第054話『したじゅんび 3』

「『次元転送の魔道書』ですか?」



 早速セルベリアが魔導書の在り処を聞いてみたのだが存外、レギオスは平然と話に聞き入っていた。……いつもならば辛辣なツッコミの一つや二つはあるというのに、妙に大人しい? そんな感じがしてたまらなかった。



「レギオス、もしや知っておるのか?」

「……え、えぇ。まぁ―――――」



 再び、押しよくセルベリアがレギオスに訴えかけると、次は少々困り果てた……というより、焦っているような表情を浮かべ、



「……じ、実はここに―――――」



 レギオスが腰に手を回したと思ったら、なんと分厚い魔導書が手に握られていたのだ。



「おぉ!! でかしたぞレギオスッ!!」

「……い、いえ。私も魔王様のお役に立てて光栄で、す」



 ………ん?

 先程から歯切れの悪い発言をするレギオス。妙に落ち着きがないようにも見える。


 普段からは考えられない程の動揺をするレギオスに目を凝らして要因を探す。――――……? 何やらポケットから"黒い機体……"板"のような。――――ってスマホじゃん? タブレットに続いてなのでそこまで驚かないが。


 チラリと見える機械の液晶に映る文字。

"Let's Live!!"というスタートボタンの上には『ラビットガ――――――――――



「はぁぁぁぁぁぁ?! ちょいとツラ貸せレギオスッ」

「――――え、えぇ? ティア様っ?! そのミレア様みたいな下品な口調はッ?!―――――」



 何故か頬を赤らめたティアがレギオスの首根っこを掴み、俺とセルベリアを置いて奥のレギオスの部屋へと引き摺っていた。

――――あと何か『ミレア』『下品』という言葉がレギオスの声から聞こえた気がしたが、幻聴だろうか?


 それよりもあのレギオスをいとも容易く引き摺っていたティアにただただ取り残された二人は唖然としていた。



「……あの二人、あんなに仲良かったか?」

「にわかに信じ難いが、知らないところで友だちは自然にできるらしいぞ? そして今回がそのパターンだと思う」

「……意外な組み合わせじゃな」

「……それには同感」



 そうして暫く二人の帰りを待つのだが………。一向に帰ってくる気配はない。流石に何を話しているのか気になってくる頃合だ。



「なぁ、セルベリア。 盗み聞き的な魔法ってあるのか?」

「……今ちょうどつかおうと思っていたところじゃ。 みれあにも付与させよう」

「……うむ。頼んだ魔王よ」



 魔王が"盗聴魔法"を使うのは何ともシュールだが、今は立場とかプライドを気にしている暇はない。


 そしてセルベリアが小さい詠唱を唱えると同時に俺の両耳が熱を持ち始め―――――――



「………うぉ。めっちゃ聞こえるじゃん」

「ついでに外部の音を遮断する魔法を使っておいたので、より簡単に二人の会話が聞けると思うぞ?」



 小回りのきく魔王様だ。

 ……たしかに先程から扉を叩く音が妙に耳障りだったからな。短気な勇者たちである。


 早速、魔法を付与したお陰か、微かではあるが、ティアとレギオスの会話が耳に入ってきた。



『―――――とは知らずッ!! し、しかし、この事実だけは――――――きっと魔王様に――されてしまいますッ―――――サイン貰えますか……?』

『ふざけんなぶっ殺すぞ? あとそういうわけにもいかねーんだよ。こちとら―――――した事実が大事なんだよ。 それより、ラビ―――――ルズのゲームなんていつ発売されてたんだよ』

『……つい先月です』

『はぁ? 私の代役どう立てたんだよっ?!』


「「 」」



 段々と鮮明に会話文が聞こえてくるようになったのだが、俺たちの思考は完全に停止していた。―――――それは勿論、最初らへんの重要箇所だけ聞けないまま会話が進んでいたからである。……だが、言えることは一つある。



「……楽しそうだな」

「ほんとうに仲良しのようじゃな」








 ♢









 盗み聞きを諦めてから20分ほど経過したところで二人は帰ってきた。

 

 因みにレギオスは魂が抜けたような表情で玉座で息絶えていたので見て見ぬふりをし、安静にしておく。事情は知らないがとりあえずお疲れ様、レギオス。



「取り敢えず魔導書は使っていいそうですよ?」



 レギオスから強奪(予想だが)した魔導書を俺に渡す。正直レギオスとの密会内容が気になるが、非常に上機嫌なティアの表情を見るに、『これは聞いてはいけない、確実に死ぬ。確殺される』と独断した俺はそのまま本題へと入る。



「………うーん。"座標移動魔法"に"空間維持魔法"。 "禁忌書物"というだけあって現代科学が覆りそうな魔法ばかりあるな……」



 ペラペラ魔導書を捲るごとに、科学が否定されていく様を目の当たりにしてかなり罪悪感があるが――――――



「……肝心の"次元転送魔法"がないんだが」



 ページはいよいよ最終ページとなり、空白ページを最後に魔導書全てを読了する。傍で共に見ていたティアもまた、首を傾げる。


「―――――おかしいですね。 たしかに次元転送魔法らしきものは記載されていません……」



 もう一度、次はティアがページを捲っていくが、行き着く先は同じであり、首を横に降った。―――――だが、本当におかしい。


 たしかに俺たちはレギオスに『次元転送魔法』について聞き、これを渡された。この件でレギオスが嘘をつく理由もないし、記載されているはずなんだよな。


 これに関してはレギオスの気が落ちついてから聞いてみて見るしかないな――――――――



「………ふふふ。みれあとてぃあよ。 我に魔導書を貸すのじゃ。 解決できるかもしれん」



 そう軽く諦めていた時だった。

 セルベリアが可愛らしく胸を張り、魔導書を渡すよう手を差し出したのだ。

 ………淡い期待を持ち、ティアはセルベリアに魔導書を渡す。


 ……まさか、全てのページを切り取って繋ぎ合わせたら巨大な魔法陣が出現するとかそんな面倒くさいやつじゃないだろうな…………??


 ……と。 ハラハラしながらセルベリアの行動を見ていると、セルベリアは最終ページの空白ページに目をやり、左手に小さな球状の火属性魔法を発生させる。


 そして手際よく空白ページを切り取り、何かをあぶり出すように紙の周りで火の玉を動かす。


 ―――――すると。何にも書かれていない白紙から大量の文字が徐々に浮かび上がってきた。

 

 そしてセルベリア文字が完全に浮かび上がった紙を俺たちに見せつけ、ドヤ顔を決めた。



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