第13話 転生チーターと地元異世界人との戦い
クロイソス王子と別れた俺達は城の南東にある物見台にやってきた。
「まだ名前を名乗っていなかったわね。私はガラ。ガラ・プラキディアよ。覚えておいてねふるちん君」
「安紅鷹飛」
「婦女暴行容疑の疑いが晴れてよかったですねふるちんさん!!」
「強盗殺人の嫌疑もね。貴方は間違いなく異世界からの勇者よふるちん君!!」
「・・・ふるちんでいいっす」
まぁ今はパンイチだけどさ。
「城の物見台は南東が一番高いわ。それはあれを監視する為。御覧なさい」
ガラは物見台の手すりにつき、南東方向を見た。当然俺に背中を見せる姿勢になる。
美しい長い艶髪と、Tバックで剥き出しになったさぞかし元気な赤ちゃんの埋めそうな安産型のお尻が見えた。
「・・・何が見えるんだ?」
俺は南東方向ではなくお尻を凝視したくなる欲望を抑えるため、彼女の隣に移動した。すぐ眼下には城下街。街を外壁に囲まれ、草原が続く。そして大きな河挟んで対岸に岩山があった。
「河の対岸にある、岩山の山頂付近を見て」
「山頂?」
じっと目を凝らして見ると、何か建物の残骸らしきものがあった。
「あれが旧魔王城跡地」
「目と鼻の先じゃないかよっ!!」
「今はもう魔王がいないので、新兵の訓練施設になっているそうですよ」
ももかんが補足した。
「まず魔王を倒したクロイソス王子について話すわね。あれはクロイソス王子が16歳になった日の朝の事だったわ」
*
それはクロイソスが16さいのことであった。
「父上。我が国は最近、領内の魔物の数が増えて民が苦しんでおります。私はこれらを征伐し、人々を助けようと思うのです」
「それは良い考えだ。だがクロイソスよ。我が国には70年前に魔法学科の連中が制定した平和憲法により軍隊がないのだ」
「なんと!それは悪法です!!軍隊を用いて民を苦しめる物や外敵を排除する事は正しい事なのです!!」
「クロイソスよ。悪法もまた、法なのだ」
「では父上。軍隊ではなく私個人の力でなんとかしましょう」
「クロイソスよ。我が国は最近税収が落ち込んでおる。お前にまともな装備を用意してやれぬぞ」
「では、銅の剣と革の鎧と路銀として金貨を50枚ほど頂きましょう。それで充分」
*
「こうして、旅支度を終えたクロイソス王子は銅の剣と革の鎧だけを装備してまずは王都にある魔法学科の改革に乗り出す事しました」
「魔法学科の改革?」
「研究費の名目で国家予算を分捕っていくので、これを是正すれば大幅な国費削減ができると考えたからです」
*
「君達が魔法学科の生徒だね。まず僕の話を」
「素因数分解!」
「異次元放逐!」
「無属性土最強魔法!」
魔法学科の生徒達は話も聞かずにクロイソス王子に次々と攻撃魔法を叩きこんだ。
爆煙がしばらく立ちこむ。
そして晴れた後には。
まぁ当然のように無傷のクロイソス王子。
「畜生ーーちくしょうーーー!!」
「俺達は転生チーターなのに!!」
「全ステータスオール∞なのに!!」
「あらゆるチート攻撃を無効化しやがるぜこいつ!!」
「下等で愚かな中世ヨーロッパ風異世界風異世界土人原始人の分際でっ!!!」
「ちくしょうーー!!ちくしょうーーー!!!」
彼らは。確かに凄い能力だった。
レベル∞
種族:転生チーター
職業:魔法学科の落第生又は留年生
HP:∞
MP:∞
攻撃力:∞
防御力:∞
素早さ:∞
命中率:∞
魔法攻撃力:∞
知能:5
『知能5』というのは異世界転生しても、どれだけチート能力をもらっても、彼らは頭をよくすることはできない。頭がよくなるサプリメントなど、異世界に行ってもないのである。モンスターを倒して経験値とお金が手に入る世界はあっても、モンスターを倒して頭がよくなる世界はないのである。
よって彼らの知能は『5』。
なお、この能力値とやらはこの世界の住人であるクロイソス王子には一切見えないので、クロイソス王子は自分に向かって強力な最高クラスの攻撃魔法が放たれたなどど全く思っていない。せいぜい、魔術の失敗か、よくて派手な煙を上げる宴会芸をしたくらいにしか考えていない。
「待ちたまえ。私は君達と争うつもりなどまったくない。話し合おう」
クロイソス王子はこの国の施政者として極めて紳士的な対応を取った。素晴らしい。王侯貴族の見本(?)である。
「話あいだど?ふざけやがって!!貴様!貴様のふざけた改革のせいで俺達がどんな目に遭ったと思っているんだ!!」
「私はこの国の王子として、やがて王になるであろう私がこの国の民が幸せになる為に父である国王に助言するだけだ」
「なんだと?!では俺達の豪邸に固定資産税とやらをかけたのは貴様のせいかっ!!!?」
「そうだ。そして貧乏な庶民の税金は代わりに安くした。お蔭で民は豊かになった」
「魔法学科に入学試験と中間試験と期末試験と卒業試験を導入したのは貴様だな?そんなペーパーテスト如きで僕の真の実力は図れないんですよ。ドヤアアアアア!!!!」
「いや。学生の平均レベルは前より格段に上がったぞ」
「宮廷魔術師を廃止したのも貴様かっ!!」
「だってお前仕事しないし」
「よくも魔術研究所を閉鎖してくれたなっ!!!」
「人語を介するキメラの研究は禁止だ」
「許さん・・・貴様だけは・・・我らの全力を持ってクロイソス。お前の存在を消す!!」
「そんな事をしなくても私は鉄のナイフで心臓を刺されただけで死ぬぞ?」
「フフフ。命乞いをしても無駄だ。俺は椅子に座ったままの姿勢で空中浮揚ができるチート能力があるのだ」
「じゃあちょっと試しに飛んでみてくれ」
空中浮揚ができるチート能力者はちょっと飛んでみた。
「もっとだ。もっと高くだ」
「城の上くらいか?」
「いや。雲の上よりも高くだ」
空中浮遊ができるチート能力者は対流圏を越え、成層圏を突破し、この惑星の大気圏を軽々と突破した。
そして、戻りたくても戻れなくってしまったので、そのうち考えるのを。
やめた。
彼の知力は5だった。
「どうやら空中浮遊ができるチート能力者がやられたようだな」
「案ずることはない。奴など我らの中でも最も弱い・・・」
「次は俺が相手だ。俺は任意の場所にテレポートができるチート能力者」
「じゃあちょっと太陽まで行ってみてくれ」
「フフフ。それくらい簡単な事よ」
シュン!
太陽の表面温度は6000度である。
「ぐあああああああちゃああああああああああああああああ!!!!!」
瞬間移動ができる転生チーターは二度と戻ってこなかぅた。
瞬間移動ができる転生チーターの知力は5だった。
「どうやら瞬間移動ができる能力者がやられたようだな」
「案ずることはない。奴など我らの中でも最も弱い・・・」
「次は俺が相手だ。俺は相手に博打を強制し、敗北すると無条件に相手の魂を奪う事ができる」
「はい。チェックメイト」
ぷしゅうううう。
彼の知力は5だった。
「どうやら博打で魂を奪う能力者がやられたようだな」
「案ずることはない。奴など我らの中でも最も弱い・・・」
「次は俺が相手だ。俺は最強の剣と最強の盾を持つ」
彼は自分の魔力を右手に集中させ、剣を造り出した。そして全身にも魔力をまとう。
「俺はこの剣であらゆるもの切り裂くことができる。そして俺のこの魔力鎧はあらゆる攻撃を防ぐ。即ち、俺は最強の存在!」
「じゃあお前の剣でお前の鎧を切るとどうなるんだ?」
最強の剣と最強の盾を持つ能力者は自分で自分の体を突き刺した。
どくとくと止め度となく血が溢れ出す!
「ああ!ああ!なんと私は愚かなのだろう!!私は自分で自分の胸を刺してしまった!!ざんねん!私の異世界チート無双スローライフはここで終わってしまった!!」
最強の魔力剣を持ち、最強の魔力鎧を持つ彼の知力は、5だった。
*
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