第32話 砂糖と異世界のあるべき姿
「私達はシュガーゴーレムを倒して岩砂糖を手に入れたわけですが」
「俺なんもしてないんだが」
「この岩砂糖はまぁ砂糖なのでファンタジー世界のお約束通りお店でそれなりの値段で売れます」
と、言ってももかんは魔法で扉を出した。ガチャリ。と、扉を開けて移動した先はどこかの貴族の館の一室だった。男性が二人と女性が一人。紅茶に砂糖を入れて飲んでいる。
「中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーアニメでよく見る、貴族が紅茶に砂糖をガバガバ入れて飲んでる風景だな」
「なんなんだお前ら?!!!」
「誰だ貴様らっ?!!城の兵士達は何をやっているっ?!!!」
「あら変わったお客様ね?」
男二人はうろたえているが、お姫様っぽい貴族女性はひどく落ち着いている。大物なのかあるいは無頓着なのか。それはわからない。
「ふるちんさん。このお茶会の様子を見ておかしいと思いませんか?」
「お前のことだ。現実の中世ヨーロッパ世界に砂糖なんてないから転生チーターが異世界でアイスクリームを造るときのようにはちみつで代用してました。なんて言うんだろう?」
「ありますよ。イスラム教徒の国から輸入すればいいんですから。アラビア半島とヨーロッパは地続きなんです。地面が続いているところは歩いて移動できます。征服王イスカンダルはギリシャからインドまで移動してダレイオス三世と戦いましたし三蔵法師は中国からインドまで移動して仏教の経典を持ち帰りましたしマルコポーロに至ってはイタリアから出発して中国まで行った後、またヨーロッパまで戻っています。中世ヨーロッパの人間が地面の上を歩いて旅して商品を運ぶことは可能です。まさに現実チート」
「じゃあ何が問題なんだよ?」
「この貴族の男性」
角砂糖を持った男の前にももかんは立った。
「この角砂糖がどうかしたのか?」
「角砂糖が発明されたのはヨーロッパのチェコ。時代は製糖技術の発達した1840年です」
「1840年?」
「ヨーロッパでは銀板写真が実用化されました。日本にはアメリカのペリー提督が大砲を積んだ黒船に乗って来航し、江戸時代が終了したころ。つまり明治時代になります」
「おろろろーーーっ!!!??」
「つまり技術レベル的に連想機関銃(ガトリング砲)ができるヨーロッパのレベルにこの世界の魔王は戦争を売ることになります!!あ、参考資料はアメリカでサムライXと呼ばれているマンガです!!もちろん蒸気機関車も国中にはしっているはずですよっ!!!」
「やべーなこの国!!!中世じゃなくてどう考えても近代の軍事大国になっちゃうじゃねぇーかっ!!!」
「まぁ単に製糖技術だけが異常に発達した世界。というのも考えられますが、その場合砂糖の価値はもちろん一般庶民が気軽に変える値段に抑えられます。まぁアニメ制作会社の演出の結果でこうなってしまったんですね」
「演出の結果ってこの世界の貴族の館じゃないのかここ?」
「いえ。ここはボーダーレールの10話の貴族の密談シーンです」
「他のアニメに勝手にテレポートすんじゃねぇっ!!!!!」
「『僕は凄いんですよ』とか言いながらオラつく魔法学科の賢者の無理というのはですね、途中で止めてしまうから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります生は自分の世界で暴れているに過ぎません。しかし私はギャグ作品のキャラなので気軽に他所様の作品にお邪魔する事ができるのです」
「他人の作品の内容を変えるんじゃねぇっ!!!」
「作品の主内容を変えなければいいんですよね?もちろんわかってます。入ってきてください」
「失礼します」
先ほど俺達が入って来たのとは違う。この部屋にもともとあった本来使われるべき入り口の扉からメイドが入ってきた。黒髪ポニーテールの礼儀正しそうなメイドはお盆の上に陶器の入れ物を載せている。
「持ってきてやったぞ。とっとと受け取りやがれアリンコ野郎」
「ありがとうございます。下がってください」
メイドはカラになったお盆で男性貴族二人の頭を殴りつけ、さらにお盆を窓ガラスに向かって投げつけると部屋から出て行った。
「おい!今のこのボーダーレールのヒロイン、レーベラル・ゼータじゃないか!!こんなところにいていいのかよっ!!!」
「いても構いませんよ。しかもすぐに元の場所に戻って頂いたので本筋のストーリーに影響はありません」
「これってパクリって言うんじゃないのか!!!?」
「パクリじゃなくて検証です。彼女に持ってきて頂いたのは」
ももかんが陶器の器。その蓋を開けると、砂糖の細粒が入っていた。
「砂糖はこの状態で貴族に出され、スプーンで入れるのが適切なのです。何しろスティックシュガーもガムシロップもないのが中世ヨーロッパ風異世界ですからね」
「まぁ・・・。確かにそうかもしれないけどさ」
「さらに現実の中世ヨーロッパの地理、歴史事情を考えて付け加えると砂糖は比較的容易に持ち運べますが、果物は困難です。なぜならば砂糖は腐りませんが、果物は数日。遅くても数週間以内には腐って、食べられなくなってしまうでしょう」
「そりゃまぁ生ものだしな」
「世界地図で見るとヨーロッパは緯度的に日本の東京より北の地帯に位置している国が多いんですよ。つまりどちらかといえば寒い国が多いんです。ですから熱帯の植物。サトウキビとかバナナとかは育たたない。リンゴとかイチゴとかは育てられますが。それを踏まえた正しい形でのファンタジー世界の貴族の贅沢というと」
「ワープ!」
シュン!という音と共に室内に人影が。
「ほれ。持って来てやったぞメス豚」
日本刀を持ち、革のマントを羽織った冒険者っぽい井出達のレーベラルが大量のバナナを持って現れた。
「さぁどうぞお姫様。バナナです」
「バナナあ!バナナナーーーナアアアア!!!!!!」
お姫様はバナナにかぶりつき、両手にバナナを持ってガニ股でバナナの房の前に陣取りながらバナナを食い始めた。
「ファンタジー異世界には魔法がありますからね。現実世界は航空機や冷凍技術が発達するまで日本やアメリカ。ヨーロッパの人々はバナナが食べられませんでしたがファンタジー世界の貴族はワープ魔法や冷凍魔法の使える冒険者を雇ってバナナが食べられるという寸法です」
「おい!この姫様なんかやべぇぞ!!!目がイッチャってるぞっ!!!!??」
「大丈夫ですっ!!!これでもボーダーレール本編のストーリーに影響には何の心配はありません!!」
バナナは一房丸ごと平らげたお姫様はお腹が妊婦のようにパンパンに膨らんでしまった。
「プライム!プライムを呼びなさい!!」
「は!騎士プライム参りました!!」
姫に呼ばれ、若い騎士が現れた。
「私の大好物のバナナがなくなってしまったわ!貴方の持っている予備のバナナを食べさせない!!」
「し、しかし・・・」
「命令よ!!プライム!貴方のバナナを私に食べさせるのよっ!!!」
「分かりました姫様。私のバナナでよろしければ・・・」
騎士プライムは腰の剣を抜いた。いや違う。鞘に差さっていたのは。バナナだった。
「うひひひい!!バナナナアア!!!プライムのおおおバナンアアアア!!!!」
お姫様は騎士の突き出した皮を剥いたばかりのバナナにしゃぶりつく。
「う、姫様・・・これ以上はもう・・・」
「なんということだ・・・これがこの国の第一王女だとわ・・・」
「たとえ魔王に侵略されなくとも、日本から来た転生チーターに洗脳奴隷にされなくてもこの国はもう終わりなのかもしれない・・・」
「本当に大丈夫なのかこれっ?!!!」
「本当に大丈夫です!!!ボーダーレールの本スレで確認してもらってもいいです!!!!この展開でも『なんや。別に後の展開に影響ないやねん』って言われるのがオチですから!!!」
*
「と、いうわけで改めて手短な村で岩砂糖を売りましょう」
「酷い物を見た・・・」
再びドアを抜け、俺達は元の世界、(?)に戻ってきた。どうやらガラさんがどこかの村のお店で岩砂糖を売るようである。
「いらっしゃい。ここは雑貨屋だよ」
「買い取って欲しい物があるのですが?」
「売りたいものがあるんだね?どれを売るんだい?」
「こちらの岩砂糖です」
ガラさんはお店のカウンターに岩砂糖を置いた。
「ほう?こりゃ見事な岩砂糖だ。そうだな。金貨5枚で引き取ろう」
「そんなに高くないですね」
「ここは小さな町だからね。需要はそんなにないさ」
ガラさんは岩砂糖をカウンターに二つ置いていたが、そのうち片方を皮袋に戻した。
「それでは一個だけお願いします」
「ほいよ。じゃあ金貨五枚だ」
ガラさんと入れ替わりに村の住人らしきおばさんが入ってきた。
「いらっしゃい」
「おや?それはもしかして岩砂糖かい?」
「そうだよ。たった今入荷したばかりさ」
「じゃあ今日はそいつももらおうかね。この袋に入れとくれ」
おばちゃんは小さな布袋を置いた。そして天秤ばかりに銅貨を五枚ほど置く。店の親父は岩砂糖をナイフでジョリジョリ削りながら天秤の片っ方に粉末状態になった砂糖を載せていく。そして天秤が銅貨と釣り合ったところで皿を天秤から取り外し、布袋に砂糖をいれ、おばちゃんに渡した。
「えっと。これはなんだ?」
「非常に歴史的に正しい砂糖の販売方法です。何しろ現実の中世ヨーロッパにはビニール袋やプラスチックがありませんからね。もちろん中世ヨーロッパ風異世界にビニール袋やプラスチック容器を製造できる高度な科学技術があれば問題ありません。プラスチックが完成したのは1868年です。アメリカ南北戦争がリンカーン大統領率いる北軍の勝利で終わったのが1864年ですのでプラスチックのある世界では奴隷売買は不可能ですね」
「なにそれ?」
「史実の中世には密閉容器はありません。そうなると壺や布や革製の袋などに入れるしかないわけですよ。しかし塩や砂糖は放置しておくと空気中の水分を吸って固くなってしまいますからね。で、その岩状の塩や砂糖を店に訪れた客が必要な分だけナイフで削り取り、店主が販売する。これが歴史的に正しい塩や砂糖の販売方法です」
「いやガラス瓶に入れて売ればいいだろ。あれは密閉容器だし。この世界窓ガラスあるからそれくらいは用意できるはずだ」
「なんだいガラス瓶が欲しいのかい兄ちゃん?ならそこにあるぜ?」
棚には空のガラス瓶や皮袋や布袋が積まれていた。
「なにあれ?」
「なにってだから調味料をグラム単位で秤売りするための容器だよ」
「この世界では容器は有料なのです!マイバック推奨なのです!!すべての人々がエコロジーの精神を持ち、買い物袋を持参してお買い物に行くのが主婦の基本なのです!!!あ、ふるちんさんの世界には自宅からビニール袋の代わりになる容器を持参すればその分商品の価格が割引されるという概念がないんですね!!異世界より遅れてますね!!!!」
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