第065話『きょうい 2 side︰ディルソード』



「……いやはや。助かりましたよ、三銃士の方」



 オジサンは巨大な黄金斧を片手にニコニコと笑顔を浮かべながら僕に握手を求めてきた。



「い、いえ。こちらこそ助かりま―――」



 ―――ガシッ………!!

 わざとなのかは定かではないが、僕の手を握るオジサンの力は尋常ではなかった。……前世の僕だったら確実に骨折してますねこれ。



「……さて。ワタシの任務は終わりましたが……。この遺体、どうしましょうか?」



 オジサンが視線を向けた場所には真っ二つになったグレンの荒れ果てた断死体。そしてオジサンの横で恐怖に怯えている先程僕が懲らしめたグレンの仲間。


 そのグレンの仲間にオジサンは黄金斧を振り翳す。



「……すみませんね。生かしてはおけませんので―――――――」



 死の恐怖に怯え、眼孔を紅くする男。

 ……その無抵抗な男に向け、オジサンが脅威を向けようとしたその時――――――――



「………待ちなさい。アンタ」



 カウンター越しにいたジェドリアさんが鋭い声をオジサンに向け、こちらへ近づいてきた。そしてジェドリアさんはオジサンの胸倉を引っ張り、威嚇するように顔を近づける。……勇気あるな、ジェドリアさん。



「……なぜ止めるのです? これはワタシの任務に関することであり―――――」

「任務任務って、アタシたちがアンタの事情知ってるわけないだろうが、アホめっ! アンタも一応この酒場の従業員だろ? 美味い酒がある場所で無意味に血肉を散らされるのは困んだよッ」

「………そうですね。ワタシとしたことが考えが甘かったようです。……事情はお話します」



 オジサンから先程の強大な魔力、殺気が一気に引いていき、黄金斧もまた、異空間ディメンションに収納された。――――『躊躇いもなく人を殺す』事情、ね。これはもう危険な匂いしかしませんよ。








 ♢








「……申し遅れました。 ワタシ、カルテバードと申します」



 王国魔法騎士団が事件を収集したのち、僕らは片付いた酒場に三人で話し合っていた。


 因みに王国騎士団という組織は毎年、国王自らが優秀な魔法士を選抜し作られた地球でいう警察みたいな組織です。


 その王国騎士団が現場で事件を収集したのは実に5年ぶりだと言う。

 事件現場に足を踏み入った一人の魔法騎士がこのようなことを呟いていた。



『……国内の殺傷事件なんて5年ぶりだな』



 ……と。妙に引っかかる言葉である。


 たしかに近年、国外での山賊被害を除けばどの国も殺傷事件なんて起こっていない。


 現状の僕の祖国、奴隷大国プレアデスでも殺傷事件は起きていない。

 ――――ならどうしてこのような事件が起きたのか……? その答え、というより元凶が今目の前にいるので真実はすぐ分かることだろう。



「……で。なぜカルテバードは奴らを殺した? たしかにどの国でも正当防衛の殺人を処罰する法なんてありゃしない。だが皆はそれを5年も守ってきた。今となれば暗黙の了解みたいなもんなんだよ」



 酒を飲みながらジェドリアさんは僕が問いたかった部分を全て交えてカルテバードさんに質問をしてくれた。


 対して酒を頂き、愉快に頬張るカルテバードさんは軽く笑いながら、



「……その5年前ですよ。 その5年前、何がありましたか?」



 質問を質問で返すカルテバードさん。


 ……5年前にあったこと。

 それは1つしかない。



「……"いにしえの勇者パーティが前魔王ベルゼファウストを退けた日"だね」



 答えは酒を飲み干した後のジェドリアさんが話してくれた。そしてカルテバードさんは正解と言わんばかりに『ほっほっほ』と笑い始めた。


 その頃の『異世界』は僕も知っている。―――――あれは、僕がいたプレアデス王国がソルベガに滅ぼされる前、僕が真名『レイク』として生きていた頃だった。



 5年前の異世界は僕が思い描いていたライトノベルの世界に近いものだった。


 それは魔物、所謂魔族の飼い犬たちが国を襲撃し、多数の死者が現れたり、人間に成りすました魔族を探し出すために片っ端から人間同士で殺し合いをしていたそんな時代。


 その時代の中で僕はお世話になった家の父母を失った。―――――そんな支離滅裂とした世界に終止符を打ったのが古の勇者パーティ3人だった。


 その三人が魔族の頂点である魔王を討伐したことにより、世界を脅かす魔族たちも撤退し、世界は愚かな争いの無い世界になったのだ。


 そして今現在、新代魔王が存在するものの、どうやら人間を殺さない人物らしく、世間も気に留めていなかった。


 僕もこの目で現魔王セルベリアさんを目撃しましたが、僕に注意を促したり、助けてくれたりと、とても勇敢で優しい方だった。


 ……そう、だからこそ僕は疑問だった。



「……貴方が古の勇者パーティの1人ということは分かりました。―――ですが、僕には現魔王が殺傷を指示するとは思いませんし、できないと思います」



 まずセルベリアさんは今、ミレアさんたちと地球にいる頃ですし。


 僕の質問にカルテバードさんはニコリと笑みを浮かべる。



「……ほう、信頼しているんですね。今の魔王を」



 それはまるで試されているような投げかけだった。――――だから僕は胸を張って。



「……はいっ。信用に値する存在です」



 大声ではっきりと意思表明をする。

 ………するとカルテバードさんは先程同様『ほっほっほ』と笑い始め、僕とジェドリアさんに手を差し出した。



「……あなたたちなら信用できそうです。 是非、ワタシたちに力を貸してほしい」

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