第43話 なろう小説はその場の勢いで書くものらしい

 西方より騎馬兵の駆ける音。クロイソス王子の援軍部隊である。と、同時に東からも土煙が見えた。やはりこちからも領内の諸侯、貴族の騎兵隊が駆け付けたのだ。

 しかし戦いの趨勢はその援軍が駆け付けるよりも早く俺達の。つまりサルディス軍の勝利が確定しつつあった。


「伝令!伝令!」


 既に半壊したジェラルミン軍団の一人が副隊長に報告をする。


「6時方向より新手の敵です!」


「6時?夜の6時はもう過ぎただろう!!大バカ者めっ!!」


「いえ。方角の6時であります。『脳筋チーター殿』!!」


「脳筋チーターではない!!筋力チーターだ!!」


 とにかくガタイのいい副隊長は言った。


「新手の敵だと?たかが知れておるわ!!」


「お言葉ですが副隊長殿。敵戦力は左右から迫りつつ騎馬兵より遥かに凌ぐ数かと思われます」


「そんなわけはない。北の国からの通り道にあった城や砦はすべて破壊してやったわ!!!」


「いえ。ほとんど抵抗はありませんでした。それが問題なのです。魔王マイルズが倒されて以来、魔王の脅威がなくなったのでこれ幸いと北の将軍の命令により、軍の遠征が頻繁に行われるようになりました。以来北の国からサルディスへ続く街道は度々戦場になっています。ならばサルディス側は我々の略奪に備え、食料を複数の倉庫に分散保管、或いは組織的抵抗よりも市民の避難訓練をするようになったのではないかと小官は推察いたします」


「では、そいつらは皆我らと戦わずして逃げ出した腰抜け兵という事ではないか。怖るるに足りんわ!!!」


「いえ。北の国との国境からサルディス王都までの街道沿い。砦、居城を構える騎士などの戦力がそっくりそのまま残っている事です」


「ならばそいつらをまとめてなぎ倒してくれるわ!!全軍360度反転!!」


「お待ちください!!360度回転したら一回りして同じ方向を向いてしまいます!!それに左右からも敵増援と思しき騎馬隊が」


「そのまま北方向に全速前進DA!!」


「脳筋チーター様より伝令!!残存部隊は360度回転しながら北方向に進軍せよっ!!!」

「伝令!!360度回転しながら北方向に進軍するのは脳筋チーター様であるっ!!」


「おいっ!!俺様は脳筋チーターではないっ!!筋力チーターだっ!!」

「伝令っ!!筋力チーター様は脳筋チーターであるっ!!!」

「繰り返すっ!!筋力チーター様は脳筋チーターであるっ!!!」



「おいモモカンアイス。なんかあいつらグルグル回りながら後退してるんだが?」


「転生チーターの思考パターンは本当に私達異世界人の常識を超越する時がありますからねぇ。あ、なんかリーダーっぽいやつがいますよフルチンハルト様」


「あ、ほんとだ。あいつだけ兜かぶってねぇ」


「どなたか狙撃できる人いますか?」


「射程内です」


「んじゃファイエル」


 ずがーん。と音がして、クルクル回っていた男の頭が見えなくなった。



「やぁ。ちょっといいかな?」


「これはガチ魔術師様!」


「どうして僕らの軍隊はさっきからクルクル回っているんだい?」


「実は脳筋チーター様が360度回転しろと全部隊に通達してしまいまして」


「なるほど。それで撤退がうまくいかないわけか」


「撤退?しかし脳筋チーター様は我々を背後から攻撃してきた部隊に反転攻勢をかけようとしていましたが」


「いや無理だろうね。北からの部隊は数は不明だが、僕らを足止めするには十分だろう。そして東西から敵の騎馬隊が挟み込むように迫り、さらにサルディス市内から躊躇なく銃弾やクロスボウの雨が降る。ジェラルミン兵に切りかかる必要はなく、適当に足止めするだけでサルディス側の勝利だ」


「え?でも、我々にはジェラルミンの鎧と盾があるので接近戰を挑まれても」


「挑んでこないよ」


「はい?」


「彼らは騎馬兵でランス突撃を仕掛けようとする。それに応戦しようとジェラルミン兵が前に出ると、彼らは攻撃を受ける前に逃げる。距離を離れるとまたサルディス騎兵はランス攻撃をしかけてくる。後はこれの繰り返しだ」


「どういうことです?」


「ジェラルミン兵は鎧が重いから、素早さが低い。だけどサルディス騎兵は馬に乗っている。だから移動速度が速い。その為攻撃回数が増えるんだ」


「では、我々はこのままハチの巣になるのを待つだけですか?」


「そうだなぁ。脳筋チーターの命令通り、北に向かえば全員助かるよ。もちろんグルグル回らずに。真っ直ぐにだけど」



「ふるちんさん。ジェラルミン兵がグルグル回るのをやめて全員まっすぐ北に移動し始めました」


「そりゃまぁいつまでもそんなことしてないよなぁ」


「それだけじゃなく、街道を挟んで左側の兵士が左手に剣を。右手に盾を持ちました」


「なに!!?左手に剣を!右手に盾をだとっ!!!?」


攻撃力5300 防御力3500

↓ピピピピピピ

↓ティロ

攻撃力3500 防御力5300


「そんなことをしたら攻撃力と防御力が反対になってしまうぞっ!!」


「あ、ジェラルミンの兵士が武器を捨てました。ただし盾は持ったままです」


「なに!!?武器を捨てて盾を持ったままだと??!」


攻撃力3500 防御力5300

↓ピピピピピピ

↓ティロ

攻撃力0    防御力5300


「そんなことをしたら攻撃力が0になってしまうぞっ!!」


「さらにジェラルミン部隊は盾を構えたたまま街道からくる我が国の部隊と接触します!!」


「なに?!守備表示のまま攻撃ターンを終了だとっ!!!?」


 防御力が上がったジェラルミン兵の一群は、街道を通ってきたサルディス軍を左右に分かれる形ですれ違う。守備表示のまま、ほぼ無傷で。そしてそのまま全員が背後に抜け、そのまま街道を北方向に走り去っていく。


「ターンエンドです!ジェラルミン兵は兵力約一万を残したまま北の国に逃げていきます!」


「くっ、俺のバトルフェイズはまだ終了していないぜ?」


 確かに。戦場にはジェラルミン兵とすれ違う形で出現した街道からの増援。左右から騎馬部隊。そしてサルディス市内には二万を超す兵力がある。


「よし、このままジェラルミン部隊を追撃をかけて全滅させるぞ!」


「大変です!敵部隊を攻撃できません!!!」


「何を言っているんだ?こちらは三倍以上の兵力があるんだぞ?それに向こうは既に武器を捨てた連中もいる。あとは背後から攻撃すれば」


「いえ。ジェラルミン兵はサルディス軍とすれ違った後、全員街道沿いに逃げています。つまり河や森など、騎兵が侵入できない地形を利用してひたすら歩いて北の国まで逃げるつもりです」


「・・・つまりどういうことなんだ?」


「彼らはこちらの10倍以上の戦死者を出していますが、この戦いは引き分けで終了となります」


「どうしてそうなるんだ?」


「これはなろう小説ですからねぇ。やっぱこれを書いてる途中で銀河声優伝説の第一話を作者が見た影響じゃないですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る