脅威

第064話『きょうい 1 side︰ディルソード』



「……ふぅ。これで最後ですね」



 ミレアさんたちが地球に向かっている頃。僕はこの世界に少しでも貢献しようとクエストをこなしていた。


 僕の魔法士ランクは『S』の金道級であるが、基本的には子供たちのクエストなどに同行する場合が殆どです。まぁ、この世界だと僕も子供ですが。



「お前つえーな!! ぜってーDランクだろ?!」

「いやいや? Cランクだろ?!だって中級魔法使いこなしてるんだぜ??」



 こう言い争われるのも嬉しいものです。12歳の男子2人のパーティーに参加し、Eランククエストのブリザードジャガー五体討伐を終えた僕は空を見上げていた。



「……(ミレアさんたち、大丈夫かな)」






 


 ♢







 野良で組んだパーティーと共にルクセント王国に戻り、報酬の山分けをした後、僕はまた一人になりギルドの酒場で寂しく飲み物を啜っていた。そんな時、カウンターから目に傷を持ったオバサンがこちらへ近づいてきた。



「……まぁたディル坊やは一人なのかい?」

「ち、違いますよっ?! さっきまではパーティーを組んでいて……。 それよりもジェドリアさんはいつになったら酒場カウンターから抜け出せるんですか?」

「……ッ。 いちいち癇に障るガキだねぇ。アタシがギルド受付に立ってると若い冒険者たちが入りづらいんだとさ。ここをキャバクラと勘違いしてるガキが多すぎんだよ、まったく」



 この愚痴をまき散らすオバサンはジェドリアさん。 ミレアさんたちと面識があり、尚且つ異世界転生者ということで打ち解けたこの国で唯一話せる人である。


 そしていつものようにカウンター越しで他愛ない話をしようとした時だった。



 ――――――パリンッ!!

 ……と、硝子の破損音が酒場に響く。

 その音に反応した僕とジェドリアさんは音の発生源の方を向くと、そこにはお客さんに運ぶビール瓶を落としてしまったか弱そうなウエイトレスのオジサンの姿があった。



「……おいじぃさんよ? 酒が服にかかったんだが。 どうしてくれんのこれ?」


「………す、すみませんっ。 今すぐお拭き致しま―――――う"っ?!」



 苛立ちを隠せない客の服に付着した酒のシミをオジサンが拭こうとした時、反対側に座っていた仲間の客がオジサンの腹に一発容赦ない蹴りを入れる。


 溝に入ったのかオジサンは苦しい声を上げ、その場で倒れ込んでしまった。



「……おいおいじぃさん、この方は銀道級のグレン様だぞ? 拭いて済む話じゃねぇーんだよっ!!」

「……あがっ……?! す、すみませ―――――う"っ、、、」



 もがき苦しむオジサンに仲間の客は容赦なく蹴りを入れ続ける。こんな状況の中でも周りの客が止めにかからない理由は先程の発言のせいだろう。


 銀道級はかなりの凄腕。

 逆らったらまずただの怪我では済まないだろう。――――――だからこの場を収めるのは、


 ………"上"である僕の仕事だッ――――――!!



「……今すぐ蹴りをやめてください。ここは公共の場ですよッ?!」



 僕は右手に剣を持ち、暴行を行う一人の男性に近づき声を掛けた。

 ――――するとその男は僕を嘲笑うかのように僕を指さし、



「…ははッ。ガキが立派に剣持ってヒーロー気取りか?? こりゃ笑いが止まらねぇーわ。はははッ?! こいよ、ヒーローならヒーローらしく悪者を懲らしめて見ろよっ?!」



 男は腰から一本の曲刀を手に持ち、小さな僕を煽る。―――――この異世界にはある法がある。


 それは単純、剣を向けられたなら剣を向き返しても罪には問われないと。それは無駄な殺傷ではなく、正当防衛だと――――――



「――――楽園剣『ティル・ナ・ノーグ』。空間剣術『神鋼戟しんこうげき』――――」



 鞘から楽園剣の刃の輝きが顕になった瞬間、男性の腹部に一発の斬撃が直撃する。―――――恐らくこの場で僕の斬撃を目視できたのはジェドリアさんぐらいだろう。

 


「………ッ?! あ"ぁぁぁぁぁぁ?!」



 男は腹部から感じる冷たさ……出血を目のあたりにし、痛みが発生する。

 ……斬られたことにもすぐに気づかない僕の剣術は異世界転生補正で授かった力である。


 男が完全に無力化されたことを確認し、僕はもう一人の男、グレンに視線を移した時、そこには人質に取られたオジサンとグレンの姿があった。



「……その剣術……。 お前、金道級のディルソードだな……ッ?! だがこうすればお前も手出しはできねぇだろ……」

「―――――ッ。 下衆が」



 身の危険を察したグレンはオジサンを盾に右手に握られた剣を僕に向け近づいてくる。――――どうやらコイツらはただの愉快犯だったようですね。



 荒れに荒れる酒場で他の客人たちが避難する中、僕とグレンは睨み合っていた。……ここはミレアさんたちも通うギルドですから、事をあまり大きくしたくありませんでしたが、仕方が無い。……神獣の力を使い、さっさとグレンには屠ってもらうしか――――



「……少年。もうこれ以上手を汚すことはありませんよ」


 

 その時だった。

 首を絞められていたはずのオジサンはいつの間にかグレンの背後で首を鳴らしていた。………その姿は先程のか弱そうな雰囲気と一変し、敵を見下す強者の風格を見せつけていた。


 ――――そしてその場に残っていた僕とジェドリアに異様な悪寒が走った。

 ……これはより高等な魔力感知を行えるものにしか知りえない恐怖だった。


「………ッ?! このジジィ、いつ俺の背後に回りやがった――――――」

 

「……浅薄な若人に教える価値などない」



 その時、オジサンの横から異空間ディメンションが出現し、その中からオジサンは巨大な黄金斧を取り出し手に握られる。


 そして瞬きする時間すら与えない程の速さでグレンの腹部を一瞬にして吹き飛ばしていた。無残に飛び散る血肉、返り血。


 ……その残酷な光景の中、黄金斧を持つオジサンはくらくも輝いて見えた。


 ―――――ミレアさん。

 どうやらみなさんが帰ってくる頃には凄い事が起きてそうです。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る