第066話『きょうい 3 side︰ディルソード』


 

  殺傷事件があったにしろ長期に渡り酒場を閉鎖するのは魔法士たちの娯楽場を奪う行為だとジェドリアさんが老婆心ながら僕らに語り始めてきたので、ギルド本部の受付のお姉さんから代わりの従業員を無理やり引っ張ってきて酒場営業を再開させた。……その光景を眺めていましたが、それはもうすごい光景でした。……ジェドリアさんが魔王に見えましたからね。まぁ、魔王は他にいるのでなんとも言えませんが、、、。


 そして僕らはギルド本部を後にし、カルテバードさんが用意していたという馬車に乗る。協力するとなれば移動しながらの方が効率がいい。



「……『前魔王ベルゼファウストの捜索』、ですか」



 そして肝心なカルテバードさんの頼みというのがかなり跳躍していたため、少し困惑する。……いきなり魔王の名前が挙がるとは思っていませんでしたし。



「はい。 ワタシが先程殺めたグレン、タナカは前魔王ベルゼファウストの配下なのです」

「「……(片方、タナカって言うんだ)」」



 別にタナカって名前が悪いわけではないのですが……異世界っぽくないですよね? それより僕の前世の苗字は田中でしたので複雑な気持ちではあります。――――いやいや、まず脳内でツッコミを入れても仕方が無い。今は真面目な話をしているんですから。



「……で? まだ今の状況についてアタシは一切聞いていない。まずはあんたら古の勇者たちがどう動いているかが知りたい。無駄なことはしたくないんでねアタシは」

「……ふむ、失礼。状況把握をして頂かなければ行動するにしても動けないですしね」



 ……ジェドリアさんの的確な投げかけ。

 悪の道ではありますが、集団を40年間まとめてきたという点は流石です。


 そして当初はか弱そうな印象だったが、今では強者の風格を見せつけるカルテバードとの世界を守るための話し合いが始まるのでした。








 ♢







 馬車に揺られているうちに日が沈み、明るい空に暗闇が架る頃。


 長い時間、僕とジェドリアさんはカルテバードさんの話に真剣に向き合い、時には頷き、大体の現状は理解出来た。


 事が起こったのはつい三日前。

 古の勇者パーティーの三人は『桜都おうとヤヘザクラ』の拠点で次回受けるクエストについて話し合っていた時だったという。


 野外から異様な魔力が感知され、急いで外に出てみると、そこは5年前のような殺伐とした血溜まり場と化しており、その場には以前討伐したはずの魔王の配下が蔓延っていたという。


 状況の収集よりも早く魔族の討伐に出たカルテバードさんたちだったが、国は既に喰らい尽くされ、狩り残した魔族たちは他国へ向かってしまったという。


 そして時は今に戻り、他の二人は魔族が分散した国へ馳せ参じ、交戦しているとのこと。


 その中で、カルテバードさんが任されたのは増援、取りこぼしの討伐、そして事の指揮を執っているであろう前魔王の捜索、ということで―――――


 

「……意外と危険な状況なんですね」

「ワタシたちだけでは5年間血に飢えた魔族たちを収集するのは正直不可能ですからね」



 ……これまで僕の異世界での人生はスローライフと呼べるものではなかったが、地球に存在するライトノベルの異世界モノに比べれば平和すぎた。


 魔物も国を襲わず、国内に犯罪者はほとんど現れず、皆親切。


 ―――――そのような生活は奇跡であり、一部であったことを今、知ったきがした。……戦わなければ食糧を得られない、戦わなければ死ぬ。今はそのようなダークファンタジーに近い世界に変わろうとしているのだ。


 ……僕はそんな世界、嫌だ。

 ミレアさんたちが無事ソルベガ様を捕え、奴隷大国が返還され、全員が平和に暮らせるそんな人生を送りたい。だからそのためには僕が……僕達が今、戦わなくてはいけないのだ。



「………着きましたね」



 そう、決意した時に馬車が止まる。

 ―――――『決意』というものはすぐに『運命さだめ』に変わる。それは意志が揺らぐ事を阻止するために。


 馬車から三人が降りると同時に、馬車引きをしていたオジサンはすぐにその場から退散していった。―――――それもそうでしょう。



「な、なんだい、この山は。……こんな強大な魔力、初めてだよ」



 ジェドリアさんは震えま声で目の前に聳え立つ山を指指す。


 僕も初めてだ。

 ………この魔力は現魔王のセルベリアさんと同等、いやそれ以上の強大で凶暴な魔力が肌を刺激する。



「……『聖人せいじんいただき』。 ここは前魔王ベルゼファウストが魔王城以外に拠点に置いていたとされる場所です……」

「……ということは、先程から感じ取れる魔力。これはもしかして―――――」

「……"可能性としてはある"としか言えませんが、事の元凶はここにあることは確かです」



 カルテバードさんは強大な魔力の前でも顔色一つ変えず、淡々と話す。


 ――――そして一歩とカルテバードさんは歩みを始めたと同時に異空間ディメンションから黄金斧を取り出し、肩に担いだ。



「……では今宵の英雄となりに行きましょうか、お二人」



 そう一言呟いたカルテバードさんに続き、僕は剣の柄に掌を当て、ジェドリアさんは封印されているものの、鋭利さは他の剣よりも優秀な死魂剣ダーインスレイヴを手に持ち、不穏な空気漂う悪魔の山へと足を踏み入れるのだった――――――――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る