第28話 街から出て三時間
サルディスの街から出て、三時間ほど経った頃の事だ。急に木炭車が停止した。
「ガラさん。どうしたんですか?」
俺が尋ねると、ガラさんは車両の左側を指さした。道から離れた場所に何やら人だかりができている。
「なんだろう?あれ」
「ちょっと気になるから、様子を見に行ってもらえるかしら?」
「まぁいいですけど」
俺は木炭車から降りた。
「あ、ついでに燃料を補充しといて」
「え?この近くにガソリンスタンドなんてないですよ?」
「じゃなくて。これ木炭車だから薪で動くのよ。車の上に薪が積んであるから車両の後ろにあるかまどに放り込んで頂戴」
「・・・俺がですか?」
「折角降りたんだし。お願いね」
俺は若干不満ながらも木炭車に追加の薪を補充した。
「では、参りましょうかふるちんさん」
ももかんも木炭車から降りた。
「お前も手伝えよ。ていうか薪のささくれが手に刺さって痛いんだぞ」
「それはいい経験をしましたね。私は回復魔法があまり得意ではありませんので。今度からは怪我をしないよう軍手を装備してから作業するようにしてください。軍手は町の道具屋に行くと購入できますよ」
「ああ。それは素晴らしいアドバイスだな!覚えておくよ!!」
俺はももかんに悪態をつきながら人だかりの方に向かう。連中はどうやら冒険者のようだった。何もない空間をぐるりと取り囲み、ドーナツ状になって二十人ばかりが集まっている。何かの儀式だろうか?
「気を付けてくださいふるちんさん。彼らはどうやらこの世界の人間ではありません。全員転生チーターのようです」
「転生チーター?そんな奴らがなんでこんな何もない草原の真ん中で円陣を組んで座っているんだ?」
「私達はそれを調べに来たんじゃないですか」
まぁそうだな。こうして見ていてもしかたないので俺は連中とコンタクトを取ることにした。
「やぁ。アンタ達。冒険者かい?実は俺も駆け出し冒険者なんだが。いったいここで・・・」
俺が転生チーター達に話しかけると、そのうちの何人かが俺に振り向いた。
そしてそのうち一人がいきなり俺を遠慮なくぶん殴って来たのだっ!!
パァンッ!
ガシャ!
倒れ込んだ俺をさらに蹴りつける転生チータ共。
「おいおいこいつ?HP1の状態でまだ生きてやがるぜぇ?劣等民族の異世界人の分際で随分と頑丈なもんだ。ククク」
「バァカ。ちゃあぁんとステータスチェェクしてみろよ?こいつ死霊魔術かかってやがる。確率で瀕死復活状態を付与だとよ」
「なら遠慮なくボコッても問題はないよなぁ?」
「そこら辺にしておいてもらえますか?彼は私の連れなので」
ももかんが帽子を深くかぶり直してから転生チーター達に頼み込んだ。いや。そんな暇があればこいつらを攻撃魔法で吹き飛ばしてくれ。
「なんだぁ坊主?お前さんも痛い目にあいてぇのか?」
「ばぁか。ステータスはちゃんとチェックしろって言ってるだろうが?こいつ性別:女だぜ?」
「なら俺の洗脳奴隷スキルでアヘ顔ダブルピースにしてやるぜ!くらえ!!!」
するとももかんの前に
『NO EFFECT』
という英語が表示された。
「なんだこれは?」
「ノーエフェクト。効果なし。つまり私の方が魔力が高い。その他の条件で貴方のスキルが無効化された。というシステムメッセージだと思いますが」
「くそう。格上の相手か・・・」
転生チーター達は一斉に後ずさった。
「な、なんだ?一体どうしたんだ?」
「彼ら転生チーター達はみんな卑怯者なのです。弱者には強い態度に出ますが、自分より格上の強者には徹底的に媚びへつらう。そういう人種なのです」
「ただの人間の屑やんけ」
「それで、皆さんはここで何をしてらっしゃるのですか?」
「ゴブリンがポップ(出現)するのを待っているんだ」
「ゴブリン退治ですか?皆さんのような強い冒険者にはいささか簡単過ぎるお仕事だと思うのですが?」
「ふん!そんな事もわからないとは所詮は愚かな異世界人だな!」
「多少ステータスが高くても転生チーターの俺達よりは知能が低いと見えるっ!!」
「その通りだ。異世界人は全員俺達日本人の転生チーターよりも頭が悪いのだ」
「では、その愚かな異世界人に大変優秀な皆さんが何をなさっているか。教えて頂けないでしょうか?」
ももかんは深々と頭を下げて転生チーター達にお願いした。
「なんだこいつ?異世界人の分際で妙に礼儀正しいぞ?」
ももかんの対応に、転生チーターは戸惑っているようだ。この行動は彼らの『常識』とは大きくかけ離れているようだった。
「まぁなんだか気分がいいから教えてやらんでもない。俺達はここでゴブリンがリポップ(再出現)するのを待っているのだ」
「ゴブリンのリポップ?」
「お前達のような低レベルな異世界人どもにはわからんだろうな。ゴブリンは大量に殺しまくるとどこからともなく補充されるのだ」
「そんな!質量保存の法則に反したことが起こるわけが」
「黙れ!下劣な現地異世界人如きが俺達に口答えするなっ!!!」
転生チーター達は俺の口を蹴り飛ばした。顎が砕け歯が零れ落ちる。下手したら致命傷になっていたかもしれないが、この連中がかけたであろうなんたらとかいう魔法のせいで俺は死ななかった。拷問に適した魔法があるなんて酷い世界だ。
「リポップのタイミングは50分毎だ」
「それも一匹や二匹ではない。ここではなんと一度に1000匹も再出現するのだ」
「一度に1000匹も!!??それは大変な事ではないのですか?」
「俺達は全員転生チーターだ。ゴブリンの千匹や一万匹など怖れるに足りん。むしろ好都合だ」
「ゴブリンは倒すと銅貨を一枚落とす。つまりリポップした瞬間に攻撃魔法を撃ちこんで倒せば一度に銅貨が千枚手に入るのだ」
「さらにドロップ率アップのスキルをつければ20パーセント、40パーセントと上がっていく」
「俺はスキルをすべてドロップ率に割り振ったぞ。これで1000パーセントアップ。銅貨が千枚が千パーセントだからえっと・・・」
「理論値で一万枚?」
「その通りだ!!」
「だから俺達はこうしてゴブリンが再出現するのをずっと待って」
「ゴブリンが出るぞ!!」
その一言で転生チーター達は即座に戦闘態勢に入った。円陣の中心部が揺らめき。
「ウキ・・・」
どごごごおごごごごごおんんんん!!!!!
可哀そうなゴブリン君は0.4秒で地上から消滅した。
ちゃりんちゃりん。
クレーターの底に銅貨が二枚。
「おい!ゴブリンが1000体でるんじゃなかったのか!!」
「攻撃するタイミングが早すぎたんじゃないのか?」
「そんな事言って抜け駆けするつもりだったんだろう?」
「そもそもドロップ率アップ1000パーセントのスキルを持っている奴がいるんだ!銅貨が千枚落ちないとおかしいじゃないか!!!」
「え?いやさっき地元異世界人が10倍って・・・」
「ふざけんな!!てめぇがスキル通り1000枚銅貨落とせばいいんだよっ!!!」
どすッ!!!
転生チーターの一人は取得スキルしか持っていない奴を後ろから突き刺した。
「あ、ぐえぁ」
ちゃりんちゃりん
900枚近い金貨をばら撒いて取得スキルしか持っていない転生チーターは事切れた。
「戦闘能力がないから簡単に倒せたようですね。しかもお金をたくさん持っています。あと、ここは町の外なので今のは罪に問われません」
「へへ。そうかいそれじゃあ」
たちまち転生チーター同士の醜い殺し合いが始まった。
斬撃音と魔法の爆発音が木霊する中、ももかんは足首をへし折れた俺を引きずりながら悠々と木炭車に帰っていく。
「ただいま戻りました」
「おかえりももかん。なんか向こうの方、にぎやかだけどどうかしたの?」
「パーティをしているだけのようです。無視して先に進んでください」
「了解」
ガラさんは木炭車を走らせる。戦闘の喧騒は徐々に遠ざかっていく。
「ふるちんさん。異世界特産のメッサ効く薬草ですよ」
「あ、ありぎゃほ」
歯がへし折れてるのうまくしゃべれなかった。俺は右手で受け取ろうとして、指が骨折してるのでやめた。代わりに左手で受け取り、食い始める。みるみる怪我が治っていく。
すげぇ効くな。この世界の薬草。日本のユンケルなんて目じゃないぞ。新しい歯まで生えてきやがった。
「ていうかあいつら俺達を見逃してくれたな。意外と親切な連中だぜ」
「いえ。あれは私の魔術です。私は光属性と闇属性の魔法は使えませんが、それ以外の魔法は使えます。隠蔽の魔法を使用しましたので」
「隠蔽の魔法?」
「他者から姿を隠す魔法です。相手に攻撃を仕掛けない限り見破られる事はありません。その状態でふるちんさんを引きずって退却しました」
「ま、隠蔽は光でも闇でもなさそうだからな」
俺は遥か後方を見た。
50分毎にゴブリンが出現するのを待っている連中がいたあたりで、一際デカい爆発。キノコ雲が立ち上がる。本当に楽しそうだな。あの場所には居たくはないが。
「あと、ふるちんさん。この記事を見てください」
「なんだ。新聞か?」
『本日の定期メンテナンスにより、一部モンスター配置が間違っている個所を修正させていただきました』
「それ、二日前の記事ですね」
「どういうことだ?」
「彼らの言っていたゴブリンが1000匹出るというのは一昨日の水曜日の13時まで。18時以降はあの場所では一匹しか出ないようメンテナンスで修正されています。あと、定期メンテ中に終わったので詫び石はありません」
「ショッパイ運営だぜ」
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