第31話 なろう読者でもイメージしやすいオリジナルモンスター

 まだまだももかんの楽しい女騎士の話は続きそうではあったが、急に木炭車が止まった。


「みんなぁ。ちょっと外に出て」


「まだ休憩に入るには少し早いですし、近くに村はなさそうですが?」


「じゃ、なくて。ア、レ」


 ガラさんの指さす方向。道の先に昨日はなかったはずの白い石像が設置されていた。


「おや。シュガーゴーレムじゃないですか」


「シュガーゴーレム?」


「ラノベ編集者はいいました。



『なろうの読者は知能が低いんだよ。だから連中が知っている、

ドラゴンとオークとゴブリンとスライム以外のモンスターを出しちゃだめだよ』


と」


「酷い編集者だな」


「まぁある意味正しいとも言えますよ。


『キマラーアントー』


なんていうモンスターを登場させても、コミカライズやアニメ化の際のキャラデザの人の負担が増えるだけですし。なるべく読者が想像しやすく、挿絵担当者が簡易にデザインできるモンスターが理想的です」


「その点骸骨魔王って便利だよな。理科室の人体骨格模型だもんな」


「で、今目の前にいるシュガーゴーレムですが、ふるちんさん。ゴーレムってご存知ですよね?」


「泥とか岩とかでできた、魔法で動くモンスターだろう?」


「比較的知名度のあるモンスターです。で、シュガーってなんのことだかわかります?」


「もしかしてあれ。砂糖製のゴーレムか?」


「はい」


「なんで砂糖なんかでゴーレム造った?ミスリルとオリハルコンとかならわかるが・・・」


「ふるちんさん。なろう主人公の多くが異世界で日本から持ち込んだ砂糖を売りさばき、暴利を貪ろうと短絡的に考える事は知っていますね?」


「ああ。中世ヨーロッパ風ファンタジー異世界で砂糖は高く売れるからな」


「この世界には砂糖が採れる地域があります。そこで砂糖を製糖し、砂糖の需要がある地域まで馬車を使わず、砂糖をゴーレムに変えて運ぼうと考えた魔術師がいました」


「なるほど。それなら馬にやるエサ代もいらないし、ゴーレムは戦闘力があるから盗賊に襲われる心配もないな」


「が、その魔術師は途中で死んでしまいました」


「え?」


「何事にも不足の事態はつきもので。ほら。ゴーレム頼みで他に人間がいないんですから例えば急病になったりしたらアウトなんですよ」


「あー。そういう事か」


「それでゴーレムを造った魔術師がいなくなった後、シュガーゴーレム達はだいたいサルディス領内に入った後、完全に制御を失いました。その後は彷徨うシュガーゴーレムとなって、まぁ基本的に人間を襲う事はありません。造った魔術師がそれなりに優秀な人間だったらしく、あと数百年は勝手に動き回ると思われます」


「人間を襲わないなら何も問題はないんじゃないのか?」


「いえ。雨が降ると途端に狂暴になるんですよ。身体を構成する砂糖が水分を吸って固くなります。そして全身の砂糖がちょっとづつ溶けてしまうので体を元通りにしようと自己修復プログラムに従って甘い物を食べようとする。つまり人里を襲ってミツバチ農家を襲ったり、民家を襲って台所を破壊し、砂糖壺を舐めたりするのです」


「人間殺してないのに滅茶苦茶迷惑なモンスターだあああ!!!!」


「そう!!このシュガーゴーレムはライトファンタジー特有の、人間を殺傷しないにも関わらず人々に大変な被害なもたらすという、まさに土日の朝アニメ的な素晴らしいモンスターです!!!これで小さなお子様のいる御家庭も安心ですね!!!」


「じゃあ説明は終わったところでももかん。バックアップよろしくね」


 ガラさんは木炭車から降りた。


「わかりました。ふるちんさん。念のために車から降りていてください」


「ん?ああ。わかった」


 ももかんに促され、木炭車から降りた。そのままももかんは木炭車の天井に登る。


「母さん!!」


 ももかんはガラさんにコイン状の物体を投げた。ガラさんはそれを受け取ると。


「さて。働きますかね」


 そう言うとそのコインを自分のへその下あたりに押し込んだ。


「ファアアア!!!?」


 次の瞬間ガラさんは一瞬だけ銀色の球体に包まれた。かと思ったが特になんの変化もなかった。

 と、思った次の瞬間、ガラさんのブーツの底にホイールがついていて、高速で前進し始める。


「なんだあれっ?!!」


 さらに右腕がワイヤーのように伸び、伸ばした手甲でガシガシとシュガーゴーレムを殴り始めた。


「なんだあれっ?!!あれが人間のやることかよお!!???」


「いえ。母さんは純粋な人間ではなくスライム人間ですので。それもスライムとしての特性を色んな意味で色濃く残したスライム人間です。そのスライム特性の代表的な物の一つが有機物は取り込むが無機物、つまり金属は取り込まないという物です。先ほど母さんに渡したのは無機水銀。有機水銀ではないので当然取り込まれることはありません。そして液体生物であるスライムとしての特性を利用し、一時的に常温で液体である水銀と『融合』致します。これにより、戦闘時に必要な武器防具をある程度任意に製造できると」


「すまねぇ。ロシア語はさっぱりなんだ」


「まぁこれができるのはサルディスの街の外にいるからなんですけどね。街中でこんなことやったらクロイソス王子との取り決めを破りまくりなんでその場で賞金首になるのは間違いないんですが」


「ももかぁ~~~ん。いくわょぉ~~?」


「は~~い」


 ももかんはガラさんの掛け声に合わせ、大きめの皮袋を広げた。ガラさんは削り取ったシュガーゴーレムの破片。即ち岩塩ならぬ岩砂糖を次々と放り込んでいく。

 二つ。三つ。四つ。五つ。六つ。


「そろそろいいですかねぇ。母さんもういいですよぉ」


「ほいさぁ。じゃあトドメ行きますか」


 ガラさんは右腕に巨大なチェーンソーを作り出す。そして大きく跳躍するとほぼ反転に近い角度のアーチを宙に描き、そしてシュガーゴーレムにチェーンブレードを突き立てた。


「シュギイギギギギギイギギギッギイイイイイイイ!!!!!!!!」


 そしてシュガーゴーレムは爆散した。


「これで再生する心配もないし、どこかの村を襲う心配もないかしら?」


「そうですね。それじゃあふるちんさん。木炭車に燃料を補給して近くの村に向かいましょう」


「そうか。村で砂糖を売って金に変えるんだな?」


「はい。では燃料の補給をお願いします」


 そう言ってももかんは俺に砂糖。いや岩砂糖の入った袋を手渡した。


「これはまだ早いだろ?」


「いえ。ですから車に燃料を補給するんですよ」


「燃料って。木炭車の燃料は薪だろ?」


「いえ。木炭車は可燃物だったらなんでもいいんですよ。ですから岩砂糖を程よい大きさに砕いて釜にくべてください」


「・・・マジかよ」


「これはバイオ燃料といって大気中に排出するCO2がとても少ない素晴らしい燃料なんです。ストライクガンドゥムに使われている乾電池よりも素晴らしい燃料なんです。あ、もしかしてふるちんさんの世界ってバイオ燃料がないんですか?私達の世界よりずっと遅れてますね。現実世界燃料は遅れてる!!!」


 ももかんの言うとおり、岩砂糖バイオマスエネルギーで動く木炭車は、従来比30パーセント増しの速度で走るような気がした。

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