第069話『ふたりで 3』

 唯ひたすら一直線に駆けてゆく。


 異世界に来て初めてかもしれない。

 人の死というモノの身近さを感じたのは。



「(……ギャグ展開やらシリアス展開やら。……一体神様は何を考えているんだよッ)」



 存在するかも定かではない神に俺は葛藤をぶつける。……仮にこれが仕組まれていたならば趣味が悪すぎる。


 水魔法により蹂躙された魔物の死体を踏み越えていく。……にしても『水源の地ウォーターグラウンド』の火力には驚いている。たしかに津波の脅威に似たものであるが故、魔物が全滅するのも無理はないが―――――



「―――――ッ?!」



 不意に俺は水で流された倒木に隠れる。そう言えば自然破壊してすみませんでした。……と、そんなことよりも。い、いやそんなことでは無いんだけどねっ?!


 そんな葛藤をしながらも、前方に現れた"黒い影"から目を離さない。


 黒い影が向かう先はセルベリアによって展開された結界の中にいる村人たちの方角だった。


 ……温度差で生まれた水蒸気がやがて消えていき、敵の姿が顕になる。


 ――――巨大な外套を羽織り、セルベリア並、またはそれ以上の凄まじい魔力が感じられる勇ましくも恐ろしい黒鎧の男は、両手に魔剣を構え、結界を壊しにかかる。……クソっ。あの恐ろしい程の魔力量、このままではセルベリアの結界でも破られる可能性が――――――――



「うーんっ!!うーんっ――――って、カタァ〜イ♡ マジヤバなんですケ☆ドッ!!」


「 」




 ……な、何だろう。

 今、渋谷ギャル的な用語がハスキーなお声で聞こえた気が――――――気のせいだろう、か、



「なになにナンデスカァ〜?? オレ氏でも砕けない結界ってマジヤバでしょでしょ??!!」


「(………聞き間違いじゃなかった?!)」



 どうやら俺は現実逃避しようとしていたらしい。……今目の前に存在する厳つい男のハイテンションさに。


 もしいるならば神様。つくづく思うぜ。まともな登場人物を是非出してほしい。


 ハイテンション男は何度も何度も結界に刃をぶつけるが、破壊される気配は全くない。


 結界を張ってもらっているのは有難いんだが、一体セルベリアはどこに行ったんだ? 流石のセルベリアでも俺がこの場を収集出来ないことぐらいは分かっているはず。


 ………だからよ、俺の居場所が割れる前に主人公セルベリアらしく、派手にあのデカブツハイテンション男をこらしてめてほし―――――――


 ………―――――カランッ。



「え」



 何かが地面に落ちる音と共に俺の左腕が妙に軽くなる。――――――勿論、察しはついている。


 未だに着ていた『岩盤浴』と書かれたTシャツを冷や汗で濡らしつつ、地面に目をやる。………するとそこには大きな。それはそれは大きな聖が落ちていました――――――――



「……タイミング考えろやァァァァァ―――――――あ、、、」



 叫ぶという衝動は抑えきれなかった。

 それが故、奇跡的に聖剣の落下音で勘づかれなかったにも関わらず、厳つい魔剣を持った厳ついハイテンション男が真顔でこちらをギロリと睨んできた。



「ご、ご無沙汰しておりますっ!!」



 俺はその場でビシッと気をつけをし、何故か頭を掛け、接待客のように声を掛けていた。………死ぬ。これ確実に死ぬやつだよ。女子供ロリ関係なく殺されるやつだよこれ――――――――



「……おうおう、挨拶ができる嬢ちゃんは嫌いじゃないぜ……?」



 ……あ、あれぇ?

 なんかさっきとキャラ違くない……?


 完全なネタキャラから危険キャラに飛び昇段してるよなこれ………?!


 男はゆっくりと小柄な俺を見下すように魔剣を肩に置き、目の前に立つ。


 威圧だけでチビりそうになるのはこれが初めてである。―――――それにここで初めて感じる乙女らしい感情の現れ。



「う………う――――――」

「ところで嬢ちゃん、聞きたいこと………が――――――」



 俺―――――いや私の目尻には女神ヴィーナスの雫が浮かび上がる。

 

 ……そう、ガチ泣きである。



「――――うわぁぁぁぁぁぁん!!」

「え?! ちょ、ちょっとぉ?! ご、ごめんねっ?! おじさん怖かったよね―――――」



 泣きじゃくる俺にハイテンション男は魔剣を納剣し、困り果てた表情でこちらへ近づいてくる―――――――今だッ―――――!!


 手馴れた動きで背中に担いでいた聖剣を抜き、目尻を紅くしながらも薄気味悪く笑い、



「エクスカリバァァァァァァァァァァ――――――!!」

「え―――――――ッ?! ふおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!」



 "乙女らしい感情"………??

 それは『お涙垂れ流して騙してこそ女だ。』というのがキャバ漬け上司の口癖だったもんでね。


 厳つくてハイテンションな男は避ける暇も無く、聖剣で性剣を強打され、撃沈。 股間を抱え、その場にひれ伏した。


 ……やったぞ、セルベリア。

 俺でも強そうな敵キャラを倒すことが出来たぞッ!!


 可愛らしく『ばんざーい!』と声を出し、喜んでいると、結界からドンドンと叩く音が響いた。何事かと見てみると、そこにはティアの両親が何かを必死に訴えかけていた。


 結界越しでよく聞こえないのでセルベリアが使っていた『強化聴覚』を使う。すると、結界内から数多の呼びかけが騒音の如く耳に入る。


 ………そして皆、"同じ内容"を。



『違うっ!! その人は敵じゃないって!!』


「…………え?」



 地面にひれ伏す男を見やる。そして俺は首を傾げる。


 ……あれ? もしかして俺、勘違いしてた? やらかした系……?



 

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