第33話 盗賊ギルドの依頼と報酬

 俺達は木炭車に乗ってサルディスの街まで戻ってきた。後ろのかまどには砂糖ではなく薪を入れて燃焼させている。


「なんで砂糖をそのまま入れて燃やさないんだ?」


「まぁ砂糖より薪の方が安いので。ですから先ほどの村で砂糖を売って代わりに薪を買ったんですよ。燃料用に」


 俺達の乗った木炭車は門兵の形式状のチェックを受け、町門を出た時と同じようにすんなりと街内に。


「ガラ様御一行ですね」


 あれ?なんかモブ兵士の雰囲気が心なしか違うような。


「このまま盗賊ギルドに御向かい下さい。緊急事態ですので」


「緊急事態。ですか?」


「別に特に異常は見られないけどな」


 街の外も中も、まぁモンスターが大発生とかそんな様子はない。門兵は軽く左右に視線をやり、周囲に人がいないことを確認してから。


「クロイソス王子が誘拐されました」


「へぇー王子が・・・」


 あの王子様が誘拐ねえ。俺の代わりに魔王を倒したっていう。


「おい。今なんつった?」


「まだ兵士達には緘口令しかれておりますし市民の大半にはまだ知られておりません。ともかく詳しい事情は盗賊ギルドで」


「わかりました。とりあえず向かいますね」


 ガラさんは木炭車を走らせ、盗賊ギルドに向かった。



「って、ここ教会に見えるんですが」


 ステンドグラスで飾られ、尖塔の上に鐘を抱くこの建物は教会以外には見えない。いや。もしかしたら俺が現実世界の中世ヨーロッパのイメージを押し付けているだけで会ってひょっとするとこの中世ヨーロッパ風異世界では一見教会に見えるこの建物が盗賊ギルドなのかもしれないが。


「普通に教会ですよ」


「盗賊ギルドに行けって言われなかったか?」


「いえ。こちらの礼拝堂。天使像下に隠し階段があってその下に盗賊ギルドがあるんですよ」


「ある意味ベタな盗賊ギルドっていいなぁこれ」


 俺達三人は天使像の下にある階段を下り、盗賊ギルドに向かう。薄暗い通路を、ところどころロウソクの灯りが照らすだけのまさに盗賊ギルドと云った感じの地下道だ。


「遅かったじゃない」


 ワイン蔵のような部屋で樽に腰かけたシスターが出向かけてくれた。修道服をまとっているが、なぜか両手にガントレットをはめている。


「クロイソス王子が誘拐されたんでね。みんなアンタがやらせたんじゃないかって噂してるわよ?」


「それは誤解です。私達母娘は単に観光目的で街の外に出ていたわけであって他異はありません」


「『元魔王婦人』様が王子を亡き者にしようと考えるのが自然な流れじゃない?」


 と、若干冷たい言葉を投げかけながらシスターは指を鳴らす。


「まぁいいわ。実は西の国の連中が突然攻めてきてね」


「西の国が?」


「規模と行動から威力偵察って感じかしら。国境沿いの砦を中心に迂回したりせずにきっちり叩いて、街道沿いに移動。それでこちらの出方を見るってつもりだったみたい。放っておくわけにもいかないからクロイソス王子が兵を率いて出陣したんだけど、かなりの重軽症者を出して、さらに生き残った者の話を聞けば捕えられた捕虜の中にクロイソス王子がいたそうよ。ま、普通に指揮官やってたから生け捕りにして連れ帰ったんでしょうけどね」


「ちょっと待ってくれ!クロイソス王子って滅茶苦茶強いんじゃないのか??」


「ええ。一人で魔王城で暴れまわったらしいわね」


「どうしてそんな奴が捕まるんだ??」


「それがわからないから私はガラに聞いてるんじゃない」


「ですから私達は南に行っていて、西の国とは何の関係もありませんよ」


「その。西の国の兵隊の数が凄く多かったとかいうことでしょうか?」


「数によりゴリ押し?いいえ。兵隊の数はこっちと変わらなかったって生き残りの連中が話してたけど」


「では何か特殊な武器や魔法を使っていたとか?」


「そうねぇ・・・。馬じゃなくて見た事のない奇妙な怪物に乗って攻め込んで来たわ」


「奇妙な怪物?」


「死体を隣の部屋に持って来てるわよ。見てみる?」


 隣の部屋にはその奇妙な怪物とやらがあった。馬に似ている4本足の動物だが、馬ではない。毛並みは長く、尾はだらしなく垂れ下がっている。そして背中。ここにも奇妙な突起物があった。


「確かに。奇妙な怪物ね」


「本当です。こんな生き物見た事有りませんよ」


 ガラさんとももかんはそのようにその怪物を評した。


「口からブレスを吐くらしいわ。なんでも熱くはないが、巻かれるとまったく息ができなくなるとかで」


 シスターが保管していたその奇怪な生物は。


「これラクダじゃん」


「ラクダ?!この怪物はラクダっというのですかっ?!!!」


「ふるちんさん!!!?ラクダを知っているのですかっ?!!!!」


「え?ももかんお前ラクダ見た事ないの?ラクダっていうのは砂漠に住む動物だよ。熱さに強くて渇きに強い・・・っていうか西の国って砂漠なのか?」


「え?確かに西の国は砂漠の国ですが?」


「凄いですね!ふるちんさん!!見直しましたよ!!私も行った事のない砂漠についてこんなにも詳しいとは!!」


「いや。俺はそんな砂漠に詳しいわけじゃ・・・」


「まぁなんて頼もしい!!ひょっとしてふるちんさんはニホンからいらしたのでは?!!」


「いやまぁ日本人ですけど?」


「なるほど!!納得致しました!!!確かニホンには『トットリ』と言って砂漠地帯があるそうですね!!!!」


「じゃあ砂漠に詳しくて当然ですね!!!」


「なら砂漠に連れ去られたクロイソス王子の救出の責任者はニホンの『トットリ』砂漠に詳しいふるちんで決まりだな。頼んだぞ」


「お、おい?!俺は引き受けるつもりは」


「ちゃんと報酬もあるわよ」


 シスターは胸元から十字架。ではなく奇妙なカギを出した。


「これは盗賊のカギよ」


「盗賊のカギ?盗賊のカギだとっ?!!」


「これがあれば簡単な構造の扉を開ける事ができるわ。例えば武器屋の奥の扉を開けて地下室に行き、その奥にあるもう一つの武器屋で商品を買う事ができるのよ!」


「盗賊のカギで扉を開けた先にある、もう一つの武器屋だとっ?!!」


「そこでははがねの剣やはがねの鎧やはがねの盾を購入する事が可能だわっ!!!」


「馬鹿なっ!!この王都サルディスは魔王軍の脅威が去り、一般冒険者にはそういう商品は出回っていないはず!!そういう品は国営の武器工廠でしか」


「私達は盗賊ギルドよ?その工廠から横流し品を高値で売り捌くことで利益を得るのよ」


 なんという悪行!まさに盗賊ギルドである。


「さぁ!クロイソス王子を救出に行きなさい!無事成功の暁にはこの盗賊のカギをあげるわよ?」


 俺はちょっと考えて。


「もしいいえって答えたらどうなるんだ?」


「何を言っているの?このカギがあれば簡単な構造の宝箱のカギを開ける事が出来るわ!!迷宮の中で財宝を見つけた時、手に入りやすくなるのよ?さぁ!クロイソス王子を救出に行きなさい!」


「それでもいいえって」


「ふるちんさん。あんまりいいえって選択し続けるとじゃあ仕方ないっていきなりGAMEOVERになるゲームだってあるんですよ?」


「わかった。俺は王子を助けに行くぜ」


 俺は快くクロイソス王子を助けに行くことにした。



 このシーンの製作打ち合わせの為、村山アニメーションに来た。


「あれ?ももかんちゃん。ラクダを見たことないの?」


 水鳥監督はももかんにそう尋ねた。


「はい。というかそういう設定ですね。実際サルディス王都に動物園なんてありませんし、現実の中世ヨーロッパにも動物園はありません。古代ローマの闘技場で剣闘士がアフリカの野生動物と戦ったという記録はありますが、ライオンとかゾウとかサイとかそういうパッと見て強そうな動物が主体ですね」


「ラクダは、うーん。闘技場で剣闘士が戦っても盛り上がらないだろうなぁ」


「それにここはニホンの『トットリ』砂漠について私が盛大に勘違いして、今までひたすら見下されていたふるちんさんがSUGEEEEE!!!って持ち上げられるストレス解消の重大シーンなんです」


「見下されてる主人公が急に持ち上げられなくちゃなろう小説じゃないからね」


「というわけでふるちんさんには砂漠とラクダに詳しい指揮者コンダクターとして私と母さんを導いて、西の国に旅立ってもらいます」


「これだけの理由があればチート能力がなくても大活躍できそうだからね」

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