第42話 銀河フルチン伝説

 そして、夜が明けた。

 俺達は100頭を越すラクダ騎兵と共にサルディスへと向かう。


「つまり、ゲームをするというのは建前で、本当は和平交渉をする為の人払いだったわけですね」


「え?どういうこと?」


 俺はももかんに聞く。


「色々複雑な国家間の事情という物がありますし。マッシリア側は今回の遠征でそれ相応の軍事費を。そしてサルディスは国境の砦を含め大勢の兵士がなくなっているわけですから。それを踏まえたうえで停戦協議をしないといけないんですよ。それも早急に」


「長引くとマズいのか?」


「それだけで双方の戦死者が増えますよ。日本人はそんな事もわからないんですか?」


 ガラさんが木炭車を停止させる。すると随伴しているラクダ騎兵が近寄り、燃料を補給したようだ。


「いやぁ外に出なくてもいいっていいのはほんと楽でいいわねぇ」


「あのラクダ。そんなに薪とか積んでないように見えるけど何を補給してるんだ?確かこの木炭車魔力では動かないはずだけど?」


「え?あれラクダのウンコ入れてるのよ」


「ラクダのウんこおおおおおおおおおおおおお??!!!!」


「立派な燃料になるのよぉ?」


「バイオマス燃料を知らないんですね?ふるちんさんは流石劣った日本人です!!」


 前にもそんなことを言われてような気がする。前方に砂煙。何かあったようだ。

 俺は窓を開け、ラクダ騎兵に声をかける。


「何かトラブルですか?」


「いえ。日本人の転生チーターの盗賊団がいたのですが、『うああああああ!!!!砂漠の砂に脚を取られてうまく動けない!!!どうすればいいいんんだああああ!!!!』と、言っていたので簡単に倒せました。回避率100パーセント命中率100パーセントです」


「マジ?」


「信じられないかも知れませんが本当です」


 ラクダ騎兵は俺に報告するとまた木炭車に並走し、警戒行動に移る。


「・・・きっと、いつも草原と落葉広葉樹ばかりの『中世ファンタジー異世界RPG』ぽい世界で無双し過ぎたせいで、砂漠での生命活動ができない生物になってしまったんですね。日本人の転生チーターは」


「巨大化して滅んだ恐竜か。転生チーターは」


 本当に見事なまでに順調に砂漠を抜け、近くに焼け落ちた砦のある国境の街にその日のうちに到着。クロイソス王子はこの一群が停戦協定を結ぶための使者を連れた一行である事を説明するために町長の下に向かった。

 翌朝、日も明けきらぬうちに出立。

 行き先々の村でクロイソス王子がこのラクダ行列が停戦協定を結ぶ使節であることを一々説明して歩いたため、サルディス領内は行よりも帰りの方が二倍近く時間がかかってしまった。


「なんで村や町の住人に説明するんだ?そのなんだっけ?」


「停戦協定」


「それは王都でやるんだろ?ならとっとと王都でやればいいじゃないか」


「ふるちんさん。ここは中世ヨーロッパ風異世界なんですよ。電話が発明されるのは1876年。アメリカのグラハム・ベルです。近代になっちゃいますよ」


「なら、通信の魔法を使えばいいじゃないか」


「転生チーターはともかく、一般の村人はそんなもの使えませんよ。だから街道沿いに村や町があったら、その全部にこれは停戦協定を結ぶための使節です、ってクロイソス王子がふれて回った方がかえって効率いいんですよ」


 だが、そうも言ってられなくなったようだ。


「クロイソス王子ーーー!!!」


 前方よりの早馬。


「なんだい?」


「北の国から転生チーターに率いられた大群でございます!至急王都に御戻りを!!!」


「まぁた転生チーターか。疲れるなぁ。で、どんな奴?」


「ジェラルミンチーターと申すもので、ジェラルミンなる非常に硬い魔法金属でできた武器防具を兵士に支給し、王都に進軍してまいります!!街道沿いの砦や城は次々と攻め落とされ、既に王都に迫りつつあります」


「あ、そ。じゃあラクダ兵の皆さん」


「なんでしょうか?」


「今までゆっくり歩いて来たからラクダの体力に余裕ありますよね?少し急ぎましょうか」


「なに?!まさかクロイソス王子!!貴方はラクダの体力を温存させるためにわざと一々村や町によっていたのですかっ?!」


「えー?そんな砂漠を抜けて草原地帯に入ったら村や町でラクダや兵に水や食料を楽に支給ができるとか、そんなことまで考えてないですよ」


「く、恐ろしい。そのような兵站を視野に入れて行軍していたとは」


「そう言えば我が国の女王セミラミス様を盤上の戦いで完勝したと私は聞いたぞ?」


「なに?私はベッドの上での戦いで」


「おい。この不忠物を直ちに処刑しろ」


「ひいいいい!!せ、セミラミス様おゆるしおおおお!!!」


 クロイソス王子は木炭車。つまり俺達に近づいてきた。


「ももかん。君は確か飛行か、転移魔法の類が使えたはずだね?」


「はい。ではクロイソス王子だけ戻られますか?」


「いや。私はセミラミス女王と共にラクダ騎兵で行く。君とふるちん君だけなら驚くほど速く王都に行けるはずだ。援軍に行ってほしい。あと、防衛隊に私がもうすぐ到着すると伝えてほしい」


「わかりました」


 ももかんは魔法でドアを造った。


 ガチャリ。


「ふるちんさーん。行きますよー」


「お、おう」


 移動した先は村山アニメーションだった。


「ももかんちゃーん。人がごちゃごちゃ集団戦闘って作画大変なんだよー?」


「4万人のジェラルミン兵を描くのは大変なので、陣形図で表現しちゃってください」


「陣形図で?」


「で、私が魔法で兵士数名を吹き飛ばして活躍するシーンとかはきちんと作画してください」


「あー。それならいけそうかなー」


「ではお願いしますねー」


 ガチャリ。


 再びドアを出た先は、サルディス王都内だった。


「もうだめぇだ・・・おしまいだぁ・・・」


「転生チーターが・・・ジェラルミンの兵を・・・」


「4万の軍勢だ。絶対に勝てるわけがない・・・」


 絶望に撃ちひしがれるサルディス住民達に対し、ももかんはこう言った。


「みなさぁああーーん!いいお知らせーーーす!!!まもなくクロイソス王子が帰還なされまぁーーす!!!」


「クロイソス王子が!!」

「それはまことかっ!!?」


「しかも砂漠の国の王女セミラミスを奥さんにしましたーーっ!!!」

「なにっ!!?砂漠の国の王女をっ!!?」

「王子は誘拐されたのではないのかっ!!!?」


「さらに援軍として砂漠のドラゴンをひきいてきまぁーーす!!!」

「砂漠のドラゴンがえんぐんだってっ!!!」

「ですからがんばってたたかいましょうーーーっ!!!」


「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!やっちゃるでええええええ!!!!!」」」」」」」


「おい。ももかん」


「なんですかふるちんさん」


「なに出鱈目なこと言ってんだ。セミラミスとクロイソス王子結婚したわけじゃねぇだろ。砂漠兵が乗っているのはドラゴンじゃなくてラクダだろ?」


「女王が来るのは本当ですし、援軍が来るのは本当ですよ。こういっておけば勝てるってクロイソス王子のお手紙にありましたし」



 俺はももかんと共に街の北側の城壁に登った。4万のジェラルミン兵は左右に大きく展開している。


「どうやら包囲殲滅陣を行うようですね」


「なるほど。日本人の転生チーターだからな。包囲殲滅陣をしようとするわけだぜ。よし、城の兵士と酒場にいる冒険者をかき集めて打って出るぞ」


「どうしてそうするんですか?」


「一点突破だ。包囲殲滅陣は一点突破に弱いんだ。銀河声優伝説でやっていた」


「お言葉ですがフルチンハルト様。今回はその必要ないかと」


「なんだと?モモカンアイス!?なぜ一点突破をする必要がないんだ??」


「今回我々の目的はサルディスの王都の防衛でございます」


「そうだ。だから敵を撃破しなければならない」


「しかし、王都の入り口は東西南北の正門だけです。もちろん飛行モンスターなら城壁を無視して街を攻撃できますが、私の見た限り」


 ももかんはジェラルミン兵達を凝視した。


「ペガサス兵どころか普通の騎馬兵もいないみたいですねぇ。あれ」


「おまえ、あんな小さい豆粒にしか見えない場所にいる連中がはっきり見えんのか?」


「魔力で瞬間的に視力を強化すればこれくらいは。魔術師の基本ですよ。あ、ニホンジンはできないんですよね」


 悪かったな。できなくて。


「とりあえず街の東と南側に伝令を出しました。サルディス領内なので援軍は確実です」


「西側はクロイソス王子が来てるから・・・」


「これ、私達は待ってるだけで勝てちゃうんですよ」


 いいのか。こんなイージーモードで。


「一応街の門に近い住人の皆さんには武器を携帯してもらいました」


 二階、三階の窓から弓を持って街門を見る住人の姿が見受けられる。


「当るのか?」


「敵兵が雪崩れ込んできたらとにかく撃ってもらう感じですね。剣で切りあるよりかはかなりいい感じに戦えるはずですよ」


 ほんとかなぁ。


「あ、二時間後に敵の攻撃が来ますね。皆さん準備してください」


「ちょ、おまなんでそんな正確な時間がわかんだよっ!!!」


 ももかんは敵陣を杖で示す。


「白い煙が立ち上ってるのが見えますね?」


「まぁそれくらないなら視力を強化する魔法が使えなくてもなんとか」


「あれ、周辺の村から略奪した小麦か何かを使ってパンを焼いてる煙ですよ。たぶん食事を造ってると思うんでそれが終わったら突っ込んできます。ですのでそろそろ迎撃準備しましょうか」


「それ、向こうは俺らが攻撃のタイミング把握してるってのは気づいてないんだろうなぁ・・・」


 そしてももかんが言ったとおりにだいたい二時間後にジェラルミンチーターとそれに率いられた4万の兵が押し寄せてきた。


「フハハアッハハア!!!俺様はジェラルミンチーターだ!!!俺様の用意したジェラルミンの剣、鎧、そして盾!!現代の戦車や戦闘機にも使われる最新素材!!!中世には存在しないドチートアイテムヨ!!!これを装備した俺様の軍隊の前に大人しく平伏すがいいっ!!!!」


「さぁて。ではフルチンハルト様。これに座ってください」


 ももかんは城壁の上に玉座を置いた。さらに俺に王冠を手渡す。


「なんだこれ?」


「いえ。サルディスの王様が他国の軍隊が攻めて来たら、掴まって処刑されるのが嫌だと言っていきなり引退なされまして。今武器屋の二階に隠居なされています」


「街の外に逃げた方がよくね?」


「そんなマリーアントワネットみたいなことをして、失敗したらどうするんだ!と、怒られました。では、フルチンハルト様。臨時国王をお願いします」


 俺は仕方なく王冠を被り、玉座に座った。


「フルチンハルト様。敵部隊は包囲殲滅陣の隊形のまま、サルディス市に向けて前進して参りました。既に肉眼で確認できる距離です」


「うっあー。マジで騎馬も弓兵もいねぇよ。鎧兵だけじゃんかこいつら。モモカンアイス」


「はい。攻撃力、防御力は高いですが、この移動速度の遅さは致命的かと」


「俺様のジェラルミン軍隊は無敵だ!!矢でも鉄砲でも持って来いってんだっ!!!」


「と、反乱軍が申しておりますフルチンハルト様。敵部隊まで距離200」


「なんだよ反乱軍って。まぁいい。あれ言えばいいのかモモカンアイス?」


「はい。御命令をフルチンハルト様」


「んじゃ。ファイエル」


 俺は臨時国王として命令を下した。俺の合図で胸壁から一斉に兵士が顔を出し、マスケット銃を撃つ。

 ズババババーーーン、と鳴り響く銃声。


「なにぃいいいいいいい!!!」


 ジェラルミン兵達が次々と地に倒れ伏していく。


「火縄銃・マスケット銃の有効射程は200メートルでございます。フルチンハルト様」


「まぁ、銃使えって言ったのはあっちだしなぁ」


「く、くそう!!お前ら、ちゃんとシールドを構えろっ!!!」


 グアアン!グアン!グアアアアアン!!!


 戦場に鳴り響く太鼓の音。

 そう。ただの太鼓の音だ。

 鳴り響く太鼓の中、ジェラルミン兵達は鼓舞されたかのようにサルディスに向けて、


『シールドを構えないまま』


 前進していく。


「くっ、どういうことだっ!!なぜこいつらはシールド防御をしないっ!!!」


「いやぁ。まさか中世でタモフスキー粒子使わずに通信妨害ができるとは思わなかったよ」


「命令は口頭。つまり音声で行われますからね。こちらでより大きな音。つまり太鼓をならしてやれば妨害は簡単でございます」


 だが、その行為は敵部隊の急速な接近を許してしまった。城壁に取りついた兵士達が壁にはしごをかけ、登ろうとする。その兵士達に上から熱湯をぶっかけいく。


「ぐああああああ!!!あっじいいいい!!!」


「なぜだあああ??!!!なぜジェラルミンの鎧を着ているのにダメージを受けるんだぁああ???!!!」


「・・・モモカンアイスよ。この戦いが終わったら捕虜の兵士達に熱伝導について教えてやろうと思うのだが?」


「完全に勝利する前に勝った後の事を考えるのは敗北フラグでございます。フルチンハルト様」


「まだだ!まだ俺のジェラルミン軍団は負けてはいあないいああいいい!!!」

ジェラルミンチーターは北正門に向けて突進を開始した。


「門をこじ開けるぞ!者共つづけええええええ!!!!」


 城壁の上からマスケット銃が。クロスボウが。あるいは攻撃魔法が放たれる。しかし流石に数が多い。倒れる者もいるが、その負傷者を踏みつけながらジェラルミン軍団は正門に押し寄せてくる。


「おい、なんかヤバそうだぞ?これじゃあ門がやぶられる!!」


「んー。どうしましょうかねぇ・・・」


 モモカンアイス、もといももかんも軽くファイアーボール一発投げた後、あまり意味なさそうだと気づいてから。


「あ、フルチンハルト様。あのジェラルミンって金属ですか?」


「え?そりゃまぁ軽くて丈夫な金属のはずだよ?」


「でも魔法金属じゃないんですよね?」


「まぁ俺の世界ではけっこう広く使われるな。普通の鉄よりかは丈夫だけど、まぁ魔法金属じゃないよ」


 それを聞いて、ももかんは即座におもいついたようだ。そして正門の内側に降りた。


「おい!そこにいるより上から攻撃魔法を叩きこみまくった方がよくないか?!」


「いえ。これで多分大丈夫ではないかと」


 ジェラルミン軍団たちは正門を壊そうと門扉を叩き始めた。


「うおりゃあ!!」


「どおりゃああ!!!」


 激しく揺れる扉。木片が飛び散り、穴が空き始める。


「逃げろももかん!!迎え撃つにしろその場所は近すぎる!!!!」


「いえ。密着してるけど、ここは密着してませんから。ですからここでいいんです」


 言ってももかんは正門のカンヌキ。すなわち金属部分に触れた。


「ライトンニグボルト」


 金属を伝わり、高圧電流がほとばしる。

 それは扉の反対側。表側に立っていた、大勢の金属鎧を着用していたジェラルミン兵達にも伝わった。


「ぬああああああああ!!!!」

「しゅばああああああ!!!!」

「ふああああああ!!!」

「ひひっびっいびっび!!!」


 正門を中心にほとばしる電気の波が広がっていき、ジェラルミン兵は扇状に倒れて行った。


「ももかん。日本にはこういう状況にピッタリな格言があってね」


「格言?なんですか」


「まるでドミノ倒しだな」

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