第6話 今は亡きアニメ制作会社DONZO

「ムラニの皆さん。ちょっとこれを着てもらえますか?」


 ももかんは製作現場に中世ファンタジー風衣装を大量に持ち込んだ。


「これなんだいももかんちゃん?」


「皆さんの分身をファンタジー世界にぶち込むための前準備ですよ」


「僕らの分身?」


「今回のアニメは使いまわしによる予算と時間の節約が重要ですからね。製作会社皆さんのキャラデザを

ファンタジー世界の登場人物の一部に流用する事によってコストの削減を図ります」


「へぇー僕らがファンタジー世界の住人にねぇ」


「で、実際誰になるんだい?」


「水鳥監督には出発地点のサルディス国王。ふるちんさんに宝箱を渡してもらいます。五郎さんは王子のクロイソスをお願いします。近藤さんは魔王軍幹部の悪魔神官です」


「えぇー僕悪役かい?」


「っやだなー。俺王子様ってガラじゃないしー」


「変わってやろうか五郎?」


「全力で王子やらせてもらいます」


「私も何かやるんですか?」


「画麻さんは村娘。町娘。あるいは追加ヒロインになると思います」


「わかりました」


「それとは別にキャラ制作をしましょう。私の母のキャラデザをしましょう」


「お前の母ちゃんのデザイン?」


 ももかんは原作小説を見せた。


「小説の原文だと、『どことなく私に似ている』と描写がありますが、これだと困る思いましたので」


「うーん。確かにアニメやマンガだとパッと見て判るような特徴にしたいよなあ」


「どんなキャラデザにしましょう監督?」


 画麻が振る。


「とりあえず画麻ちゃんアラナミ描いてみて。あ、首から上だけでいいよ」


「アラナミですか?」


 画麻はジャギーショートの女の子の頭を描いた。


「なにこの生首」


「アラナミネイだよ。あー最近の若い子は知らないよな。90年代に大ヒットしたアニメのヒロインだぜ」


「これをベースにするか」


「ぜんぜんももかんと似てないだろうが」


「いいじゃん。原作に挿絵がなかったんだし。好きにデザインしちゃおうよ」


「俺はどっちかつーとロングヘアーの方が好みだなー」


「そうだねぇ。ももかんちゃんは髪が短いからロングにした方が差別化できていいかな」


「じゃ、伸ばしますね」


 ジャギーロングの生首が出来た。


「あれ?監督。このキャラ貴族の血を引くって設定ですよ。もっと貴族っぽくできませんか?」


「じゃあウェーブヘアー」


「ウェーブに変更」


「待ってください!これだと作画が大変です!!メインキャラで出番が多いのに作画が大変なのは致命的ですよ!!」


「でもこれももかんちゃんのママになる人だよ?貴族っぽくて、なおかつももかんちゃんの傍にいてインパクトのある見た目でないと」


 ももかんはちょっと考えて。


「私の頭をベースにします」


「ももかんちゃんを?」


 既にコンピュータ上に取り込まれたももかんのモデル。その頭部を操作する。無帽首から上だけの状態である。


「これにオタトモ4話でメインヒロインが食べていたチョココロネをコピーアンドペーストして大量にくっつけます」


「またオタトモかよっ!!しかもあの眼鏡キャラ原作だと脇役だろっ!!」


「ももかんちゃん。なんか髪の毛の後ろに大量のチョココロネをぶら下げた状態になっているよ?」


「いえ。このチョココロネと私の髪を」


 ももかんは画像ソフトを操作した。


「金色に変更すれば」


 するとももかんの髪の毛は銀髪縦ロールになった。


「あれ?」


「あ、さっきまでアラナミネイ造ってたからそのRGBカラーが残ってたんだね」


「いや。これいいじゃないか?金髪縦ロール青目のキャラは多い。でも銀髪縦ロール赤目のキャラはあまりいないんじゃないか?」


「でもちょっと顔が子供っぽい気がしますね」


「ももかんちゃんのコピーだからね。画麻ちゃん。ちょっと大人っぽい表情にして。目を細め、口紅ありで」


「はい。こんな感じですね」


 画麻が仕上げを行った。銀髪縦ロール赤目の生首が無事完成。


「できましたよふるちんさん。これ、母さんです」


「なんじゃそりゃああ!!!」


「やだなあふるちん君。スタンダップトゥザビクトリーって奴だよ」


「監督あのアニメに関わってたんですか?」


「先輩がやってたらしいよ?」


「続いてボディですね」


「とりあえず比較対象としてももかんさんを隣に置きましょう」


 画麻は生首の隣にももかんを置いた。


「母親だから当然これより背が高いね」


「母親。つまり赤ちゃん産んでんだからオッパイは大きく!お尻も当然大きく!」


「背は高く。胸と尻も大きく」


 水鳥監督と五郎の適当な意見に合わせて画麻がデザインする。


「何かが足りませんね」


「近藤君もそう思うかい?」


「いや。服着てないからだろ」


「それなんだよふるちん君!異世界ファンタジーと言えば水着回!温泉回だよ!つまりこの状態で他のキャラとの差別化ができていないと不味いんだよっ!!」


「えーでも素っ裸でキャラの特徴を出すなんて無理じゃね?武器も鎧もないんだし。どの職業だかわからないぜ」


「・・・へそ周りにレイヤーで腹筋を入れてみたらどうでしょうか?」


「へそ周りに腹筋?」


「顔立ちは貴族の女性でも、逞しい腹筋を持つアンバラスなパワーファイターを表現できます」


「それだああああ!!!!」


「でもそれいける?」


「何言ってるんだよ五郎君?オリンピック選手だよアジア大会優勝だよ!五大陸全部制覇しちゃうよ?絶対イケるって」


「では銀髪縦ロール赤目の貴族女性。で、体は腹筋逞しい肉付きですね」


「凄い!完璧だよ!!ももかんちゃんの隣において凄くキャラの差別化が図れているよ!!!」


「母娘なのに全然似てないやんけ・・・」


「やはり素直にストレートヘアーにすべきでしょうね」


 画麻はロングストレートのキャラを描いたが。


「・・・駄目だ。ロングストレートだけはだめだ」


 水鳥監督はかなり暗い声になった。


「あれはまだ、僕がDONZOにいた頃の話だ」


「DONZO?なにそれ?」


「ふるちんさんDONZOを知らないんですが?フライパンを造ったところですよっ!!」


「フライパン?」


「調理器具を持った女の子が空飛ぶお野菜と戦うアニメですっ!!」


「あーあれかー名作だよなー」


「DVDもグッズも売れましたよねー監督」


「でもDONZO自体は潰れちゃいましたね」


「ああ。悲しいな」


「空とぶ野菜と戦うアニメなんて面白いわけがないだろ?そんなアニメ造るアニメ制作会社なんて潰れて当然だよ」


「君はフライパンの最終回を見たことがないからそんな事が言えるんだっ!!!高度一万メートルから人類を滅ぼす為に迫りくる巨大バナナ!!!!」


「なんだよ高度一万メートルの巨大バナナって!!!?てかバナナは果物でやさいじゃないだろっ!!!」


「そのバナナを倒すため、主人公達フライングクッキーズは仲間を担ぎ上げ、ロケット打ち上げの要領でヒロインの女の子を今度一万メートルまで打ち上げる!!」


「なんで高度一万メートルまで打ち上げるんだよっ!!普通に地上から攻撃すればいいだろっ!!!」


「相手はバナナなんだよっ!!バナナはてっ辺の先の細い部分を引っ張らないと皮をめくって食べれないじゃないかっ!!!だが、見事バナナの皮をめくったヒロインには絶望が待ち受けていたんだ。バナナの皮をめくった先にはリンゴが存在していたんだっ!!」


「なんでバナナの皮がめくれるとリンゴが出てくるんだっ!!?」


「あ、その林檎とバナナのCG造ったの僕なんだ」


「うあー近藤さんあのラストバトルやったんですか。すげー」


「そのヒロインのピンチに相棒のエイダが包丁を持ってかけつるんだよ」


「なんで包丁なんだよ?!」


「リンゴは包丁で皮を剥かないと食べれないじゃないかっ!!」


「あ、監督。今日のおやつアップルパイにしましょうか?」


「うん。五郎ちゃんお願い。で、DONZOにいた時にプリズムムーンというアニメをやることになった」


「プリズムムーン?」


「よくある女の子がいっぱい出てくるだけの萌えアニメさ。もちろん深夜枠を予定していたよ。僕らDONZOはね。ただ、テレビアニメとして流すからはテレビ局に放映枠を用意してもらわなきゃならないから、アニメの企画書を極東テレビさんに持って行ったんだ」


「極東テレビ?」


「ネヴァンゲリオンの頃からずっとお世話になっているテレビ局だよ。企画書の内容を見て、極東テレビさんはこういった。『この内容なら特に問題ありません。土曜朝枠が開いていますのでそこで放送しましょう』。思えばこれがすべて間違いだった」


「え?放送してもらえたんでしょ?よかったじゃないですか」


「ああ。びっくりするほどプリズムムーンは高評価だったよ。元々対象としていた大きなお友達だけでなく、土曜の朝からアニメを視聴なさる小さなお友達の心をとらえたらしくてね。放送中に極東テレビさんから連絡があったんだ。プリズムムーンはとっても好評です。もう半年、2クールくらいはやってください。ってね」


「へぇーよかったじゃないですか」


「・・・DONZOは。アニメ制作会社はプリズムムーンを深夜アニメ。半年限りの2クールで終わるアニメだと最初から考えて製作体制を整えていたんだ。だから本来はもう半年。なんて言われてできるわけがなかったんだ」


「じゃ、断ればいいじゃないですか」


「できるわけないだろっ!!極東てれびさんだよっ!!ネヴァンを放送してくれたところだよっ!!

ネヴァンがなければ今アニメ監督をしている僕はない!!!!僕だけじゃないっ!!!他のアニメが存在しないっ!!!ブライト、MARUTO、カプセルモンスター、芸夢王バトルモンスターズ、全部極東テレビさんだ!!!極東テレビさんがなければ日本のアニメ業界が存在しない異分帯が出来上がると言っても過言じゃない!!!極東テレビさんの頼みだけは断れない!!!!」


「そんな大げさな・・・」


「だから僕らはがんばった。死ぬ気でがんばった。実際多くのアニメーターが製作会社の床で死んだ。一ヶ月。二ヶ月。会社から漏れ出た腐敗臭は周辺住民に異変を感じさせ、警察や消防を呼ばれることもあった。それでももちろん放送には間に合わない。海外の製作会社に発注した。そして事件は起こった」


「いやもう事件起こってね?」


「それは物語のキーとなるゲストキャラ。ロングヘアーの銀髪の女の子のキャラが登場する回でのことだったよ。そのキャラはそのエピソード限りの一回きゃらだったんだけど、絵コンテで銀色のキャラが海外の下請けから戻ってきたら黒髪になってきた」


「はい?」


「フィルムを見て僕は驚いたよ。何しろキーキャラクターだからね。背景のモブならともかく、一話限りとはいえ主人公達と深い関わりのあるキャラなんだから」


「別に黒髪のまま放送すればいいじゃないですか」


「主人公達の仲間にそのキャラのお兄さんがいてね。彼、銀髪なんだよ。血縁関係がわかりにくくなるから、絶対銀髪じゃないとだめなんだ」


「あーなるほど」


「フィルムが戻ってきて、来週の放送まで6日を切っていた。でも土曜の朝まで。実際にはテレビ局に納品するのは金曜の夜か。そうなると5日もない。だけどそのシーンを大急ぎで修正するしかなかった」


 画麻と五郎は顔色が蒼くなった。


「私、少し気分が悪くなってきました・・・」


「どんな地獄だったんだ・・・」


「今となってはいい思い出さ。いや。経験だったというべきかな?どうしてこうなったか。ふるちん君。理由がわかるかい?」


「いえ。まったく」


「プリズムムーンの主人公はロングストレートのピンク髪だったんだ。そして主人公の先輩は金髪。この人もロングストレートだったんだ」


「はぁ」


「そして半年の放送期間延長の際、仲間キャラを追加したんだが、その際黒髪ストレートのキャラを追加したんだ」


「・・・あれ?」


「気づいたかいふるちん君?つまり主要キャラにロングストレートのキャラが増えすぎて、色間違いの可能性が増大してしまったんだよっ!!!!」 


「な、なんだってーーーっ!!!!」


「僕はもう二度とあんな辛い思いはしたくない。もちろんアニメ製作スタッフのみんなにもだ」


「じゃあどうします監督?」


「んー。でも親子のつながりを。血縁関係をわかりやすくするため髪の毛の色を統一するのはいいアイデアだと思いますよ?」


「じゃ、ももかんちゃんと一緒の黒髪で」


「でもロングストレートはいけないんですよね?」


「じゃ、どうしましょうか?」


「ウェーブかけたらどうでしょう?大人の女性っぽいですし、単なるロングストレートと違って間違いにくくなるかと」


「じゃあももかんちゃんのお母さんは黒髪のロングウェーブヘアーで」


「はい。ロングウェーブでお願いします」


「ええぇ・・・。お前そうやって自分の母親の髪型決めんの?」


「単なるロングストレートだと色指定のミスが発生する理由は水鳥監督が説明してくれたじゃないですか。だからウェーブヘアーで行きましょう」

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