第018話『さつりくきょうかい 2』

 ――――眼鏡をかけ、修道服を来た女性は右肩に突き刺さる薔薇柄のナイフの激痛に耐えながらも笑顔を絶やさない。…………この人物の前では絶対に。



「――――セド。 その傷はどうしたのかい?」


 

 修道服を身に纏い、目に大きな傷跡が目立つお婆さんが新人であるセドを優雅に紅茶を啜りながら睨みつける。



 ――――威圧に圧倒されたセドは慌てながらも仕事の成果として一枚の写真を取り出した。



「………このどれかの人物が『別世界から来た人間』である事はたしかです」

「ズズズ……――――――この聖剣の子を調べなさい。 きっとこの子が当たりビンゴだわ…………」



 お婆さんは紅茶をテーブルに置き、白髪をかきあげ、肉が顕となった左目をセドに見せつける。



「私の目は誤魔化せないよ。………見つけ出せないものは無いのよ」

「…………その通りであります、ジェドリア神官様」



 胸元辺りで十字を作り、頭を下げる。

 セドは内心ホッとしているだろうか。

 ……だがそれは大きな間違い。


 ―――――その下がった頭に向け、ジェドリアは禍々しい剣・・・・・を向ける。



「ならよろしく頼むわ、セド。 死して尚、神に等しき私に忠誠を―――――」

 

「―――――ッ?! ジェドリア神官さ―――――――」



 ―――――テーブルに置いていた紅茶に赤い雫が一粒入った。………そして表情一つ変えないジェドリアの純白の修道服を赤く染めた。


 無惨に斬首されたセドだったが、不意に関節が動き、不気味に立ち上がる。

 ―――――そしてジェドリアは遺体となったセドを愛でる。



「―――――死者としての方が色々と使い勝手がいいのよ。悪く思わないでね」



 ジェドリアの持つ剣は"生を奪い、死として生かす"絶対服従の神器。


 ―――――もう少しだよ。


 ジェドリアは血飛沫滲む写真に映る幼き銀髪美少女をうっとり眺めていた。








 ♢








 翌日。

 俺たちはセルベリアの魔法カード発行の為、ギルドを訪れたのだが、何やら騒がしい。


 それはいつもの明るい雰囲気とかではなく、なにかに怯えているようだった。―――――聞くだけ聞いてみるか。居づらいし。



「盾騎士のおっちゃん、この騒ぎは何だ?」

「おぉ、ロリナイト様御一行か」



 この人は盾騎士パラディンの魔法士。 以前に少し話したことをきっかけに意気投合し、『ロリナイト』というあだ名をつけてくれた面白くて心優しいおっちゃんだ。――――だがそのいつもにこやかなおっちゃんも今日は何だか不甲斐ない表情をしていた。



「『殺戮教会』って知ってるか? ロリナイト様よ」

「………殺戮かは知らないけど、昨日張り紙でみた宗教の奴らか?」

「あぁ、それだな。 ………そいつらが最近この国で動き始めているらしくてな。 で、そいつらがどれだけやばい集団だと言うと――――――」



 おっちゃんはその殺戮教会のことを詳しく話してくれた。


『レゾリア教』。

 またの名を『殺戮教会』。


 その集団は聖典や神などの名を使い、表向きは宗教と装う。しかし


 裏では危険物の流通を行っている野蛮な集団。


 前世俺のいた世界で言う麻薬密売の非公認組織・犯罪組織みたいなものだな。


 それだけなら皆がそこまで気にかける必要は無い。

 ―――――だが、『殺戮』付くだけあり、殺人を稼業としている組織でもあるためこうして皆不満を持っているのだろう。



「………だが、それらを解決するのが魔法士なんじゃないのか?」

「――――あぁその通りだ。だからみんな怯えてるんだ」



 おっさんがある一枚の巨大な張り紙を指さす。 どうやらティアが事前に見に行ったらしく、ソワソワしていた。

 少々鬱陶しいので、脇をつついて事情を聞いてみると、



「た、大変だよっ、緊急クエストが出てるっ!!」

「………緊急クエスト?」



 聞きなれない言葉に幼女オジサン驚き。

 …………『緊急』と言われてもそれがどれだけ驚くものなのか、俺には全く理解できない。


 そういうわけで、自ら張り紙を見に行く。

 

 ―――――内容はこうだ。



 ・緊急クエスト


 クエスト内容︰殺戮教会から国を守る。


 報酬︰国勲章及び相応金


 参加者︰ルクセント王国魔法士全員


 ※尚、国から脱国、クエスト拒否をした場合、魔法士カードの剥奪、または国から厳しい刑が下される。



「う、うわぁ…………」



 思わず哀れみのため息が漏れる。


 

 今更知る魔法士という職の厳しさ。


 この張り紙を見るに、俺たち魔法士はただ人々(魔王配下からの依頼もあったが)の悩みを解決するだけの単純な警察ごっこでは無いと。


 言うならば我々の時代でいう『出兵』の役割も担っていると。


 最初この国に来た時から違和感はあった。―――――誰が国を守っているのかと。………それが俺たち魔法士であり国の番犬。



 皆の顔が一斉に青ざめるも、身体は戦闘の準備を整えていた。

 ―――――これが軍人いくさびとという存在…………。


 俺は仲間であるティアとセルベリアを見る。


 ――――――こいつらも死ぬリスクがあると考えるとゾッとしてしまう。


 見た目が幼女であっても中身は立派な大人。俺が腰を抜かしていたらティア達に示しがつかない。


 俺は不安が過りながらも皮肉の笑顔を浮かべ、聖剣を担ぐ。


 前回のレギオスとの戦闘みたく、遊び要素が無い危険なクエスト。



「…………上等だッ」



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