第30話 女騎士の話をしよう2

 翌朝。


 俺達はリンゴ村を出立し、サルディスの街へ向けて北上を開始した。水筒の中身は特産品のアップルジュース。弁当はやはり特産品のアップルパイである。


「ガラさん。二日酔いのほうは大丈夫ですか?」


「ええ大丈夫よ。自分の体重以上のお酒飲んでないし」


 ガラさんはそう言いながらアクセルを踏み込む。木炭車はリンゴ畑に突っ込むことなく農道を快走していった。アルコールは完全に抜けているようである。


「さて、ふるちんさん。帰りも少々時間がありますので楽しい楽しい女騎士のお勉強をしましょう」


「そうだな!!魔法の勉強なんて糞くらえだっ!!!」


「それではこちらの女性をみてください」


 ももかんが魔法で幻像を作り出す。右手に長剣を持ち、左手にスクトゥム。長方形の盾を持った女性の映像だ。ただし昨日のセイバータイプと違う。

 腕はオペラグローブ。脚はサイハイソックス。そして胴体はなんとクロス・ストラップの水着という井出達。


「さぁふるちんさんこの女性戦士を見て感想を一言お願いします」


「素晴らしいな!!小説の挿絵もコミカライズの時も、アニメ化する時も大変見栄えがいい事だろう!!!」


「ではこの女騎士を便宜上ブーティカタイプと命名しましょう」



「くっころっ!!!」



「しかしあれだ。こんなまったく実用性のない水着みたいな恰好歴史上実在なんかしてないだろ。所詮はなろう作家の妄想の産物だ」


「なろう作家というか男性小説家。というか全男性ファンタジー小説愛好家の憧れでしょうか?1920年代にアメリカで刊行されたライトノベルの表紙はこんな感じの女戦士だらけだったということですし、国民的RPGドラゴンクエストシリーズの三作目にもこのようなデザインの女戦士が登場します」


「なんだよ。どいつもこいつも創作作品で考える事は一緒かよ」


「あ、いえ。このブーティカタイプの女騎士。実は最近の研究で歴史学的に正しい事がわかってきました」


「マジかよそれ?」


「古代ローマに闘技場コロッセウムというのがあったのはよく知られていますが、そこで戦っていたのは賞金目当ての庶民だけではありません。その多くは犯罪者。死刑囚。そして戦争捕虜などでした。遠くローマの都から離れた地で戦いに敗れた『蛮族』達の捕虜を戦闘奴隷として闘技場で戦わせていたんです。その結末に関してはまちまちで、あっさり死ぬものもいれば戦い勝ち残り、人々に賞賛されるような英雄になるものもいれば、スパルタクスのような後世の歴史に名を残す剣闘士もいました」


「スパルタクスは男だろ?」


「では本題に入りましょう。ローマ軍は南はエジプト。東はイエスキリストが産まれたイスラエル。北はフランスまで支配していました」


「広いような狭い感じがするな」


「そして西。海を越えてイギリスまで軍隊を送っていたのです。あ、中世ヨーロッパにアメリカ大陸まで到達できる造船技術はありません」


「じゃあイギリスが西の限界か」


「そのイギリスにはブーティカという女王様がいました。ブーティカさんは侵略者であるローマ帝国軍に対し、自ら剣を持ち、兵を率いて戦いますが、敗れ、そして一般ザコモブローマ兵の(ここが重要)の慰み者にされてしまいます」



「くっころっ!!!!」



「でも、それって日本製の出来の悪いクソなろう小説の設定だろ?」


「いえ史実ですので。イギリス行くとちゃんと侵略者であるローマと戦った英雄としてブーティカさんの石像があります」


「えっ?でもくっころだろ?」


「たぶん歴史上最古のくっころじゃないですかね?ですから中世ファンタジー世界にくっころがあっても問題ないんですよ。そしてこちらにありますのが」


 ももかんは画の刻まれた石板を見せた。


「こちらはイギリスのコルチェスターで発掘された大理石製の石碑ですね。明らかに乳房があるので間違いなく女性です」


「なんでイギリスに古代ローマ帝国の石碑があるんだ?」


「そりゃローマ帝国はイギリスまで攻め込んだんですからね。イギリスの遺跡にローマ軍の遺物があっても不思議じゃありませんよ」


「そうか!!ローマ帝国軍のモブ兵士達は女王ブーティカを生け捕りにする事を成功にして、それは歴史上の揺るぎない事実なんだな!!!だったらそういう石碑があっても当然だ!!」



「くっころっ!!!」



「それで古代ローマ剣闘士ですが、剣、盾、のほか、手甲や脚甲。場合によってオプション装備。そして兜を装備します」


「フル武装だな」


「そして女性剣闘士ですが、仮に出版物の際は挿絵が入れられて大変素敵な事になりますね」


「売上に貢献だな」


「剣。盾。手甲と脚甲とここまでは一緒ですが、兜は決してかぶりません。そのかわり、髪型をきっちりとセットし、顔にはしっかりとお化粧を施します」


「なんで兜をかぶらないんだ?」


「古代ローマでは男性の奴隷値段を基準とし、歌の上手い女性をその10倍。美人の女性を20倍の値段で取引していたそうです」


「おい」


「では、美人で強い高貴な女性が奴隷として売られる場合そのお値段はいくらになるでしょうか?」



「くっころ!!!」


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