第013話『まおうのいえで 2』

 何に使うのかは未だ謎だが、トマトとスイカを買う羽目になってしまった後。



「我はこのせかい世界しんかん震撼させるまおう魔王。 セルベリアである…………(チューチュー)」



 近隣の喫茶店でセルベリアにオレンジジュースやデザートをご馳走し、話し合いをしていた。


 口にはパフェのクリームがベッタリとひっつき、ジュースを両手で持ち、可愛らしくチューチュー吸っていた。



 これが『魔王』。

 ぶっちゃけ石ころをぶつければ倒せてしまいそうなレベルのアホ丸出しだ。


 まぁ、そのアホな点を言い換えるなら『可愛い』の一言だが。


 こちらはクエスト達成の為にこうして喫茶店に引き止めているんだ。話の一つや二つ聞いてからでも問題はないだろう。


 すると早速、ティアがセルベリアに話しかける。


 

「セルベリアちゃんは迷子になっちゃったんですか?」

「まいご? 我はいえでをしたのだっ。 レギオス・・・・の使いなら諦めるんだな。 我はぜったいまおうじょーにはかえらんからな」



 レギオス………?

 ああ、きっと依頼主のことだな。


 どうやら迷子ではなく『家出』をしたたらしい。………これはすぐに帰ってもらえそうにないな。

 

 続いて俺が話しかけてみる。

 まずは家出をした経緯から話してもらい、そこから改善点を練るのが得策だろう。



「なんでセルベリアは家出なんかしたんだ? 部下たちが可哀想じゃないか」

「ふんだっ。 あんなやつらしんでしまえばいいのじゃっ」



 うわこいつ魔王向いてねー………。いや部下を切り捨てるところは魔王らしいとも言うのか………?


 大抵この切り返しをする人はもう自身からはもう語ろうとは絶対しない。こうなった場合はこっちから踏み込むしか術はない。



「どんな揉め事があったんだ? 話せるだけ話してほしい」

「なぜ、みしらぬものに我がぷらいばしーをおしえなきゃならぬのだ――――――」

「はいはい。アメちゃん上げるから話してごらーん」

「え?! いいのか―――――って、いしころではないかッ!!」



 …………うーむ。

 年後の女の子の扱いは難しいな。

 近所のガキンチョたちなら飴一つで機嫌直してくれるのになぁ。


 まぁ、まず飴が石ころの時点で役不足か。――――――と、思った矢先だった。


 セルベリアのジュースが空になると、ゆっくりとコップをテーブルに起き、先程の明るい表情から一変、暗い表情となり悲哀を訴えかけるような視線を俺たちに向けてきた。――――そしてセルベリアはゆっくりと口を開き、



「………もう、ひとをいためつけたくないのじゃ」



 自身の悩みを俺たちにぶつけてくれた。―――――そんな打ち解けてくれた勇気を無駄にはできない。



「それは勇者さんたちのことですか?」



 ティアが優しく訊ねると、セルベリアはコクコクと頷いた。


 ………なるほど。

 理解し難いが無理矢理理解しよう。


 例えるならRPGゲームに近しいものだろうか。

 基本的に魔王を倒すべく主人公『勇者』が立ち上がる―――――!!………的な物語展開だろう。 要するに今回はその視点が『魔王』側というわけだ。



「変なこと聞くようだが、勇者って一人じゃないのか?」

「はい。勇者という職業はギルドランク『S』の方達を指す言葉ですので多くはありませんが居ますよ」


 

 へぇー。別にそいつ特有の力や才能があるから『勇者』ってわけじゃないんだな。


 いやまぁSランクに昇格するにはそれなりの努力や才能は有されると思うけどね。―――――と、このままだとセルベリアの話から脱線しそうなので話を進めよう。


 次は少し厳しめの意見を述べてみようではないか。


「………癇に障るかもだけど、家出をして何かが変わるのか? その自分の立場から『逃げる』というのはそのうち何らかの形で返ってくる。 それは勿論自身にとって不利益なことが」



 逃げていても前へは進めない。


 これは例え話だが、会社なんて簡単な話、一度逃げてしまえば終わりだ。


 しかしそれで『ラッキー』などとうつつを抜かすは間違っている。


 何故ならその時点で『前科』『収入源の損失』などの不利益を生み出してしまっているのだから。

 そしてこの双方を同時解決するのはほぼ不可能だろう。


 俺は『魔王』というものがどれだけ大変なのかは分からない。印象だけでいったら悪いイメージしか持てない。


 だが皆に共通して言えることは『信託を無下にしてはならない』。


 つまり託された職から逃げたいと思うならケリはつけろというわけだ。


 俺の発言が的を射たのか、セルベリアは黙りをしてしまう。―――――ここで追い打ちをかける。



「魔王城に帰れ―――」

「………それだけはいやじゃ―――――」


「―――俺たちも一緒に行ってやるから」

「――――………え?」



 思いがけない返答に言葉を無くすセルベリア。


 そんな状態に陥り、怯えたように身体が震える。――――――そこで俺は小さな腕を伸ばし、セルベリアの頭に手を置き、撫でた。



「一緒に頭を下げよう。 『私、魔王やめます』ってさ」

「…………みれあ」

「??」

 

 こうして話がまとまる中だが、ティアは俺の発言の意図をまだ理解できていないようで目を丸くし、頭上にはクエスチョンマークを浮かべていた。


 ………心苦しいが、暫くは意図を明かさないようにしておこう。


 ――――なんせ、俺が企んでいることはあまりに酷なことで横暴なことだから。





 

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