第029話『りう"ぁいあさんの○○○ 2』

「………うしっ。できたぞッ」



 生前魔法とは自身の記憶を頼りに、実に細かく再現しなければ実体として作り出すことは叶わない。


 ………そして俺は同僚たちと一緒に水着観察しに出かけたあの頃を思い出し、何とか全員分の水着を完成させることができた。



 ……ティアはピンク色のフリフリビキニ。


 ……セルベリアは純白のスク水。オマケにお腹部分に『せるべりあ』とペイントをしておいた。


 ……そして俺はアダルティな黒ビキニ。胸こそないが、自慢のボディーラインで男どもをひと目で狼にしてしま―――――――



「………うぐぇぇぇ〜」



 ついでに生成した鏡の前で、軽く嘔吐する銀髪美少女。


 ………男が男を魅了するとか考えただけで吐き気がこみ上げてきやがった……。 やっぱこの身体不便だわ。


 ―――――俺はこんな感じだが、



「ミレアちゃーん、早く泳ぎましょー!!」

「リヴァイアサンを捕まえるのじゃー!!」


 

 素の女の子たちは絶賛興奮中だった。

 ――――コイツらの笑顔を見れれば作った甲斐があったもんだ。


 俺だけ浜辺で休憩というのも悪いので、自身の男心を乙女心に変え、海に駆けて行った。



 ――――ぱしゃーんと、水音を立て、蒼い水中の世界に身を預ける。



「(………小柄のせいか? めっちゃ水に浮くなおい)」



 前世のガタイの良い身体とは違い、浮き輪が要らないくらい軽く水に浮き上がる。 これ波きたらワンパンされるな。


 セルベリアとティアは足がつく場所で水を掛け合い、じゃれ合う中、俺はのんびりと水中から顔を覗かせて熱い太陽を見上げていた。



「………ふぅ。ビールが飲みたくなるぜ」



 何だかんだこの世界で来てからここまでのんびりする時間は無かったような気がした。


 まぁ、会社の残業ラッシュに比べたら愉快なものだが―――――――



「ミレアちゃんっ?! 危ないッ!!」



 ………と。プカプカと浮かんでいると、不意にティアの声が耳に入る。

 ―なんか、危ないとかなんとか――――――


 ………その時だった。

 俺が浮かぶ水中の下から地が揺れるほどの轟音が響く。―――――しかもそれは段々と近づいてくるわけで、、、、、


「――――――え。ちょ―――――きゃぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!」



 そして何故か俺は宙を舞っていた。

 冷静に下を見れば青ざめた表情のティアとセルベリアに口を大きく開いたリヴァイアサンさんが―――――――…………え?



 その後の過程は良く覚えていなかった。








 ♢








「………いてて」



 何とも既視感デジャヴな台詞を吐く俺は、滑りけのある地面に尻もちをついていた。ここに来てローションプレイとは分かってるじゃないか――――――ってちげぇよ!!



「………俺、食われたんだよな? リヴァイアサンに」



 記憶こそ曖昧だが、この肉厚あるピンク色の壁。 そしてこの滑りけのある液体は恐らく胃液。


 うん、完全に体内だなこれ。


 

 ………困ったな。

 聖剣がない今、無理やりリヴァイアサンの体内を裂いて脱出することも出来ないし…………。



「火属性魔法を使えば自爆するし、水属性魔法を使えば逆流して肛門から出ることになるし………」



 今ちょっと肛門から脱出してもいいかも? とか考えた自分が恥ずかしい。


 ただ立ち止まっていても仕方が無いので、一先ず歩いてみる。


 歩く度にねちゃねちゃとしたイヤらしい音が鳴るのは勘弁して欲しい。



「………こっちの方が口の部分だと思うんだが―――――」

 

「――――待たれ。そこのお嬢さん」



 あれおかしいな。

 ………たしかに水の流れはこちらから来ていたはずだったんだが……。

 あっ、もしや鼻部分に来てしまったのか――――――



「な、なぁお嬢さん? 無視しないでくれよ………」

「…………はぁ。 空耳と信じていたんだが」



 先程から聞こえてくる老人のか細い声。きっとこのリヴァイアサンに食われた亡霊の幻聴だと思い込んでいたが…………。



「おじさ―――――」

「レグレスじゃ。よろしく、リヴァイアサン民よ」

「勝手に自己紹介されても困るわ。 それとリヴァイアサン民って何だよ、魚人かよ」

「………口が悪いお嬢さんじゃな、、、」



 俺の行く先で座り込むレグレスという爺さんは唾を吐き散らかす。 感じ悪い爺さんだな、、、。


 服はところどころ胃液で溶け、男の象徴たる性剣カリバーが顕になっていた。この場面は是非ともモザイクをかけて欲しいな。



「………はっ。 粗チンかよ」

 

「お、お主ッ!! わしの性剣カリバーを侮辱しおって!! これでもわしは若い頃女を喰らい尽くして――――――」



 軽く煽ろうとした結果、爺さんにセクハラ話を長々とされた。

 

 爺さんのカリバー伝説をこの幼女体型で聞くことになるとは…………。かなり複雑な気持ちだった。


 だから俺は白旗の代わりに、



「すみません謝ります。だから脱出方法教えて下さい」



 土下座をした。

 引き下がるのが身のためである。

 

 すると、レグレス爺さんは高笑いしながらカリバーをブラブラさせ、俺を嘲笑った。………会って間もないやつをこんなにもぶっ殺したくなったのは初めてだ。―――――しかし自身の気持ちを押し殺し、頭を下げ続けると、



「仕方ない。わしのカリバーの力を以て、このリヴァイアサンなら脱出させてやろう………」



 案外、この爺さんは優しかった。

 俺はゆっくりと頭を下げ、希望が胸に灯る。



「……で、どうやって脱出するんだ?!」


「いやそれ知ってたらわしはとっくにこの体内からおさらばしているわい」



 ………ピキっ。

 コメカミがミシミシと音を立てる。


 あぁ分かっていたとも。

 ―――――どうせこのジジイは無能な事ぐらい魔力量で感じ取れてたよ。


 俺は満面の笑みを絶やさぬまま、レグレス爺さんのカリバーを囲むように魔法陣を構築させた。

 

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