第063話『ゆえに 4』


 俺が無我夢中で放った打撃は閃撃へと変わり、まるで天使の加護を授かったかのように眩い光を放つ。――――――そしてその一撃は世界を終焉に導く魔法ですら撃ち抜いた――――。


 俺が聖剣突エクスカリバーを放ったと同時に、ソルベガは剣の振り下ろし、終焉魔法を放った。


 必然的にぶつかり合う『光の魔法』と『破壊の魔法』の魔力は肌を霞ませるほどのエフェクトを山中に輝かせ、相殺した。


 そして戦況は―――――――



「………グッハッ……。ったく、すげぇ技隠し持ってたな、銀髪よぉ?」




 魔法は相殺されたものの、俺の突き出す拳自体はソルベガを捉えていた。


 腹に一発打撃をもらったソルベガは腹を抱え、口内に溜まった血を吐き出し、ニヤリと笑った。………完全にキレてるなこりゃ。


 それにしてもさっきの一撃。

 今までのどの技よりも遥かに威力があった。……これが、『聖拳』の力。


 まるで左腕に装着したブレスレットから勇気が湧いてくるようだった。

 ……今の俺なら主人公らしく、ソルベガを倒せると。


 ―――――だが、そう上手くもいかないのが現実だ。



「――――ッ!! よくもソルベガ様をッ!!」



 ……意識を取り戻したメイヤが威圧的な眼力を俺に向け、小刀を手に持ち急接近してくる。――――対して。



「……"伏せろ"」

「―――――ッ?!」



 ソルベガの能力『服従』により、言葉通り俺は地面に身体を叩きつけられる。……だが――――抗えないほどでは無いッ―――――――!!



「……セルベリアッ………!!」

「―――任されたぞ、みれあっ!!」



 俺は服従に抗い、セルベリアの名前を苦し紛れに叫ぶと同時に黒蝶の羽を生やしたセルベリアが俺に迫るメイヤの突進撃を再び小刀で弾く。


 ――――異空間ディメンションを駆使した移動は"光速"の概念すら凌駕する速さを誇る。魔王だからこそ成し得る業である。



「……めいやと言ったか? お主は相手が悪かったようじゃ」

「――――ッ!! 小娘が調子に―――――」



 二人の小刀が鬩ぎ合いを繰り広げている中、先に取り乱したのはメイヤだった。


 見下された怒りに呑まれたメイヤは腰から二本目の小刀を手に取り、スキだらけのセルベリアの脇に―――――



「……『覇王の威光ハーシュオブ・ライト』。それが我の特性。お主の刺しなどレギオスのデコピンにも及ばぬわ」

「―――――う"っ……」



 たしかにメイヤはスキをついた。死角だった。……だが"死角・・"を狙ったのが仇となったのだ"。


覇王の威光ハーシュオブ・ライト』。

 実際に発動するところを見るのは俺も初めてだが、話には聞いていた。


 その特性は視界に入らないあらゆる攻撃を無効化、または反射させるというモノ。


 ………まとめるとチートってわけだ。その特性も俺によこせ。



 セルベリアの脇に張られた結界にメイヤの小刀の刃は真っ二つに割れ、攻撃の衝撃で持ち手の左腕から血飛沫が上がり、激しく損傷した腕を押さえ地面に膝をついた。――――さて、これで脅威が消えたということで。



「……ソルベガ。話してもらおうか? 奴隷大国を樹立したわけと――――――お前が"晃かどうか"を」

「―――――ッ?! な、なぜお前が俺の本名をッ」



 ……わかりやすくて助かる。

 反応から察する以前にソルベガは『晃』という名前に反応した。―――この状況の中で嘘を吐いたり、吐く意味はないので真実と受け取ろう。



「……いいから言え。言っておくが俺に服従は効かねぇ。だからといって攻撃を仕掛ければセルベリアが切り伏せる。吐いておくのが利口だぜ?」

「―――ッ。ガキ風情が……」



 まぁその気持ちは分からなくもない。

 こんなロリガキ三人に完敗なんて屈辱だ。まぁ、ティアは絶対生還補正範囲外になるよう、ただ木陰で隠れてもらっていただけだが。



「(ミレアちゃんッ、ファイトッ!!)」



 何やら遠くからエールらしき眼差しを貰っている気がするので後でお礼を言っておこう。


 下唇を噛み、悔しさを表明するかのように俺を睨みつけていたソルベガだったが、次第に顔の皺も引いていき―――――



「………母さんと弟の病気を、治したかったんだよ……」



 その言葉に俺は少々驚くが、表情には出さず、ただ無言でソルベガが全てを話すのを待っていた。









 ♢








 淡々とソルベガがこの世界に来た理由を話しているうちに、メイヤやティア、セルベリアたちも聞き入っていた。


 そしてソルベガが全てを語った後に俺は口を開いた。



「――――で。病気は治せたのか?」



 少し意地悪な質問を投げかける。

 何故ならソルベガの目的は完遂出来ていないのだから。



「……いや。弟は既に死んでいた。メイヤの能力で母の病気だけ完治することが出来たがな」


 

 俺は自身の心臓病が母からの遺伝だったことに驚いていた。家族は全員気づいていたようだが、あまり病態が悪くならなかったため黙っていたとか。


 実際それはもういい。

 俺が本当に知りたいのは目的では無い。目的を果たすまでの"過程"だ。



「……お前が家族のために異世界転生者を集めていたのは理解した。―――だが、奴隷大国を樹立する意味はあったのか……?」



 奴隷大国は嘗てプレアデス王国という国だった。


 だが、ソルベガの目的に利用され国は滅ぼされ名目上は奴隷大国という異世界転生者を保管する檻を作り上げた。きっと解釈はこれで間違っていないだろう。


 もしそうならばコイツが兄、晃であろうとも許せることでは無い。


 鋭い視線をソルベガに向けると同時にセルベリアとティアの鋭い視線もまたソルベガに向けられ、メイヤ完全に下を向いていた。―――――その時、ソルベガはクスクスと薄気味悪い嘲笑をしながら、俺を睨みつけた。


 ――――まるで死に狂う獣のような。



「……恨みだよ。 俺はガキを助けたせいで死んだ。だから俺は異世界転生を果たした時に決めていたんだよ。ガキどもを俺に従わせ、一生奴隷として扱ってやると―――――――」


「―――――。 もう喋んな。晃兄さん・・・・



 ―――――それは逆恨みだ。

 

 俺は足を踏み込み、勢いよく回転し、跪くソルベガの顔面に回し蹴りを放つ。異世界転生の補正のせいか、昔より威力があり、ソルベガ……晃兄さんは前方に勢いよく吹き飛んだ。


 ……まぁ。このぐらいはしても罰は当たらないだろう。


 晃兄さんの犯した罪はそう簡単に償えるものでは無い。だからこの場でどうこう言おうと吐こうとも変わらない。


 俺は大木にぶつかり、倒れ込むソルベガにゆっくりと近づくと、ソルベガは目尻に小さな涙を浮かべていた。



「……お、前……。礼二なのか……?!」



 今更かといいたい所だが、あいにく今の俺の見た目は銀髪美少女といった性別も違う姿になってしまったため、気づかないのも無理はない。


 晃兄さんの知る俺はガタイの良いゴリラみたいな俺だからな。


 そんな見た目がゴロっと変わった俺に気づいたり、死して新たな命が宿って尚、家族の病気を治そうとした口は悪いが内心は優しい兄に俺は手を差し伸べた。



「……帰るぞ。俺たちの世界異世界に」









 ♢





 



 次元転送魔法の時間猶予はまだあるものの、ソルベガたちの償いもあるため共に異世界に帰ることに。


 ソルベガの手下に次元転送魔法を扱える奴がいるとのことで帰りはそちらにお世話になる。――――――その前に。



「いいのかティア? お前も行きたい場所があったんじゃ」

「いいんですよっ?! きっともう『大丈夫』ですから……」



 ティアは寂しそうな表情を浮かべるが、明るい表情にも見えた。それはまるで俺みたいに前を向く決意をしたような。



「なぁ礼二――――ミレア。 お前は母さんに挨拶しなくてよかったのか?」

「ん? そんなもの要らないさ」



 そう、俺はもう"前を向いたんだ"。

 過去はもう振り向かないと。


 それに母さんならずっとどこに行っても俺たちを見守っている。そんな気もするから。

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