第015話『まおうのいえで 4』

 レギオスが手に持つ湯呑みがプルプルと震え始め、終いには強靭的な力で粉砕してしまう。完全に怒り狂うレギオスを目の前にして俺とティアがビクンと震え上がる。



「…………たしかに貴女方は魔王様を見つけて下さった恩人。 ですが冗談にも限度と言うものがありましてね――――――」

「なにをいってるんだ? じょーだんではない。 我はみれあとてぃあとたびをするんじゃー!!」



 お、おいアホ魔王ッ!! 煽るなッ。その取り扱い注意なメイドを煽るんじゃねぇ!!


 セルベリアがレギオスに向かって『あっかんべー』をすると、堪忍袋の緒が切れたかのか、畳を叩き割る。

 

 ―――――――そしてスカートをたくし上げながら立ち上がり、俺たちをニコニコしながら見下す。


 虫を見るような目です(幼女ボイス)。



「………この場で即首を奪うことは容易いです。しかし恩があることは事実。 平等な立場で決着をつけさせてもらいます」

「―――――そ、それ断ったら」

「魔王城の門に2つの頭が飾られるでしょう」



 服の裾から見える黒い刃。………こいつ、本気だッ!!


 取り付く島もない俺はティア、セルベリアに視線を送るも、わんわん泣いて喋ってくれないわ、ドヤ顔決めてくるわで完全に追い詰められた銀髪ロリでした。



「…………ルールは? それ次第だ」



 取り敢えず勝ち目があるのかだけ知っておきたい。もし『デスマッチ』とか言われたらすぐランナウェイしてやるからな。


 レギオスさ顎に手を当て、少し考えたところで何かを思いついたようだった。



「『バトルしりとり』というのは如何でしょうか? これなら小さい子でもできるでしょう?」

「………その親切さは買うよ。 で? 『バトル』が付く理由は?」

「ふふ。 それは場所を変えてからお話致しますよ」



 対決にはなんとも意外な『しりとり』に決まった。………一見幼稚な遊びのように思えるが必ず裏がある。

 ―――――それらはレギオスの不敵な表情から読み取れるものだった。









 ♢








『最終決戦の間』に移動をすると早速ルールの説明が始まった。


『バトルしりとり』というものは魔法を駆使したしりとりであり、大きく分けて勝敗ルールが2つある。


 語尾に『ん』がついた時点で負け。

 レギオスが負ければ晴れてセルベリアは自由の身。魔王卒業である。………が、俺たちが負けた場合は――――――



「………その聖剣をいただきます。あと斬首」



 そう。俺のライフとも言えるこの聖剣を奪われてしまうのだ。それは避けたい。…………ってまて。語尾に斬首とか言ってなかったか? このメイド。


 ………そしてもう一つのルールは『相手の戦闘不能、または死亡』である。

 結果、デスマッチだねこれ。


 だがもう逃げ場はないのだ。

 ここは約40年間の知恵を振り絞って勝利を掴むしかない。―――――と、試合を始める前に。



「レギオスさんって何が好き?」

「………は、はぁ。猫です、かね?」



 他愛ない質問を終えたことなので先行を貰った俺からしりとリスタートだっ。


 ティアとセルベリアが端で見守る中、最初に繰り出すものは―――――――



「一投目から勝負を賭けるッ!! 聖剣突エクスカリバー『バ』ぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――」

 


 眩い光を纏った聖剣を手に、神速の如く突進していく――――――


 ………がレギオスは無表情のまま、ただ右手を目の前に突き出し、



「…………『バ』最悪の終バッドエンド『ド』―――――――」

 

「……え――――――」



 ………一言物申そう。

 ――――――なんですかその技。



 どうやらその魔法は『相手の攻撃を跳ね返す反撃カウンター』的な効果らしく――――――


 無残にも自身の放った『聖剣突エクスカリバー』の矛先が俺に変わり、激しい白光と、強い痛みに襲われ、その場で膝をついてしまう。


 …………いやさぁ? 俺転生主人公なんじゃないの? なのに相手がチート級の技使うとか有り得ないんですが。


 地面に跪く俺を睨みつけながら、



「早くしてください。しりとりが成立しませんので」

「…………鬼畜め」



 この世界に来て初めての痛み。

 あまりに衝撃的なことであって、身体がうまく言うことを聞いてくれない。

 取り敢えず、



「………『ド』ドリンクバー『バ』」



 生成魔法によってレストランによくあるドリンクバーの機械とコップが現れる。なるほど、別世界のモノも鮮明に想像出来れば創れるってわけか。


 手馴れた動きでサイダーを注ぎ、喉を潤す。


「な、なんですかそれは?」

「ん、言ったろ。 ドリンクバーって」


 ドリンクバー機械にセルベリアもまた興味深く、目を輝かせながら見つめていた。そりゃそうか。知るわけないかドリンクバー。


 ………一息つけたところで俺は今までの素行について考えた。


 

 ――――正直。俺は浮かれていて、更にはこの世界を舐めていたのかもしれない。


『主人公補正』があるからって痛みを伴わない、または死なないというは過信だった。


 この世界はゲームのようで、マンガやラノベの世界のようであるが実際は違うのだ。―――――これは『現実』。そう捉えなければこの先生きてはいけない―――――それを今日思い知らされた。


 だから俺はまた立ち上がる。―――――死なない為に。勝負に勝つために。



「休憩は終わりましたか? なら早速『バ』活力バイタリティ『イ』」



 レギオスは攻撃を仕掛けるのでは無く、自身の能力を向上させる。


 レギオスの表情から見るからに勝ちを見透かしているようだ。

 

 …………だが、甘いな。

 今から俺は大人として最悪なことをする。だが、今は無邪気で純粋な幼女として見逃してやってほしい。

 …………さぁゆくぞ、渾身の一手―――――――!!



「――――――『イ』イリオモテヤマネコ『コ』ぉぉぉぉぉ!!」



 そう叫ぶと、小さな魔法陣が構築される。

 そして白い光の中と共に可愛らしい『猫』が現れた。



「あ………………」


 ――――――その刹那。

 クールを気取っていたレギオスの表情が崩れた。

 







 

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