第010話『ひとかりいくよ 4』

 灰色の湖の横にそれまた同じ程の穴が空く。…………すみません俺の仕業です。


 スライムは言うまでもなく跡形もなく消え去っていた。それはいい。


 ティアと俺の小さな身体は『聖剣突エクスカリバー』の衝撃によって吹き飛び、ヘドロだらけの湖に見事ダイブ。


 それだけならまだ許せる。

 いや、発端は俺なので許す許さないの問題では無いが……………。



「…………なんで服が溶けているんだ・・・・・・・・・?」

「恐らくですが、この湖自体がスライムなのでは?」



 裸体ながらもティアは冷静に分析する。―――――って待て。待てよ?

 今湖自体がスライムとか言ったよな?

 

 湖の水を手で掬ってみると、ヘドロのようにドロドロと臭い。

 …………まさかこれがスライムの体とは。



「取り敢えず湖から上がろう」

「そうですねっ。 せっかくですので競走しましょう!!」


「えっ? ちょっ、…………ってクロール早っ」



 鰹の如くティアは猛スピードで岸に向かう。勝てる気しないので俺はのんびり背泳ぎしながら岸に向かうことにした。


 無邪気なティアを見ることが出来て俺は少し嬉しかった。








 ♢









 岸から上がって数分が経つが、スライムからの敵対行為は見られない。

 ………それよりも、



「今更だが俺たちがこのクエストを発注した時、受付のお姉さんが少し引いていたのはこれのせいか」



 ティアと俺の服は完全に溶け、真っ裸状態。


 服しか溶けないというご都合特性を持つスライムの性癖がよくわかった気がする。


 因みに聖剣は湖に浸かることなく、近くの地面に突き刺さっていたため無事。


 まぁスライムが聖剣を喰らうとは思えないし、想像出来ないが。



「それよりスライムアイツ。どうすれば倒せるんだ?」

「…………そうですね。 スライムは土魔法に弱いはずです。 打撃、斬撃は無効化されちゃいます」



 なるほどな。

 それじゃあ今回のクエストではティアが騎士に向いているか図れないというわけか。…………もしやそれを狙ってスライム討伐を――――――いや考えすぎだなそれは。



「因みにティアは土魔法は使えるのか?」

「は、はい。一応使えますが、土を肥えさせるぐらいの魔法しか………」



 流石は森に囲まれた村で住んでいた子だ。 農業に関してはエキスパートではないか。もう田舎に帰って美味しい野菜を栽培してほしいぐらいだよ。

 

 ………と、冗談はさておき。

 一先ず『超能力サイコキネシス』でそこら辺の土を起こさせ、湖を埋めるか―――――――――



 その時だった。

 …………急に地面が揺れ始め、湖が波紋を作り始める。


 地震大国である日本にいた俺でも体感したことない激しい揺れにより、ティアと共に両膝を地面につけてしまう。


 ―――――ただ湖の変化を見届ける形になる俺たちの目の前に、大量の水が宙に浮き、形を変えていく。

 

 その姿はまさしく―――――――



「「――――――ドラゴン・・・・だ……」」

 


 きっと今、俺はとても女の子らしくない表情をしているだろう。…………だって仕方ないじゃん? スライムが宙に浮き始めて、終いにはドラゴンになっちゃったんだよ?!


 

「な、なんかドラゴンさんが喋っています!!」



 ティアがそう叫ぶと同時に耳を傾けてみる。…………どれどれ―――――――――



「ロリパイハ、キショウカチ。 ジドウポルノホウガアルタメ、ニクガンデハナカナカ、ミレナイ。 ココイセカイ。 ジドウポルノホウ、ナイ。 ヨッテ、ガンミスル」


「「……………」」



 ティアの頭上には『はてな』が浮かび上がり、俺は頭を抱えていた。


 ………街で出会ったおっさんよりも危険な香りがするぞ、このスライム――――――!!


 と、取り敢えず今は眺めているだけのようだ。


 この間にティアと解決策を―――――と、話しかけようとするがティアの雰囲気・・・がいつもと違っていた。



「スライム形状から変化した今なら打撃ダメージが入ります。 ここは私が―――――」

「え、え。あ、あの。ティアちゃん?」



 何がきっかけでスイッチが入ったのは未だ不明だが、明らかに先程と身に纏う物が激変していた。

 

 ――――――そう、今のティアは殺気を纏っていた。クリクリ目の可愛らしい表情だが、近くにいるだけで感じられる。……………この子、やれるッ!!



「見るからにあのドラゴンさんはえっちな目をしていますっ!! 昨日出会ったおじさんと同じ目ですッ。だから殺しますッ!!」

「こ、殺すッ?!」



 やっぱりあれトラウマになっちゃったのか。―――――って今すぐにでも反省、猛省したいところだがそれどころじゃないことは皆様も重々承知であろう。


 あの純粋の典型であるティアが無表情(可愛らしいが)で『殺す』と呟くこの状況を誰が予想していただろうか。

 

 これが元男の女と元から女の『熱』の違いなのだろうか。…………女怖ぇぇ。


 ティアは放られた大きな斧を片手で軽々しく持ち上げる。あの聖剣に軽々しく潰されていたティアから考えられない光景だ。

 これが火事場の馬鹿力………否。女の底力ってやつなのか?!



 そしてティアはドラゴンに向かって斧を構える。…………おいおい、嘘だろッ―――――?! 女性の腕力で斧を投げると言うのか――――――――



「見ててください、ミレア―――――こッ。これが私の力ですッ!! いけぇぇぇ!! 『紅の投斧クリムゾントマホーク』ぅぅぅぅ!!」



 厳つい技名と共に、ドラゴンに向かって斧が宙を―――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る