第6話 離乳食
「今日子ー!来たよ♪」
呼び鈴も鳴らさずに、今日子ママの部屋の玄関が開けられた。
アタシももう慣れちゃった。
「子猫、元気?見せて見せて!」
そう言って、ママの親友の里奈は、アタシを摘まみ上げた。
「ミー!」
乱暴な摘まみ方をされたアタシは、抗議の声を挙げた。
「もう少し丁寧に扱ってよ。まだ生後1ヶ月なんだから。それと名前はクウ。いい加減、覚えてよ。」
里奈はママと同じ大学に通う獣医学科の6年生。
つまり、ママのクラスメイト。
時々、部屋にやってきては、アタシをいじり倒す。
「ニャー。(私もいる事、忘れないでね。)」
ちい姉さんが、里奈に声をかけた。
「忘れてないよぉ。ちいも可愛いって。」
里奈は、ちい姉さんの頭も撫でた。
そう、アタシは生後1ヶ月まで成長していた。
おめめがクリクリしてきて、毛もふわふわしてきて、自分で言うのもなんだけれど、可愛くなってきたと思う。
「ねえ、今日子。クウはもう離乳食?」
里奈が今日子に訊ねる。
「つい何日か前から始めた。だけど、コイツ‘胆嚢がない’から、頭から皿に突っ込んで、すぐに全身ドロドロになるんだよね。」
‘胆嚢がない’とは、獣医学生特有の言い回し。
胆嚢とは、肝臓の真ん中にある胆汁を溜めておくための臓器。
実際には、アタシは猫なので、しっかり胆嚢はあるはず。
胆嚢がないのは、馬と鹿。
つまり‘胆嚢がない’=‘馬鹿’って、意味。
…って、ちょっと待ってよ!
誰が馬鹿だって!?
「ミー!(アタシはお皿から食べるのが苦手なの!)ミー。(ママがお口まで運んでくれたら、食べられるよ。)」
そんなアタシを見て、里奈は笑っている。
「甘やかしてるねぇ、今日子は。」
「甘やかしているつもりはないんだけれどね。ちいの時は、さっさと自分で食べられるようになったのに、コイツは全然ダメなんだ。」
「ニャー。(私には‘胆嚢がある’からねぇ。)」
「ミー!(ちい姉さんまで、変な隠語使わないで!)」
結局、アタシが自分でごはんを食べられるようになるのは、もうちょっと先の事だった。
吾輩はニャンコである。 ひよく @hiyokuhiyoku
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