再会の葛藤

第056話『ふるさと 1』

「「「………うわぁぁっ?!」」」



 青空の下。

 俺たちは時空間ワープホールから放り出され、地面に叩きつけられる。――――――登場の仕方は最悪だが、どうやら無事着いたようだった。


 そして辺りを見渡し、景色に見覚えは――――――――



「……俺の"故郷"だ」



 俺だった。どうやら俺の記憶が採用されたらしい。……良かった。もしアダルトショップに飛ばされたらどうしようかとヒヤヒヤしていたところだ。


 辺り一面が田んぼであり、高い建物が一切なく、あるのはただ巨大な山と小さな川原。……間違いなく俺の生まれ育った故郷である。



「………へぇー!! ここがミレアちゃんが育った場所ですか?? 自然が豊かな場所ですね……!!」



 ティアが目をキラキラさせ、なんも面白味もない田んぼをクルクルと見渡していた。まぁ、都会育ちには珍しい光景か。



「……なっ?! み、みれあ?! この世界の奴らは同種である人間の足を切断し、十字にかけ晒すのが風習なのか――――――?!」

「あ―――――。あれは"案山子カカシ"っていって害獣から農作物を守るために立てたただの人形だよ。 ちなみに昔のお偉いさんは十字にかけられていたらしいぜ」


……踏み絵か絵踏みとかの人である。


「………そ、そうか。 流石の我もちとビビったわい……」



 田舎に動揺する魔王。

 こう考えると田舎のインパクトって意外と計り知れないかもしれない。



 ここは『皆風みなかぜ村』。

 東京から約3時間ほど電車を乗り継ぎして辿り着ける知る人ぞ知るド田舎。因みに急行だと必ず通り過ぎる。


 名産品は米であり、都会でも『皆風米』というブランドで販売されているはずなのだが、その原産地の知名度はかなり低い。


 そんな米だけ素晴らしい村が俺の故郷ふるさと


 ―――――この懐かしい新鮮な空気を一度吸い込み、ひと呼吸をする。 よしっ、本来の目的に取り掛かろう。



「セルベリア。魔力探知ってできるか?」

「あぁ、もちろんだ。 ただし、我の力では効果範囲はせいぜい『40000km²平方キロメートル』じゃが……」

「そんだけあれば十分さ」


 日本の大きさは約378000 km²。

 そして予想されるソルベガの居場所は『日本』。ならば必ず魔力探知に引っかかるってもんだ。……………しかし。



「ここで魔力探知を使ってしまったら、周りの人達に気づかれちゃいますよ? あれ意外と禍々しいオーラ立ち込めてますし。 それに先程からおじさんやおばさんたちが――――――」



 ティアのその言葉で漸く今置かれている状況が理解する。


 俺たちの服装は紛れもなく珍しい。

 それに俺の手にはゴツい聖剣が握られている。 故に先程から農業に励んでいる村人たちに注目されるのは必然である。



『キミたち、珍しい格好しとるねぇー』

『これが都会っ子の服装かぁ??』

『えれぇーでけぇつるぎ持っとんな嬢ちゃーん』

『あらあら、こっちの子なんか頭から角が生えているわぁ??』



 早速現地の人達に囲まれ、俺たちの行く手が完全に阻まれる。……それもそうだ。きっと俺たちの格好はアキバでも目立つだろうし、コミケだったら撮影二時間待ちも夢じゃない高水準なイタイ格好なんだ。 流石の老人たちでさえ珍しく感じてしまうのも無理はない。


………クソっ、これじゃ身動きが取れねぇ―――――――



「………皆さんッ。あなた方が子供を好きなな重々承知ですがちゃんと見なさい。 子供たちが困っています。 お離れになったらどうですか?」



 そんな時だった―――――――。

 ある一人の女性の声によって騒がしく口が減らない老人たちが一斉に静まる。………軈て、何事も無かったかのようにおじさんやおばさんたちが笑顔で俺たちに軽く手を振り、農作業へ戻っていった。


 ……なんという統治力。いや、掌握力。

 そんな光景に俺たちは呆然と立ち尽くしていると、俺たちを危機から救ってくれた一人の白髪混じりのおばさんが近づいて――――――――え?



「あんたら大丈夫かい? すまんね、うちの村の人達は皆子供が好きでね?」

「い、いえっ。 私たちは大丈夫ですっ」

「大丈夫じゃぞ? タダで飴貰ったしな!!」



 ……"大丈夫"なわけない。

 今目の前にいる威圧感のあるおばさん。――――まるで『以前』のように生き生きとした姿。……一体いつからこんな元気な姿になったのかは俺は知らない。


 ……そして俺は思わず口にしてしまう。



「―――――"母さん"」

「……ん? どうしたんだい銀髪のべっぴんお嬢ちゃん。母ちゃんになんか頼まれ事でもされてたのかい?」



 そうさ。

今の俺は『神々島礼二』ではなく、『ミレア』なんだ。気づくわけがない。――――――そうわかっている自分がいるのだが、どうしても気づいてほしいと思ってしまう。


 そんなモヤモヤとした気持ちに俺はつい強く拳を握っていた。その俺の事実に気づいたティアとセルベリアは静かに黙っていてくれた。


 ―――――その時だった。

 俺の肩に馴染みのある手が重ねられていた。下を向いていた俺はゆっくりと顔を上げると、



「……お茶、して行かないかい? 最近は親戚の子たちも来なくて寂しかったんだよ」

「母さ―――――……おばさん」



 そこには懐かしい母さんの優しい笑顔があった。………その笑顔で心のモヤモヤ一気に消えて無くなったようだった。


 だが、これだけは伝えたい。最初から最後まで伝えられなかった一言を。残念ながら言葉には出来ないけれど。…………これだけは。



 ………『今まで育ててくれてありがとう母さん。そして初めまして、優しいおばあさん』



 こうして俺たちのソルベガ捜索の旅は感動の再開から幕を開けるのだった――――――――。

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