第055話『したじゅんび 4』

『あぶりだし』。

 それはよく脱獄系ドラマでよく見かけるランプで手紙を炙れば真のメッセージが読み取れるというアレだ。


 今それを初めて目の当たりにし、再び冒険の予感がしてきて武者震いが止まらなかった。



「す、すげぇなセルベリアッ?! 何でわかったんだ? ご都合探偵かよマジで」

「……いやな? 前魔王お父様がこういうのが好きでよく作っておったから、まさかなと思ってな」

「魔王の方ってみんな変わっているんですね………」



 苦笑いをするティア。

 たしかにセルベリアにしろ、そのお父さんにしろ変わっている、というか変人だな。


 取り敢えず謎が解けたということで、皆であぶりだした紙を囲むように座り、詠唱の説明を見る。すると早速不自然に書かれた『注意事項』というものを発見する。無駄に親切で有難い。


注意事項は全部で四つ。

 1.次元転送維持期間は最大一週間。時間を過ぎれば強制的にこちらの世界へ戻される。


 2.次元転送できるのは『チキュウ』という場所のみ。理由としては別次元の存在が未だこの二つしか確認されていないからである。


 3.チキュウでも"魔力"という概念が存在するため、あちらの世界でも魔法は使える。ただし、あちら側の人間に魔法という存在を知られてしまうと次元に歪み(世界理論の崩壊)が生じ、強制的に戻されてしまうため注意。


「(へぇ。地球でも魔力は存在するんだ。なんか夢があっていいな。さて、最後の注意事項は――――――)」


 4.新作のエロ本頼む。胸が出かければでかいほど我は喜ぶ。ちなみに我が好きな女優は西洋留学生で爆乳の――――――


 著︰偉大なる魔王ベルゼファウスト



 ………すまない、時間が無いので注意事項4はスルーさせてもらう。あと他人の好きな女優なんて知りたくもない。代わりに俺ん家から素晴らしいえろ本を進呈してやろう。貧乳系しかないが許してくれセルベリアのお父さんよ。



「……見たところ特にデメリットはなさそうですね」

「詠唱構築もそこまでいびつでもないし、これならすぐにでもチキュウとやらに行けるぞ?」



 この長いようで短かった魔導書探しが終わり、俺はそっと胸をなでおろす。どうやら問題なく地球に次元転送が出来そうだ。


 そうして詠唱役を受けてくれたセルベリアが詠唱文を読み取っている中、俺は少しの期待を胸に秘めていた。



「なぁティア。 あっちいったらさ。ちょっと行きたいところがあるんだけどいいかな?」

「………そうですね。私も行きたいところがあって……。 時間があったら皆で行きましょう!!」



 ティアもまた、生前世界に行けることに胸を高鳴らせていた。目的はどうであれ、もう戻れないと思っていたあの世界に行けるのだから――――――。









 ♢









「………よし。では"次元転送"を行うぞ?」



 レギオスが正気に戻り、待ちくたびれた勇者たちの相手をするため、俺たちはセルベリアの部屋に移った。


 そして今、俺たちは巨大な魔法陣の上に立っている。細かな部分まで異世界語が刻まれた魔法陣は今まで構築してきたどの魔法陣とも比べ物にならない程の強大な魔力が施されている。


 ……これが『禁忌魔法』。

 生命の源でもある魔力を大量に扱うこの魔法は世間一般の人達が使えば恐らく溜めてある全ての魔力を持っていかれることになるだろう。



「……到着点は二人の"記憶"が頼りじゃ。次元転送が発動した後、思い浮かべるのじゃ、二人が見てきた"チキュウ"という世界を」



 ソルベガがいる場所は大抵分かっている。


『ソルベガ』。その名は俺の兄が嘗て大好きだった日本バンド『ソウルオブ・ベガ』の略称だ。きっとそうだ。


ならば行先は俺たちが生まれ育った国『日本』に間違いない―――――――!!


 俺たちは三角陣トライアングルサークルを作るように手を繋ぎ、そしてティアと俺はゆっくりと目を瞑り、過去の記憶を探り始めた。


 生まれ育った場所―――――――。

 生前住んでいた自宅――――――。

 務めていた会社――――――――。

行きつけのアダルトショップ―――――。



 幅広く記憶を展開し、より日本に到着すりや確率が高くなるよう努力する。



「――――"次元の狭間に生きる神よ、我らに新たな世界を与えたまえ"―――――――ッ!!」



 ――――――そして、俺たちはセルベリアの詠唱が終えるのと同時に、淡い光に包まれた…………。










 ♢








「――――――久しぶりだな」



 これはミレアたちが次元転送を行う一日前の出来事。


 配下シルシアの補正能力を使い、ソルベガとメイヤは一足早く別世界"地球"…………『日本』に到着していた。



 転送先は至って静かであり、見渡せば大きな山や河原、古い木造建築の家しか見当たらない田舎。


 ……だがこの『田舎』こそがソルベガが求めていた場所だった。



「ソルベガ様、ここが『故郷』ですか?」

「……あぁそうだ。 しけた場所だが、俺はこの場所が今でも大好きだ。――――さてと。早速だが母さんと弟の場所に向かうが、準備は出来ているか?」

「……勿論です。 いつでも行えます」



 メイヤの掌には淡い緑色の球体が浮かび上がっていた。―――――ソルベガの最終的な目的は今日果たされる。


 ……今まで異世界転生者を見つけは捕らえを繰り返していた15年間・・・・にいよいよ成果が出る。


 そんな素晴らしき日。

 ソルベガの表情は少し悲しげだった。



「―――――ロクに生きてなかったくせして早死した俺ができる唯一のことだ。………成功することを願うぜ……」



小さく拳を握りしめていた。


 


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