第5話 宮地 雫 Ⅲ
彼女と初めて会った時から少し時間が過ぎ、不規則ではあるが僕と彼女は何度もあって話すほどの仲になった。僕は彼女を夕日の中で見つけることが多かった。
最初はやっぱり恥ずかしくて中々声をかけ辛かったが、二回目ぐらいの時に僕は勇気を振り絞り、震えそうな声に安定させようと力を入れて彼女に声をかけた。
「あ、あの……」
なんとも覇気のない声に我ながら呆れる。だが、目の前にいた彼女は違っていた。
「久しぶり」
「う、うん、浅海さん」
できるだけの笑顔で返事をした僕に彼女はにっこりと笑って返してくれた。そして彼女は僕に質問を投げてきた。
「あれ? 雫君、ジャージってことは部活?」
突然自分を下の名前で呼ばれたことに驚いた。
いつまでも言葉につまっていては格好がつかないので、できるだけしっかり喋ろうと思った。
「いいえ、ちょっとした日課の散歩です」
「そう、健康的ね……」
彼女は僕から視線を外して夕日の方に顔を向けた。その横顔は寂しさと、悲しさが混じったような表情だった。
見ていてはいけないような感じだったので僕は彼女から視線を外して考えた。
何か気にさわることでも言ったのかな?
しかし、彼女はすぐにまた僕の方に顔を向けてきた。その顔は笑顔だった。
「ねぇ、雫君。また、ちょっと付き合ってよ」
彼女につれていかれて、僕たちは前に行った喫茶店に行ってまた雑談をした。今日話したのは学校での事だった。主に今日は彼女の学校の話が多かった。
しかし、それは突然訪れた。
「雫君。私のことを下の名前で呼んでもらえないかな?」
「え、えっ?」
自分の耳を疑った。
「だから、私のことを名前で呼んでほしいの」
「え? どうして?」
話の意図が全く分からず聞き返した。
「私、もっと雫君と仲良くなりたくて。だから……まず名前から始めようと思って」
それを聞いて僕はうれしくなった。しかし、小学校低学年以来女子を下の名前で呼んだことが無い僕にそんなことが出来るのだろうか。悩んでも仕方がないのでとりあえず呼んでみることにした。
「結――」
恥ずかしくて僕は顔が熱くなるのを感じた。きっと鏡でも見たら真っ赤に染まっているだろう。
彼女の方を見ると、彼女は下を向いていて顔は少し赤面していた。
結局、お互い恥ずかしくなり、これ以上会話は弾まず、「またね」と言って今日はお開きとなった。
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