第3話 魔王軍幹部候補面接 IN 現実世界

 扉を開けて、俺は人類悪。もとい水鳥監督から逃げる。あれにはどんな転生チーターといえども勝利する事は叶わないだろう。

 ももかんが作り出したこの扉は時間と空間を超越する事ができるという。言うなれば異世界へと続くどこでもドアだ。その先に待ち受けるのは。


「あれ?」


 俺達は再び先ほど同じ会議室に戻ってきてしまった。いや。但し少し様子が違うか。

 室内にいるのは魔王マイルズ一人だけだ。それに部屋が明るい。時刻は昼間?


「少々遅かったですか?」


「いや。問題ない。ももかん。ふるちん席に座ってくれ」


「ふるちんさん。マイルズさんの隣に座ってください」


 俺はももかんの言うとおり魔王マイルズの隣座る。


「一体どうなっているんだ?」


「ここは異世界でなく現実世界。村山アニメーションです。ただしマイルズさんがアニメスタッフとして働き始めてから一ヶ月ほど経過しています」


 なるほど。空間ではなく、時間のみを移動したという事か。


「実は少々問題が起きた。私が魔王をしているのは知っているな?」


「まぁ魔王だからな」


「1000年に一度復活し、世界に混沌と恐怖をまき散らす。というのが私の役目なのだが、実は勇者が現れる前に我が魔王軍の幹部の一人が死亡してしまったのだ」


「幹部が死亡?!」


「人間の世界を無計画に侵攻していった私の思慮の無さが招いた結果だ」


「俺が行く世界。っていうかお前が魔王やってる世界って蘇生魔法ないのか?」


「失敗したり無理だったり困難だったり。今回は、そうだな。どうも死亡した直後に追い打ちで攻撃を受けてリスポンできなくなったようだ」


「あーなるほどなー」


 俺は大体状況を把握した。


「ともあれ早急に戦力を補強すべく、魔王軍幹部の補欠の面接を行う事になった。お前達もつき合え」


「俺達でいいのか?」


「他の部下は重傷だったり、他の負傷者の治療をしてたりと暇ではない」


 まるで俺がニートみたいな言い方すんな。


「それでは面接を始めます。最初の方どーぞー」


「失礼しまーす」


 扉を開けて入って来たのはドラム缶ぐらいのプリン。がウネウネしている。さらにその途中から大量のロープ状の物体が何本も突き出している。


「魔王軍にこんな奴いたっけ?」


「氏名はローパーさんとなっていますね」


「誰それ?」


「あ、それ私の本名ですね。芸名を言えばわかるかな?」


「芸名?」


「言ってみろ」


「GOOLE検索 触手」


「触手!」


「SYOKUSYU!!」


「OH!HENTAI!!」


「MADE IN JAPAN!!」


「イエ-イ!!ワンダホー!!」


 俺とマイルズは手を叩いて喜んだ。


「新しい魔王軍幹部は彼で決まりだな!」


「ああ。楽しい冒険になりそうだぜ!」


「不採用ですね」


 ももかんは履歴書に大きくバッテンマークををつけた。


「何をするんだ!魔王軍の最高司令官は私だぞ!!」


「そうだ!触手さんに謝れ!!」


「触手は攻撃力も防御力も高いし、繁殖力もありますね」


「なら問題ないだろ!彼が新しい魔王軍幹部だ!!」


「動画を造るのが大変です」


「え?」


「CG集や同人誌だったら問題ないんですよ。一枚絵で済みますから。でもアニメだと絵を動かす必要がありますからね。このプリンにロープをくっつけたものだってかなり作画スタッフさんに負担を強いているんです。これ以上の無理はさせられません」


「し、CGを使えば・・・」


「計算処理が大変です。登場の度にマグロスのミサイルを飛ばす様な事をしないといけないんです。それでしたら労力を派手な戦闘シーンに回すべきでしょう。触手さん。すいませんが今回はご縁がなかったということで。CG集や同人誌での活躍に期待しております」


「いえ。自分こそ。無理にアニメに出ようとして申し訳ありませんでした」


 触手は一礼して部屋から出て行った。


「次の方どうぞ」


 入って来たのは一匹のゴブリンだった。


「お名前は?」


「ゴブリンレイパーです」


「え?」


「しゅ、趣味は?」


「レイプです」


「と、特技では?」


「レイプです」


「将来の目標は?」


「私のレイプシーンを全世界中、アメリカ、中国、イスラム圏、それ以外の全ての人々にも見て頂く事です」


「自己PRはありますか?」


「レイプに関して自信があります。自分が魔王軍幹部になった暁にはこのなろう小説が挿絵、コミカライズ、アニメのすべてがレイプシーンで埋め尽くされ、各種まとめサイトで取り上げられることをお約束します」


「大変よくわかりました。結果は後日郵送でお伝えします。本日は御足労頂きありがとうございました」


 ゴブリンレイパーは部屋から出て行った。


「不採用でいいな」


「まぁしょうがないな」


「彼にはエロスソフト辺りに就職できますよ。何しろ売り手市場の就職時代ですし。次の方どうぞ」


 今度はハテナマークが歩いてきた。


「なんだこいつ?」


「キマラーアントです。宜しくお願いします」


「キマイラアント?」


「うちにこんな奴いたっけ?」


 すると画麻が後ろから現れた。


「すみません。私の力不足です。キマラーアントがどんなモンスターか。よくイメージできませんでした」


「あーこれいけませんよ。設定自体出来上がってないんじゃ。納期が間に合わなくなります」


「するとアニメが完成しなくなるのか?」


「じゃあ駄目だな。不採用」


「次の方どうぞー」


 上半身が馬。下半身が魚のモンスターが入ってきた。


「ケルピーです」


「随分変わった奴が来たな」


「海や川がホームグラウンドです。通りがかった人間を食い殺します。もちろん逃げ足も速いですよ?」


「強そうだな。悪くないな」


「でも水中オンリーなんだろこいつ?」


「アニメ制作スタッフさんが大変そうですね。それに同じ下半身が魚なら、人魚の方がいいでしょう」


「仕方ない。次だ」


 お腹にダーツの的みたいなのが描かれた亀が入ってきた。


「リフレクトタートルです。受けた攻撃を二倍にして反射する事が可能です」


「お、これいいんじゃないの?」


「強すぎず。弱すぎず。特徴のある能力と外見ですね。保留にしておきます」


「ありがとうございます」


「次の人どうぞ」


「ジャック・オ・ランタンです」


「同じくジャック・フロストです」


「あ、ごめんない。色んな意味で無理です」


「僕たち凄く強いですよ?」


「原典はイングランドやアイルランドの伝承です。由緒正しきモンスターです」


「既にモザイクかかってるじゃん。駄目だよ。次」


「スズキ土下座衛門です」


「著作権的にアウトな方は駄目です」


 モザイクの塊。スズ土下座衛門は去って行った。


「なかなかこれはというものは来ないな」


「才覚ある人は引く手数多ですからね」


「次の面接者は、なんだ只のオークか。はいどーぞー」


「失礼します」


 入って来たのは。一応オークだった。

 しかし。彼はリクルートスーツをしっかりと来ていた。


「え?」


 彼は俺達の前に立った。


「なに・・・こいつ?」


「なに、と。面接では座ってよいと言われるまで椅子に座っていけない。これが基本ですので」


「あ、そうですね。どうぞオークさん」


「ありがとうございます」


 オークは椅子を静かに動かし。浅く腰かけた。


「えっと。お名前は?」


「真面目オークです」


 オークは答えた。


「趣味。あるいは特技などを教えてください」


「特技は色々あります。経理、農業、鍛冶、街づくり、戦場での兵士の指揮、最初のやられ役、中ボス、宿敵、女騎士の育成、姫騎士の護衛。この二つは通常、暗黒、色町仕様の三種が可能です。趣味は自分を磨く事でしょうか」


「レイプが趣味じゃないんですか?」


「そんなものを子孫を残すため、或いは仕事前の興奮状態を収める為の手段に過ぎません。ゴブリンレイパーのように強姦した後に殺害するなどもってのほかです」


「す、凄くご立派な意見です。ありがとうございました」


 俺は面接を終わりにしようとしたが。


「待ってください。最後に私が魔王軍幹部に立候補した理由を述べさせては頂けないでしょうか?」


「魔王軍幹部候補に立候補した理由?まぁいいですけど」


「魔王マイルズ様は1000年前に勇者に倒され、そして此度の復活と相成りました。しかし現状魔王軍は疲弊し、かつての隆盛はありません。そこで微量ながらこの私に魔王軍の栄華を取り戻す御協力をさせては頂けないでしょうか?」


 オークはリクルースーツの裾をめくり、逞しい腕を見せた。


「どうか御考慮、御思案の方、よろしくお願いいたします!!」


 オークは一礼するとスーツを着直し、背筋をピンと伸ばして部屋から出て行った。


「・・・なんか。暑苦しい奴ったな」


「日体大出身者みたいなオークだったすねぇ」


「あのオークもう内定もらってますね」


「ええぇえ!!?嘘!!!??」


「魔王軍以外どこで働くんだよオークがっ!!!?」


「さぁそこまでは・・・?でも間違いありませんよ」

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