第016話『まおうのいえで 5』

「ね、ネコちゃん・・・っ?!」



 可愛らしいネコを目の当たりにして、レギオスのキャラが崩れた。


 先程の冷静沈着な雰囲気とは似ても似つかないほどの間抜けな顔。つまりデレデレ顔だ。猫にちゃん付けするやつ初めて見たぞ。



「お。おい、てぃあッ!! ネコさん・・だぞ?!」

「そうですねぇ。でも見たことないネコですね」



 あ、あれ? この世界の人達って猫を崇めたり、尊敬したりしているのかな?

『猫は神様』的な。


 ………と、今は戦闘中だ。 集中集中ッ。



「早くしなよ? それともしりとり止めるかい?」

「………くっ!! 可愛いネコちゃんを盾に使うとはッ―――――!!」



 先程言われたレギオスの言葉をそっくりそのまま返す。…………前世ならこれだけで動物愛護法に触れてしまうのかもしれないがここは異世界。



「――――だが安心しろハチ公。 お前は俺が護ってやる」

「もう既に名前が………… それにネーミングセンスが古いし、猫に相応しい名ではないッ?!」



 忠犬ハチ公って異世界でも有名なのか…………?

 

 マジかハチ公、お前も異世界転生していたとはな。


 イリオモテヤマネコのハチ公は俺の足に擦り寄ってくる。うむ、可愛い。

 

 …………だが今は戦闘中だ。

 俺はハチ公を抱きかかえ、ティアに預ける。



「わぁ!! 猫様可愛いですぅ!!」

「我もっ、我もさわりたいぞっ!!」



 ハチ公人気者。

 ………さて、戦闘に戻るか――――――



「………ネコちゃんをまんまと戦場外から外すとは命知らずですね」

「いや戦場に関係ない奴は巻き込めねぇーだろ?」

「なぜか私が貴方に正論を言われてる?!」



 普通ならばレギオスの大好きな猫を近くに起き、人質ならぬ猫質を取ればきっと攻撃系の魔法はしてこないだろう。


 ………だがまだレギオスは気づいていない。 "自身に取り巻く冷静さと殺気が欠けてしまっていることを"。


 ストラテジーゲームの勝者は単なる力がある者が有するものでは無い。

 最初にわなを張った方が勝ちなんだよ。


 こちとら厳しい日本社会で約40年間生きてきたんだ。 ポーカーフェイスは極めているつもりだ。

 ………よってこの勝負―――――



「早くしりとり続けよーぜ? じゅーう、きゅーう、はーち…………」

「え?! あ、えと………『こ』………『こ』――――――」

「―――――すきやりっ!!」


 


 元からルールが厳しく定められていない時点で俺の勝ちだ。


 背後を取り、聖剣を振るう。 レギオスは冷静さを欠いていたため、足に仕込んである刃をむき出すのに時間が掛かり―――――――



「…………うわぁぁぁぁっ?!」



 素人顔負けの斬撃を避けられず、地面へ倒れる。 ―――――勿論、きちんと刃で切り裂いたため、背中からは血が滲んでくる。踠き苦しみ、悔しがるレギオスの姿を見て俺は、



「ティア。傷の手当てを。 話はその後だ」

「は、はいっ! ただいま治しますっ」



 当初の目的とは少し違ったが、これで万事解決だろう。 オジサンの勘はよく当たるんだよ。








 ♢








「本当に申し訳ございません」



 傷の手当が終わると、レギオスは俺たちに頭を下げた。

 下げられっぱなしだとマトモに話も出来ないので頭をあげてもらう。



「謝るのはこっちだ。 ほんとにすまない」

「私からも謝らせてくださいっ」

 

「な、なんでみれあとてぃあまで頭をさげるんじゃ?! すべて我が悪いんじゃ!!」



 セルベリアが俺たちの会話の間に入る。――――するとセルベリアは座り込むレギオスの頭を撫で始めた。



「我のわがままでしごとをおしつけてすまなかった。 ―――――だが我が魔王をやめたいのは事実じゃ」

「…………魔王様」



 ここは俺たちが口を挟むような場面ではないのでティアと共に二人を見守る。


 

「我は人をきずつけるのが苦手なのだ。 …………だからレギオス。我に『学びの時間』をくれぬか?」

「………『学びの時間』、とは?」



 ………するとセルベリアが俺たちに抱きついてくる。何事かと思っていると、



「みれあとてぃあと共に旅をして、魔王らしさを磨くのじゃ。 だからレギオス、それまでは――――――」

「―――――わたくしが魔王の代理をする…………全く、随分と身勝手ですね」



 言葉こそ厳しいが、レギオスの表情は柔らかいものだった。

 話の終始を見計らい、俺は口を開く。



「魔王を育てるのは難だが…………きちんと面倒は見ます。 まぁ、この見た目で言っても説得力ないですが」

「………いえ、ミレア殿。 貴方と戦って気付かされましたよ。 『人は見かけによらないと』と。 クエストの報酬金はギルドに請求しておきますので」



 ………あ。

 そう言えばこれってクエストだったのか。―――――セルベリアは旅出が決まったと同時に開かれた大扉に向かって走り始めた。



「今からにもつをまとめてくるのじゃ!!」



 そう言って無邪気に笑いながら廊下を走っていった。

 …………そうして三人となると、レギオスは立ち上がり、俺とティアの優しく握る。…………そして。



「………アイツ・・・、機嫌悪くすると国を滅ぼすほどの魔法を放ちやがりますので気をつけてくださいね?」

 

「「え」」



 最後に嫌な情報を聞いた。






 



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