第27話 女騎士の話をしよう
俺は自動車ならぬ木炭車。その後方に据え付けられたかまどに薪をくべた。これがガソリンの代わりだ。
「燃料投入オーケー。とっ」
そして予備のガソリンならぬ予備の薪を持って車内へ。同じくももかんもサンドイッチや水筒。水筒はプラスチックや金属製でなく、ファンタジー世界なので革袋だ。それらピクニック用の荷物を持って車の後部座席へ。運転席に座ったのはももかんの母のガラだ。
「それじゃあ二人とも。シートベルトを締めて」
「はい。わかりました」
「なんでシートベルトを締める必要があるんだ?」
「コミカライズはもちろん、万一アニメ化した際、深夜枠なのに『子供が真似したらどうするんだ!』と抗議してくる人がいるからです。未成年者は後部座席でシートベルトです」
「そうだな。シートベルトは大事だ」
俺はシートベルトを締めた。木炭車はゆっくりと発進し、サルディスの街を制限速度40キロ以下で移動していく。どうして制限速度があるかって?道路交通法を守らないと万一アニメ化した時に抗議してくる人がいるからだ。
街から出る際、ガラは警備兵に運転免許証を提示した。免許不携帯での運転は道路交通法違反だ。ちゃんと持っている事をこうやってアピールしよう。そうしないとテレビ局に抗議してくる人がいる。
「ところで、どこまで行くんだ?」
青々と茂る穀倉地帯を窓ガラス越しに見ながら、俺は尋ねる。おそらくは小麦だろう。わーい。とっても中世風ファンタジーだぁー。
農作業をする農民の姿が見える。事前にももかん達の説明があった通り、本当に魔王が倒された後の世界らしい。魔物の脅威など皆無のようだ。窓を開ければ草いじりをしているせいだろう。畑特有の土の香りがする。都会のコンクリートジャングルではこんなものはしない。
「ふるちんさんに是非とも御見せしたいものがございまして。ただサルディスの街から少々離れています。馬車で二日。この車でも片道丸一日かかります」
「結構遠いんだな」
「寝ないでハンドル握り続ければ行ってその日のうちに帰って来られる距離よ。ただ、実際には途中で燃料を補給する必要があるし、そもそも運転している私が疲れちゃうからね。だから今日は目的地で一泊して、戻ってくるのは明日ね」
ガラさんはそう言った。なるほど。ガラさん自身は食事も睡眠もウンコもする必要もないなろう主人公でもない。ご飯も食べればきちんと寝るし、当然トイレにも行くのだ。そしてこの木炭車もまた永久エネルギー機関で動く無敵のスーパーロボットではない。木炭車だ。おそらくは途中の村や町で薪を購入してその都度竈にくべ直し、燃料を補給する必要があるのだ。そう考えると目的地で一泊するのは当然と言える。
「さて、景色を楽しみながらドライブというのは悪くないかもしれませんが、流石に同じ景色ばかりというのは飽きるでしょう」
「そんな事ないさ。アニメ制作サイドからすれば同じ背景をループするだけで場面がつなげられるから願ったりかなったりじゃねえか?」
「視聴者的には不満だと思いますので中世ファンタジーならではのお話をしましょうか」
「中世ファンタジーならではの話?わかった!魔法の使い方を教えてくれるんだな?
「馬鹿じゃないですか?そんなの魔法学科の賢者の小学校女子更衣室に盗撮カメラを設置する先生にでも聞いたらどうする?「イメージも大事だけど魔力制御はもっと大事。魔力制御するイメージをして魔力制御を鍛えて」とか教えてくれますよ」
「なんだと?!!じゃあ他に中世風異世界ファンタジーっぽい話題って何があるって言うんだよ?!!」
その質問に対するももかんの問いは、酷く。単純な物だった。
「女騎士の話ですよ」
「女、騎士・・・。だと・・・!!!」
盲点だった。確かにそれは中世ファンタジーだ。このうえなく中世ファンタジー。
「よく考えてみてください。魔法学科の賢者の決められた日にゴミ出しをしない生が魔法の説明をします。するとその背景はE=MC2だのの数式だったり、三角や四角だの図形だったりだのがクルクル回っているでしょう」
「俺の大嫌いな算数の授業のようだな!!アニメで見たら吐き気が止まらないぜっ!!!」
「ですが、私達は今から女騎士の話をします。すると背景はどうなりますか?」
「女騎士だ!小説の挿絵、コミカライズ、そしてアニメ化。そのすべての背景が宙を飛び回る女騎士で埋め尽くされていく!!なんて素晴らしい光景なんだ!!!!」
「と、言うわけで女騎士の話をしましょう」
「ああ!!もちろんだとも!!!!糞を拭いた後のトイレットペーパー以下の魔力制御の方法なんてしてたまるか!!!」
「そうです!!魔法学科の賢者の無銭飲食生の異世界オナニーにつき合う必要はありません!!!私達に必要なのは現実オナニーするための知識なのです!!!」
「現実オナニーだとっ!!!」
「だってふるちんさんやなろうの大半の読者はもう女の子を洗脳魔法でアヘ顔ダブルピースにする魔力制御する知識をお持ちのはずです!!ならば女騎士!女騎士に関する深い知識を手に入れれば素晴らしい現実オナニーが可能となるのです!!!」
「なんて素晴らしいんだ!!!よし、女騎士の勉強をしようじゃないか!!!!」
俺はももかんの意見に激しく同意した。
「中世の女騎士といえばジャンヌダルクが有名だよな」
「あ、女の子を丸焼きにするのはゴブリンレイパーにでも任せてください。私は死体性癖者ネクロフィリアではありませんので」
「まぁ俺もどっちかといえば生きてる方がいいな」
「女騎士には大きく分けて二タイプあります。女性らしいロングスカートに手甲や胸当てを身に着け、剣や盾を装備した姿で戦う者です」
「セイバーさんやんけ」
「と、いうわけでこれを便宜上セイバーさんタイプと呼びましょう」
「いいのか?」
「既に一般名詞として定着してますし」
「グーグル検索でこいつしか出てこないからな」
「歴史学的見て極めて正しいタイプの女性騎士の姿です。中世十字軍遠征時代の女性はこういう井出達で戦場に赴いています。史実。創作問わず『女騎士がいる』という表現があったらだいたいセイバーさんタイプの武装をした女性がいると考えていいでしょう」
「でも、現実には女騎士なんていなかったんだろ?」
「いました。それもかなり」
「嘘マジで?!」
「まぁこれには理由がありまして。別に積極的に戦場に送るわけじゃないんですよ。中世の社会構造は基本こうなっています」
国王
↓
領主(騎士)
↓
平民(含む冒険者)
「たいがいの異世界ファンタジーもこれに準じた社会身分構造になっているはずですよね?」
「あ?うーん。まぁそうなんじゃないかな?」
「国王を日本で言う大名。騎士を侍。に置き換えるとわかりやすいですよ。土地はすべて国王のものなんです。各騎士は国王にそれを貰う代わりに国王の兵士として戦場で戦います。で、土地はそのままでは意味がないので平民を住ませて小麦を造らせます。造った小麦を商人に売って騎士は収入を得ると」
「ふーん」
「ちなみにゴブリンレイパーではしょっちゅう村がゴブリンに襲われますが、これ。土地を管理する騎士は冒険者以上に積極的にゴブリン狩りしないといけないんですよ。だって村が滅んだら小麦を育てる人がいなくなる。つまりその土地を治めている騎士は小麦を売って収入を得られなくなるんです」
「なるほど」
「その点『これすご』に出てきた女騎士は騎士。貴族の見本とも言える素晴らしい人ですね。積極的に領地内の細々な問題を解決しようと努力し、あるいは武器を持たない街の住人の盾となる。ふるちんさんもあのような武人を目指してください」
「お、そうだな」
「で、ここからが重要なんですが、騎士の土地っていうのはあくまでも国王から貸与。つまりレンタルしているだけなんですよ。つまり何か理由があれば返さなければならない」
「何か理由?」
「例えば跡継ぎの息子がいない場合、じゃあお前もうその土地も騎士の身分もいらんよね?って国王に言われて全部とられちゃいます。いわゆる『御取りつぶし』です。国王はその騎士の土地を回収した分だけ自分の収入が増えるんで機会があれば積極的に狙ってきます」
「まぁ日本の江戸時代と一緒だな」
「そこで重要となるのが娘です。中世ヨーロッパには徳川幕府がありません。つまり徳川幕府が造った、『女武士は家督をついではいけない』という法律がないんですよ」
「え?ていうことは?」
「息子が居なくても、女の子がいればオッケーです。その子に名目上の騎士身分を継がせ、跡継ぎにします。あとはそこそこ有望そうな貴族の息子と結婚させれば御家は安泰です。娘が優秀ならそのまま家督を譲って『女王様』にしてもいいんです」
「なるほど。てっことは?」
「現実の中世ヨーロッパには女騎士が実在するのです」
「現実の中世ヨーロッパSUGEEEEEEEEEEEE!!!!!!」
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