第068話『ふたりで 2』


 異世界。

 ティアたちがいない理由、そしてその原因については憶測ではあるがセルベリアから話を聞いた。



「……魔法陣の座標点が変わって――――って、そいつソルベガに全然忠実じゃないじゃん……。 服従の意味ね」

「……まぁ正確には転送魔法陣を消したじゃな。だから座標点が我らの記憶だけを頼りにこの世界に導いたのじゃ」



 へぇ、だから俺の記憶にある場所に。


 ティアたちのことは心配だが、次元転送魔法の使用周期は最低一週間。待っていたり、心配したりするには長すぎる。ならば行動あるのみだな。


 ……この森はティアがいた村の近く。

 一週間ほどお世話になるとしよ――――――



「………ん?」



 ……と。村へ向かおうとした時にある異変に気づく。


 それは俺達が向かおうとしていた先に大量の黒煙が蒼色の空を穢していた。



「……む、"かじ火事"か? 森でのボヤなんて物騒じゃな」

「………いや違う。 森が燃えてるわけじゃない。それにボヤどころじゃないぞあの黒煙の量」



 凄まじい勢いで背筋に冷気が走る。

 ……勿論、"嫌な予感"である。


 あの方向、距離。間違いない。

 あの場所は―――――――



「………村だっ――――――!!」

「……み、みれあっ?! 」



 俺は久しぶりの無詠唱魔法とやらを使った。ただただ火事場に早く辿り着きたい一心で念じたのは『神速の速さ』。



 風を切るような勢いで森をかけていく。


 そして少々驚き出遅れたセルベリアだったが、俺に追いつき、同じスピードで『無邪気な黒蝶イノセントロード』で駆けていくところは流石と言うべきだろう。



「―――――ッ?? この気配……」

「どうしたんだセルベリア……?!」

「……すまぬ。 実際に現場を見た方が説明がしやすい」



 セルベリアの表情は先程とは大違いに青ざめていた。


 恐怖と言うよりは悪寒という感じ。

 ……クソっ、異世界に戻ってきて早々、ダークファンタジー展開はゴメンだからなっ――――――。









 ♢





 



「………うそ、だろ」



 むらの入口へ着くと、そこは冗談なんて到底考えるのも口に出すのもできないほどの光景が広がっていた。


『火事』なんてものじゃない。

 村は得体の知れない黒銅の皮膚を纏った魔物により、焼き払われていた。


 ……この村にはお世話になった人々がいた。そんな人たちが今、この灼熱の中、もがき苦しんでいる―――――。


 俺は足が竦み、まともに動かせなくなっていた。………このままではまだ助けられる可能性のある命を無駄にしてしまう―――――――――。


 息が荒くなり、意識が朦朧とする。

 ……そう、今までが運が良すぎたんだ。


 俺みたいな平和ボケした奴が、惨い死傷の光景に耐性などあるわけがない。


 ラノベの異世界転生主人公みたく、殺傷を目撃しても平気でいられるわけないんだ。……だから俺も動けなくなるのも当然―――――――



「だ、大丈夫かみれあっ?! 安心するのだ、腐臭はしない。 更に敵は既に割れている。だから気をたしかに持つのじゃ………!!」

「――――――ッ?! 敵が、割れている?」


「……ふう、意識を保てたそうじゃな。とりあえず火を消すのだっ」



 セルベリアの一言で目が覚めた。


 それと同時に罪悪感が降り掛かる。

 ……危なかった。 かなりマイナスな思考になっていたからな。


 ―――――そうだ。もう俺はただの社畜じゃない。


 今は異世界に生きる小さき幼女、そして主人公なのだから。


 ならば早速水魔法を準備する。だがひとつ問題点がある。



「この火を全て消すことは可能なんだけど、魔法補正が強くて確実に二次災害が起こってしまうと思うんだ」

「安心せい。その二次災害は我が止める。みれあは火を消した後、むらの中心に向かってくれ。" 中核"がそこにおるはずじゃ」



 さすがは魔王。

 任せる背中が広いってもんだ。


 いつの間にか竦んでいた足が軽くなり、俺は迷いなく村を覆う魔法陣を構築する。


 ……そういえば、火事、そして水魔法。ティアと出会った時も確かこんな流れだったよな。


 今回は俺の自作自演じゃない。

 次こそはきちんとこの村を守ってみせる―――――――――――ッ!!



「……『水源の地ウォーターグラウンド』―――――――ッ!!」



 久しぶりの響きに懐かしさを覚えた。


 魔法陣から水柱の如く水が湧き出し、火のついた木造建築を一気に呑み込んで行く。―――――それと同時にセルベリアの声が耳に入った。



「―――――第二階梯蹂躙魔法『観測者の悦楽バイオレンスルーム』ッ!!」



 大量の水が燃え盛る火を全て押しつぶした後、俺たちに向かい、勢いあまった水が波と化し、襲い掛かる。


 ……これが二次災害。

 絶体絶命かと思われたその瞬間、セルベリアと俺を護る光圧壁リフレクターのようなものが展開され、波の衝撃から身が守られた。………目を凝らして見てみるとこの壁のようなものがさらに別の場所に展開されていることに気づく。


 そこには見慣れた久しい村人たちの姿があった。



「(……あの一瞬でここまで考えられるなんて)」



 俺はセルベリアの実力に圧巻されていた。


 ここまでセルベリアが守り抜いてくれたんだ。―――――次は俺が活躍する番。


 そして俺は水が完全に引いたと同時に村の中核に存在する敵へと左腕に装着された『聖拳』に力を込め、震えがおさまった足を動かした。

 

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