第009話『ひとかりいくよ 3』

「……考え直さないか? ティア」



 ギルド内のテーブルを2人で囲み、オレンジジュースを口にしながら俺はティアにそう投げかける。…………が、ティアは全く退こうとはしない。



「私、剣は使えませんが、斧は使えますのでッ!!」

「それ、薪割りの手伝いしていたとかそう言うオチじゃないよな?」

 

「え? あ、はい。薪割りですっ。 流石はミレア、よく分かりましたねっ!!」



 うっはぁぁ…………。こりゃダメだ。

 薪割り感覚で魔獣を屠れていたら今頃世界は平和だよ………。


 後からでも職業変更ジョブチェンジは可能だ。………だから取り返しのつかない自体に陥る前に手を打たなければ―――――――――



「1回ッ!! 1回だけ騎士としてクエストを受けさせて下さいッ!!」



 テーブルをドンッと叩き、声を荒らげて俺にそう訴えかける。――――ここまで言い寄られてしまうと否定もできたものじゃない。



「………わかったよ。 ただし俺が危険だと判断した場合、安定の賢者職に就いてもらうからな? 本当は危険なことは避けたいが、まぁ。一度はチャンスがないと納得出来ないもんな」

 

「――――!! あ、ありがとうミレアッ!! 大好きッ」

「ちょっ?! 抱きつくなって?!」



 小さな女の同士が絡まり合う光景を、他の魔法士たちが楽しげに眺めていた。


 ………いやね? 見てないで止めてよ? なっ?! オジサン抱擁に弱いのっ!!


 






 ♢








 ティアの抱擁から解放され、俺たちはクエスト依頼が沢山貼られている掲示板の前にやってくる。


 貼られている髪の右上には『D』や『B』などのアルファベットが書かれているが、これはきっと『○○ランク以上のみ』という条件付きクエストだろう。


 ………というわけで『F』ランクの俺たちが引き受けられるクエスト内容と報酬はかなり薄いもので…………。



「『・指輪の捜索・報酬︰200ペリア』…………。 一食分もロクに稼げねぇのかよ」



 どれを見ても大抵は落し物捜索や迷子探し。 そして報酬はガチャガチャ一回分程度のお金。―――――ブラックにも程があるだろ…………。


因みに文字は恐らく異世界特有の文字。だが意味はなんとなく伝わってくる。これも主人公補正だろうな。




「ミレアっ、 これとかどうでしょうか?」



 ティアは背伸びをし、高いところに貼られていたクエスト発注用紙を取る。

 …………ふむ。どれどれ?



「『・湿地のスライム討伐・報酬︰3800ペリア』か。 まぁこれならティアの実力もはかれるし、報酬金も悪くない。………ここが落としどころだな」



 ならば早速。

 

 俺たちは発注用紙を受付のお姉さんの元に持っていく。

 ………が。お姉さんは少し困った表情を浮かべる。



「………ほ、本当にこれを引き受けるのですか?」



 なるほど、その気持ち分かるぞ。

 新米魔法士が初陣から『討伐クエスト』を選択したものだから心配しているのだ。…………なんていい人なんだ。 ――――――だがしかし、心配はご無用。ノープロブレムである。 なんせ主人公補正があるのでっ。



「はい。これじゃなきゃダメなんでッ!!」



 そう強く志願した。

 …………何やらお姉さんが引き気味になっていた気がしたが、受諾印は押してもらえたので気にしないことに。

 

 ―――――よし、これが俺たちの初陣だッ―――――――――。







 ♢










 ルクセント王国より南西。

 灰色の湖が広がる不気味な湿地帯が今回俺たちが討伐するスライムの生息地。


 ジメジメとした空気により体全身から汗が滲み、前を歩くティアの下着が透ける。エロい。


 同時に俺は自分の洋服を確認する。

 

 ふぅ。薄着ではないので透けていない。仮に透けていたらブラジャーを着用していない俺はティクビを公開することになってしまう。 流石にそれは恥ずかしい。……というか今度スポブラ買おう。


 煩悩を紛らわすかのように、俺はティアに話しかける。


「スライムってやっぱあれか? 青色なのか?」

「いえ、様々な色のスライムがいて、形状もそれぞれ違いますよ?」

「………スライムって多種多様なんだなぁ」

 


 ティアは鞄を漁り始めると、『スライム図鑑』という本を取り出し、細かに説明し始める。

 ………そのパンパンな鞄の中身、全部そのマニアック本とか言わないよな……? いや詮索はしないでおこう。現実を見たくない。



「あとさ、 斧持ってんの?見た感じ持ってなさそうだけど…………」

「あ、それならその鞄に―――――」


 

 研ぎ澄まされた薪割り斧が鞄から出現する。


「刃剥き出しで鞄に入れていたのかよ…………」



 お前の鞄は青狸のポケットか。

 ティアの鞄の中身に関心を通り越して呆れながらも道を進んでいく。



 ――――――クチャッ、、、。



 ………と。

 歩いていると妙な感触の物を踏んでしまったようだ。例えるなら道端に捨ててあるガム的なやつ? あれ新品の靴を履いた初日に踏むと怒り通り越して無心になるよね。 賢者タイム並に。

 

 ―――――って過去話と下ネタ交えて昔語りしてる場合じゃねぇ。


 しかし、足を上げるが粘着力が強いのか中々剥がれない。――――あれ? なんか足から煙が…………



「ミレアッ?! す、スライム・・・・ですそれっ?! 溶かされちゃいますよ?!」

「うげえっ?! 何その残酷な設定ッ?!」



 ティアの強い訴えかけにより、靴を脱ぎ捨て何とかスライムから離れる。


 …………う、うむ。灰色のスライムか。気持ち悪ッ―――――――!!

 

 この時の俺は理性を失っていたのだろう。


 俺は聖剣を構え、無我夢中に魔法陣を剣先に構築させ――――――



「………聖剣突エクスカリバーァァァァァァ!!」



『気持ち悪い生き物を嫌う』。

 俺は今日、初めて女の子らしい反応をしたと思う。


 ――――――結果として『最悪』だが。

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