第8話 「やる」か「やらないか」
「《月狂い(ルーニー)》だ! 外は《月憑きの人間嫌い(ルナシィ・ミザンソロピー)》で溢れかえっている!」
月光対策本部からの入電である。
《月光除け(ルナデス)》があれば、大丈夫だったはずだったはずが、なのになぜ……
俺は即座にソロスの顔が浮かんだ。きっと、あいつがやったに違いない。生の執着が全くなさそうに見えたのも全部演技だったというわけだ。俺たちは一人の少年にまた一杯食わされた。
「あいつッ! 絶対許さねえ!」
ギリギリと拳を強く握る俺、俺は意気軒昂、感情は高まり、血気盛んになっていた。その時、夕影隊長が俺の手を優しく解いてくれた。
「その気持ちは、しっかりととっておけ。今は奴を探すのが先だ」
夕影隊長はいつも俺の先を行っている気がする。隊長と一緒にいると、俺はまだまだ隊長には及ばない。そんなことばかり思う。
「夕影隊長、すいません」
俺はいつも闇雲に進み、その度に夕影隊長が俺を止めてくれた。
「切り替えていこうぜ」
ガッツポーズをしながら白い歯を見せる隊長を見て、俺は鼓舞される。
「隊長がいれば、百人力です!」
「いっつもそんなこと思ってないだろうが! このッ!」
いつも通りの鉄拳制裁を受ける。きっと俺がまたピンチになった時は隊長が助けに来てくれる。そんな気がしていた。
「さ! 行くぞ!」
「って言っても、外はもう《月憑きの人間嫌い》ばかりじゃ……」
「そのために支給された、この新装備だ! 月翔の分も持ってきてやったぞ」
そう言って取り出したのは、ゴツゴツとした素材の鎧。
「こんな重そうなもの着なきゃいけないんですか?」
どうやらこれは、強化防護服、所謂ロボットスーツってやつらしい。
「案外、重くないですね……」
着心地としては決して良いものだとは言えないが、見た目ほどの重量はないらしく外に出てソロスを捜索する時に支障をきたすことはなさそうだ。
「一つ、確認しておくことがある……」
真剣な眼差しで俺を見つめる、夕影隊長。
「外にいるのは《月憑きの人間嫌い》だ。決して人間じゃない。お前はそれらを殺す覚悟はあるか」
なんだ、そんなことか。そう俺は思った。頭で分かっていたし、シミュレーションでも何回も殺した。きっと実際に殺すってのは練習や想定とは違うのだろうけど、俺は人でないものを殺すのを躊躇ったりなんてしない。
――ましてや、月の味方をする者だ。許してなんかやるものか。跡形もなく、尊厳もなく、木端微塵にしてやろうという意気込みさえある。
「大丈夫ですよ。俺が信用できないんですか?」
俺は半分茶化すように行ってみたが、隊長の目は笑っていなかった。
「そうか、そのぐらいの気持ちなら心配ないな」
俺は躊躇ってチャンスを逃す人間が嫌いだ。ウジウジと悩んだって何が変わるんだ。世の中「やる」か「やらないか」だ。その二択の中でやらない選択肢を選ぶなんて愚かでしかない――その考えはきっと変わらない。これからもずっと俺は「やる」選択肢を選び続けると思うし、絶好の機会を逃すことはしたくない。殺せるものは殺しておくし、殺さないといけないものは殺しておく。そこに臆すということはない。
「月の人間はやっぱり殺しとくべきだったんだ……」
後悔したってもう遅い。だから今できることを全力でやらないといけない。俺は隊長の後を進み、《月憑きの人間嫌い》が跋扈する世界に身を投じる決意を固めた。
「俺たちで、地球を守ろうぜ!」
「はい!」
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