第057話『ふるさと 2』
「お萩は好きかな?」
テーブルには懐かしの母さん特製お萩の乗った皿が置かれ、俺たち三人は無邪気にお萩に手を伸ばす。
あれから俺たちは母さんに連れられ、懐かしの実家に上がらせてもらっていた。
そして俺たちの服装を改めて見た母さんは『そんな服じゃ目立っちゃうだろう? うちの親戚の子のTシャツを貸してあげよう』と気を利かせてくれたので衣装チェンジ。
因みにセルベリアの角は『不干渉魔法』というもので隠せるらしいのでそうしてもらう。まだまだ俺の知らない便利な魔法があるもんだ。
「……なぁ、おばさんよ(モグモグ)。 このてぃーしゃつとやらに(モグモグ)書かれている文字はなんといういみなのじゃ?(モグモグ)」
「セルベリアちゃん? お口にもの入れて喋っちゃ(もぐもぐ)ダメですよっ?(もぐもぐ)」
どうやら二人はお萩がお気に召したようで。たしかに美味いよな、このお萩。
異世界の住民であって、やはりセルベリアは日本語、というか漢字が読めないらしい。―――――それよりも、
「服のセンス無いな……。おばちゃん」
「ふふふ。 よく息子たちから言われたもんだよ」
俺たちが借りたTシャツは所謂『文字Tシャツ』である。
基本的にシンプルな無地であり、
「……『岩盤浴』って、全然意味わかんねぇよ」
「そうかい? 外国人の方には人気らしいのよ?」
いや、そりゃ岩盤浴は知ってるけど。
たしかに、こう言ってはなんだが、外国人はこういったマニアックで日本臭い言葉が好きだよな。
でもあれ案外俺たちも馬鹿にできなく、『
まぁ、うちの同僚には『巨根』と書かれたTシャツを着ていた勇者がいたがな。そういう性癖なのだろう。………そしてティアのやつもかなり酷い。
「……私のは『☆idol枕☆』と……。 ? 枕……? どういう意味でしょうか?」
「んー? マグロ女
「……母さ――――おばさん。バカ言ってないでティアのTシャツ替えたげて。まずなんだよ
元有名アイドルにこのTシャツは
もうこのTシャツ紹介したくなくなってきたが、セルベリアのだけ紹介しないのは可哀想なので仕方なく。
「えーっとな。セルベリアのTシャツには『たいら』と書かれていてだな……」
「『たいら』……? それってあの『平』か? なるほど、我と平衡する輩は存在しないという意味か………?? 我にふさわしいではないか、おばさんッ!!」
「ふふっ、たしかにお似合いよ、ベリアちゃん」
柔軟な頭脳と想像力の持ち主で助かる。つまりアホってわけだが。
まぁ、実際の意味はアレだ。察してくれ。
そんな下らないTシャツの会話で盛り上がっていると、不意に母さんは大きな笑い出した。
「ははははっ!! 久しぶりよ、こんなに笑ったのは。 何だが、息子達が生きていた頃を思い出すよ 」
「―――――ッ」
明るく笑い話す母さんであったが、俺にはその言葉の辛さが判ってしまい、胸がズキンと痛む。それは所々母さんが言う『息子』という言葉に。
……そういえば兄、
早くも父が死んでしまったものの、俺たち二人の存在がきっと母さんを支えていたのだろう。
……だが、本当に急だった。
兄が子供を庇い、交通事故で亡くなってから、母さんはずっと涙を流し、一切口を開かぬまま、父さんと並ぶ晃兄さんの仏壇の前で座り込んでいた。
その時は俺が何とか励ましたり、介護をしていくうちにいつもの調子に戻ってくれたが………。
「(……俺が死んだ時の母さん、どうしたんだろうな)」
背後にある仏壇には三枚の慰霊写真。
父さん、兄さん、そして俺の写真。
写真が飾られている。という事は俺の死も受け入れたという事だな。…………なのに何故。 何故、母さんは今笑って日々を過ごせているのだろうか? まだ俺が死んでから一ヶ月も経っていないはずだ。 なのに何故、昔みたいに笑顔で毎日を過ごせているんだ……?
―――――そして俺は思わず口を開いてその疑問を母さんにぶつけていた。
「……なんで。なんでおばさんは二人の………息子の死を経験してそんなにも生き生きとしているんだ……?」
直視なんてできるわけない。
俺はゆっくりと俯き、母さんの返答を待つ。………すると母さんの返答は直ぐに返ってきた。
――――それは生き生きとした口調で、堂々と。
「……信じられないと思うけどね。 帰ってきたんだよ、うちの一番上の息子の晃が
「「「―――――え?」」」
……一瞬、母さんの言っていることが理解出来なかった。
また、話に聞き入っていた二人すらも声を挙げられずにはいられなかったようだ。
「……生まれ変わって――――戻ってきた…………?」
普通ではありえないことだが、今の俺たちの立場からしてみれば疑うことすら叶わない。―――――なぜならこうして異世界転生者が生前世界に干渉してしまっているのだから。
「(兄も………異世界転生を……?!)」
この時、俺が抱いたのは『希望』と『疑心感』。
……まず兄さんが生まれ変わり生きているとなればそれは幸せなことだ。……しかし母さんがいうことが真ならばどうやって兄さんはこちらの世界にやって来たのか……? それに兄さんの性格上、ただ母さんに会いに来るなんて信じられない。
そして最終的に俺の胸には『不安』だけが残った。
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