ちょっといい?」

「うん?」

 彼女は首を傾げて僕の顔を見ている。なんか恥ずかしいけど、もしかしたら僕はこれから彼女に聞いてはいけないことを聞くのかもしれない。聞いてこの関係が壊れるかもしれない。でも、聞かなければ始まらない気がするから。

「君は、どこに住んでいるの?」

 彼女は驚きの表情を見せたがすぐに納得したような表情になった。そして彼女は僕に聞いてきた。

「どうして?」

「きっかけは昨日、君が四限目に学校前に来てた事だ。それから色々考えてそうおもった」

 彼女はただうなずいて僕の話を聞いていた。顔を上げた彼女は遠くの夕日を見つめて話し出した。

「不覚だね。怪しかったかー。でも、そこまで言われると私も話さないといけないね」

 ちょっとタメを作って彼女は続きを話した。

「この先に総合病医院があるでしょう。私はそこに住んでるの。正確には『入院している』だけどね……」

 いろんな覚悟はしていたけど何も言葉が出なかった。

「じゃあ、雫君、さようなら」

 そう言って彼女は僕に微笑みかけてその場を去って行った。僕は追うことができなかった。声を出すこともできなかった。余りのことに驚き脚が全く動けず、ただ僕はその場で彼女の背中を目で追っていた。

 

 別れの挨拶が「またね」から「さようなら」に変わっていた。

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