第14話 魔王、勇者と戦わずして死す
「魔法学科を一掃した王子は魔法学科に変わり、普通学科を創設しました。きちんと入学試験、進級試験、卒業試験を受けないと卒業できません。また街中で無意味に攻撃魔法が炸裂されることもなくなり、その復興予算や被害者手当てもなくなったので別の事に国のお金を使う事ができるようになりました」
「でもよぉ。ももかん。お前魔法使いだろ?どこで魔法習ったんだ?」
「趣味です。そして領内各地でゴブリンやら盗賊やらを征伐し、放浪の冒険者クロイソスの名声は徐々に高まって行きました。そんな中、妙に魔物が多い廃城があるという噂を彼は聞きつけました。人里からは一応離れていますが、冒険者ではなく、『王子』としての使命感からそれを放置してはいくまいと彼は考えました。財宝があるかもしれないと仲間を説得し、とりあえず調査しに行くことにしました」
*
「フフフ、よくここまでやって来たな。魔王マイルズ様の命を狙う愚かな人間よ・・・・」
「何?!魔王マイルズだと!?奴は千年前に死んだはずだっ!!」
「だが蘇がえなされたのだ。しかし今はまだ完全体ではない。だが魔力を集め、十数年後、千年忌おいてお前達を冥府に誘う・・・」
「魔王マイルズはまだ完全体ではないのか!!?」
「その通りだ。だからこの魔王城の地下でその時が来るまでゆっくりと休息されておるのだ・・・」
「なら今攻撃すれば簡単に倒せるな!!」
「そうはいかん。この城は地下各層ごとに魔王マイルズ様の腹心の部下が扉を守っている。我らを倒さねば階下に降りる事はできん・・・」
「ならまずはお前からだっ!!!」
「フフフそれはどうかな?我が名はジェリュス。スライムの王。有機物だけでなくあらゆる鋼鉄をも溶かす能力を持つ・・・」
「何?!私は鉄のナイフで心臓を突かれただけで死ぬぞっ!!」
「フフフ、我が養分となれぇぃ!!」
とっぷぷぷぷ
「くくく、どろどろに溶けてしまったようだな・・・」
「プハァ、息苦しいし泳ぎずらいな」
「なにぃん?!なぜ溶けないっ!!!」
「なんか宝石みたいなのをついでに拾ってしまったな。値打もんだろうか?」
「そ、それは私の核コア!!!か、かえせ・・・!!!」
「あ、われちゃった。すまない」
「うじょー。ぐじゅるぐじゅる」
「お、なんか下の階に降りる階段が開いたな。先に進もう」
*
クロイソス王子は先に進みます。魔王は既に復活しているのです。一刻も早く倒さねばなりません。
*
「ウォー!俺様は獣王ライオネス!!俺の爪は鋼鉄をも切り裂く!!」
「何?!私は鉄のナイフで心臓を突かれただけで死ぬぞっ!!」
「貴様の全身をバラバラに切り裂いてやるっ!!」
ぱっきーん。
「ギャー!俺様の爪がーーっ!!!イテェーヨ!イテェーヨ!!」
「やかましい。黙れ」
ぐさり。
「お、下の階に繋がる階段が開いたな。先に進もう」
「ギャース!我こそは竜王ドラグナー!!我が炎は鋼鉄をも溶かす!!」
「何?!私は鉄のナイフで心臓を突かれただけで死ぬぞっ!!」
「貴様の体を焼き尽くしてくれるっ!!」
ごうっーーー!!
「なにっ?燃えないだとっ!?」
「熱いじゃないか。具体的にこれくらいだぞ。ほれベアハッグ」
「ギャーアジー!!!シヌーーー!!!」
「お、下の階に繋がる階段が開いたな。先に進もう」
「我が名はコキュートス。最強の氷雪系魔法の使い手。つまり我こそが魔王マイルズ様の配下で最強。
つまり我こそが世界最強の存在」
「何?!私は鉄のナイフで心臓を突かれただけで死ぬぞっ!!」
「エターナローウチートブリザード」
ぴきーん。
「くくく。どうやら魂まで氷つ」
ぱきーん。
「冷たいじゃないか」
「グワーッ!!」
「こいつが今まで一番弱かったな。まあいい先に進もう」
「グフフ。俺様はスペーストマック。俺の胃袋は肉だけでなく鋼鉄をも溶かす!!」
「何?!私は鉄のナイフで心臓を突かれただけで死ぬぞっ!!」
「俺様、お前、丸のみ!!」
ごっくん。
「ふう、お腹いっぱ」
バァアアアーン。
「ふぅ。あのでかいカエルの親玉はどこへ行ってしまった?戦わずに逃げ出すとは騎士道精神のないやつだな。お、下に向かう階段が開いてるぞ」
*
「こうして、クロイソス王子は魔王直属の親衛隊と死闘を繰り広げつつ、慎重に最深部に向かって行ったのです」
「いや楽勝だったんじゃないのか?」
「ですが最深部の手前。魔王マイルズまで後一歩というところで王子を待ち受けていたのは恐るべき強敵でした」
*
一際立派な扉。これを開けた先にそれ相応の相手がいるだろう。
まぁ今まで変わらない。
そんな余裕は扉を開けた瞬間に吹き飛んでしまった。
この室内に入っていけない。クロイソスは直感した。地下迷宮にも関わらず、明るい室内。扉同様豪勢な室内。奥には自分の父が座るような玉座があった。だがそこには座るべき主の姿は見受けられない。
代わりに少し手前に正座して座る、一人のメイドの姿があった。
強い。
クロイソスはそう判断した。
この娘は自分を一撃で殺せる力を持っている。
「入りなさい。お前は私の主を葬りにきたのでしょう?」
静かにメイドは囁く。
「私は鉄のナイフで心臓を突かれただけで死ぬぞ?」
クロイソスは今まで自分が葬ってきた魔王マイルズの忠臣達に宣言したのと同じ言葉を告げた。
「ならば私はこの刃でその首をそぎ落とすまでの事」
メイドの前の床には、一本の細長い剣が置かれていた。
「無明黒鉄むみょうくろがね我が主より拝領せし一刀。これにて主君への忠義の証を示す。鞘から剣を抜くがいい。それくらいの猶予は差し上げましょう」
クロイソスは剣を抜いた。ゆっくりと。
「何の真似です?」
「我が名はクロイソス。サルディスの王子として魔王マイルズに挑む者だ」
「お前の名前などどうでもよい。持っている武器が問題なのだ」
クロイソスが鞘から抜いたのは、銅の剣だった。
「・・・ふざけているのですか?」
魔王に挑もうという不埒者が取り出した武器が銅の剣である。
「お前だってそんな細い剣じゃないか。そんなんでフルプレートアーマーを切りつけてみろ。簡単にへし折れるぞ」
「この無明黒鉄は叩くためではなく切る目的で造られた剣。即ち、我が主を守る為に只己が眼の前に立つ敵に死を与える目的で造られた一刀也。この刃に触れた者はそれがどのような存在であれ、必ず死を与えよう」
「でもそれってただの鉄の剣だよね?」
「如何にも」
「なら俺の銅の剣の方が凄いぞ。なぜなら鉄の剣は錆びるが、銅の剣は錆びないからだ。銅の剣を地中に埋めて置くと千年後考古学者が土器と一緒に銅の剣を発見するのだ。嘘だと思うなら大学行って専門の教授に聞いて来い」
*
作者補記:ウィキペディアで確認してもいいぜ?
*
「だからなんだというのです?銅の剣が鉄の剣より優れている。貴方はそう言いたいのですか?」
「つまり、この銅の剣で魔王マイルズを倒せばこの銅の剣が聖剣クロイソスカリバーとして人々に語り継がれるのだ。そしてこの城の宝箱に隠しておけば伝説は完璧なものとなる」
「たわけたこと。そんな銅の剣で魔王マイルズ様が」
「究極暗黒即死魔法!!(アルティミットダークデスブレレイド!!)」
その真っ黒な本流は玉座の後ろの壁から突如溢れ出した。そして玉座を破壊し、メイドの頭上を飛び越え、クロイソス王子を飲み込んだ。
「今の魔法は、マイルズ様っ!!!??」
そう。壊れた壁の中から骸骨の魔術師が現れた。この人物こそが(という表現でいいのだろうか?)魔王マイルズその人だったのだ。
「やった!やったぞ!!儂の選りすぐりのモンスターを片っ端から倒していった化け物冒険者を究極即死魔法で倒すことができた・・・!!」
「嬉しい・・・」
メイドは魔王マイルズにひざまずき、涙をこぼし始めた。
「てっきりマイルズ様は私を囮に、隠し通路から自分一人だけ逃げるつもりだと思っていました・・・」
「あ、それは、そのね・・・」
言えない。出口のところになんか凄く強そうな冒険者がいて、逃げられなかっただんて。しかも自分の苦手な神聖魔法を使う僧侶職が多かったから喧嘩を売るのをやめにしただなんて。その冒険者の正体はクロイソスが連れて来た冒険者の仲間の一部であり、負傷した仲間の治療の為地上で待機していたのであるが。
「ですがそれは私の勘違いでした!マイルズ様は私を囮にして敵の注意を引き付け、隙を伺い、さらに呪文詠唱の時間を稼いでいたのですね!!」
「あ、う、うん。そ、そーなんだ。実は」
そういうことにしておこう。
「サキュバスとスライムを材料にして創られた合成獣キメラである私はマイルズ様の性欲を満たす為の玩具に過ぎませんでした。マイルズ様の魔力が余っている際にスライムとしての能力でマイルズ様の腰骨辺りと融合し、サキュバスとしての能力で魔力を吸い上げる。それによりマイルズ様に疑似的な性快楽を与えるだけの存在であった私が、よりにもよってマイルズ様の一番大事な戦いでお役に立てるとは思ってもいませんでした」
「な、なにをいうんだ!私は君をそんな目的で造ったんじゃない!!最初から最終防衛用の親衛隊、ロイヤルガードとして設計したに決まっているだろう!!」
「まぁ!そうだったのですか?!では暇さえあれば私に魔力供給を行われるのは?」
「もちろんいざという時にしっかり働いてもらう為じゃないか!!!」
「そうでしたか・・・」
メイドは頬を赤らめた。
「ところでマイルズ様。喜ばしいお知らせがもう一つございます」
「なんだね?」
「子供ができました」
「はい?」
「それと悪い知らせだ。アンタはもう死ぬ」
メイドは床に崩れ落ちた。そして魔王マイルズは壁に叩きつけられた。
「ゲ・・・が・・・っ!!?」
しっかりとした足取りでクロイソス王子が立っていた。先ほどメイドが立っていた場所の真後ろである。その左手には真っ赤な水晶玉が握られている。
「地下一階でスライムの親分と戦っていて正解だったな」
クロイソス王子はメイドの持っていた鉄の剣を自分の鞘に納めると、自分の剣。銅の剣の腹で己の肩をトントン叩く。
「一応名乗っておく。我が名はクロイソス。ヘラクレス家の十二代目。開祖の名に恥じない戦いをさせて頂く」
「え!?ヘラクレス?!?!」
マイルズにはその名前に物凄く心当たりがあった。
「なんだ。私の御先祖様に会ったことがあるのかな?もしかして戦ったことがあるのか?」
「・・・もしかして十二回倒さないと死なないヘラクレスさんでしょうか?」
恐る恐るマイルズは尋ねた。
「開祖はそうだったらしいと聞く。私はそこまで驚異的な力を持ってはいない。安心していいぞ。なにしろ半神の血も十二代も続くとだいぶ薄れていてね。お蔭で神を拘束する戒めの鎖エヌマエリシュも私には通じん」
「あのう。それって逆に強くなってないでしょうか?」
「言ったろう。私は人間の血が濃いと。ちゃんと死ぬさ。ただし条件があってね」
クロイソスは銅の剣を構えた。
「『鉄のナイフで心臓を突かれる』こと。これが条件だ。もちろん金属製であればそれ以外の武器でも構わんぞ?ただしそれ以外の武器や魔法はすべて無効だ」
魔王マイルズは、どうしてこいつ自分の弱点教えるんだろうと思った。
即座に理由がわかった。
あれ?俺こいつ倒せなくね??
「き、金属!何か金属製の武器はないのかっ!?この際だ!スプーンでもフォークでも構わん!!」
あわたて部屋の周囲を見渡し、食器の類を探す魔王マイルズ。
「お前、飯なんて食わないだろうがあああああ!!!!!」
ガン!ガン!ガアアガアアアアアアン!!!
「ウギャアアアアア!!!!!!」
魔王マイルズは通常の斬撃属性を無力化する特殊能力を持っていた。高い魔法耐性も持っていた。
だが。
クロイソス王子は銅の剣を使っていた。
銅の剣は。
叩いて使う武器である。
そして魔王マイルズは骸骨の魔術師。リッチであった。
弱点は聖属性。火属性。
そして。
打撃武器による攻撃にも弱い。
*
十二年後。
「やっと旧魔王城の最深部までたどりついたぜ」
「ここの旧魔王の間においてある伝説の剣とやらを持ちかえれば、俺達は晴れてお城の兵士ってわけだな」
「おっと、噂をすればだ」
「さっそく開けてみるぞ」
ギギィ。
「なんだこれ?ただの銅の剣だ?」
「手紙があるな。なになに。『其方こそ真の勇者なり。このクロイソスの剣を用いてやがて復活するであろう魔王を再び打ち払い、世界から闇を払うべし』。・・・なんじゃこりゃ?」
「合格祝いの記念品ってことだな。見ろ。御丁寧に奥に地上への近道まで用意してあるぜ」
「後から訓練生の為に作ってくれたんだな。クロイソス王子様様だな」
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