第008話『ひとかりいくよ 2』

 窓から差し込む朝日に照らされ、目が覚める。どうやらまだティアは寝ているようだ。


 起こさぬよう布団から出た俺はティアから借りた寝巻きを脱ぎ、西洋服に着替える。


 生憎と言っていいのか胸は小さいためブラジャーは不要。 中身が男としては助かる。…………だがこのパンティーには慣れない。ヒラヒラとした純白色のランジェリーである。


 ぶっちゃけトランクスかボクサーパンツを履きたいところだ。だがパンティーしかない。これを無くしたらノーパンなので貴重な1枚だ。

 

 ――――まぁこれも不本意ながら女性アバターを選択してしまった運命。徐々に慣れていくしかない。


 顔を洗うため、洗面所に向かう。その際、自分の顔が鏡に映る。


サラッとした銀髪にクリっとした目。



「うむ。可愛いな」



 そしてこの萌えボイスである。

――――完璧美少女なのだ俺は。


 過去の髭生やして、頭ボサボサで、煙草と酒ばっかの姿からは想像出来ない変わりようだ。


 顔を水で濡らし、タオルで拭き終えると、鏡の前で俺は思わずポーズを取る。



「こう、ボディーラインを意識すれば…………おぉ。ジュニアアイドルなんか目じゃねぇ可愛さだ―――――」



 髪をかきあげ『にぱぁ!』と笑う。

 

 うむ。女の子が鏡を見るのが好きな理由、今ならわかる気がするぞ――――――――



「………ミレアはモデルを目指しているのですか?」

「――――はっ?!」



 鏡に映るもう一人の人物。

 …………目を擦り、眠そうにティアが洗面所に来ていたようだ。


 急に幻想から現実に戻されたことにより、俺の胸がざわつき始め、顔が熱くなっていく。


 身体中が悶々とした感覚に襲われ、俺は――――――――――



「ちょっと眠気取れないから窓から飛び降りてくる」

「えぇ?! こ、ここ4階ですよッ?!」



 恥ずかしさのあまり逃げ出した。

 勢いよく窓から飛んだ瞬間、真っ裸の天使が呑気にラッパを吹くお花畑が見えたような気がした。








 ♢








「いてて…………」

「もう、危険な真似はしないでくださいッ!!」



 俺はティアに説教されながら街を歩く。

 あの後、俺は地面に背中から叩きつけられ、全身打撲を負った。 だが、ティアが治癒魔法ヒールをかけてくれたお陰で何とか歩ける程度には回復した。


 それにしても『治癒魔法ヒール』とは便利なものだな。


 しかもティアが魔法を使えるとは思っていなかったので驚きが驚きを呼ぶ。しかし、治せるのは肉体的損傷的のみであり、精神的損傷、又は腫瘍を取り除くというものでは無い。


そして死者を蘇らせるという高等な魔法は未だ嘗て発見されていないという。つまり、魔法というものは便利なものであって、我々の世界の科学技術全てを否定するようなものでは無いということだ。 教会で10ゴールドで生き返らせてくれるのはゲーム内だけってわけだ。


 その後もティアの可愛らしい説教(反省してるよ?)が続き、二人並んで歩いているうちに、『Guildギルド』と書かれた看板の建物に到着する。



「魔法士カード発行に『4000ペリア』が必要です。 お母さんから頂いたお小遣いで足りると思いますが、先に確認しておこ?」



 ペリアとはこの世界での流通通貨らしく、1ペリア=1円であり、非常に飲み込みやすく助かる。


 ぶっちゃけよくある『銀貨2枚、金額1枚』とかの世界はどうも理解出来そうにないからな。お釣り計算とか苦労しそうと思うのは俺だけなのだろうか………。


 事前にティアの母さんから貰ったポーチの中身を確認する。

 うん、しっかり4000ペリア入っていることを確認。



「じゃ、行きますか」

「う、うんっ」



 希望、期待と緊張が胸を鼓動を早める。―――――隣のティアを見ると、緊張し過ぎでガチガチになっていた。

 ……………ったく。



「――――えっ?!」

「これなら安心だろ?」



 俺はティアの柔らかい掌を握る。

 昔はこうして母親と手を繋ぎながらデパートを歩いてたな。

 手を繋いでいた理由は今でも覚えている。


『不安』を紛らわすためだ。

 だからこうしてティアと手を繋ぎ、自分、そしてティアの緊張と不安を紛らわす。


 そして繋いだ手を見てお互い照れくさくはにかみ、仲睦まじくギルドへと歩いていった。









 ♢





 


 ギルド内へ入ると同時に騒々しくも明るい雰囲気が漂ってくる。


 鎧やローブに身に纏い、ごつい剣を背負う勇ましい男たちがいた。

 中には女性魔法士の人たちも存在し、パーティーメンバーでテーブルを囲んでいた。


 …………これがギルド。

 これが冒険の酒場という奴か。


 今その場所に足を踏み入れていると思うだけで胸が高鳴る。――――――が、その前に俺たちの冒険の準備をしないとな。



「ミレア、受付はあそこだよっ?! 早く行こっ!!」

「お、おう。わかったから腕引っ張るなっ」



 対してティアは興奮を抑えきれていなかった。―――――こいつ、こんなキラキラした目をするんだな。


 俺は流されるがままに、受付の前までやってくる。



「新人魔法士さんでしょうか?」



 受付のお姉さんが俺ら2人に笑顔で話しかけてくれる。それよりもおっぱいでか――――――っと。今この身体でそんな事考えていると『下心』ではなく『妬み』を抱いてしまう。

 ふんっ、巨乳なんかに興味はいないわッ。ペチャパイ最高ですからっ!



「何で1人でドヤ顔してるの? 早くお金出さないと」

「え? あ、あぁ。すまん」


 ティアに鋭い目付きで見られる。…………めっさ怖かった。チビりかけたよ。

 

 取り乱していた俺は急いでカウンターに4000ペリアを差し出す。

 …………すみませんっ。デカパイとロリパイで葛藤していたもんでね。


 その後、名前や志望職業を告げ、今は発行待ちしていた。


 因みに俺が選んだ職業は『騎士』。

 やっぱ聖剣持ってるなら騎士以外ありえないだろ? ぶっちゃけ賢者が良かったとかなどの無駄な雑念は振り払った。――――――そういえばティアはなんの職業を選んだんだ?



「ティア様、ミレア様。 発行完了致しました」



 グッドタイミングで魔法士カードが発行される。

 受付のお姉さんからカードを受け取り、早速目を通す。


 ほう。

 現在のランクは『F』。無印級であり、クエスト完了ごとに更新を行い、一定量の経験値が貯まると次ランクへ昇格するというシステム。 まさしくゲームそのもので、ワクワクする。



「そういえばティアはなんの職業ジョブを選んだんだ?」



 まぁ、いいところ魔法使いか賢者など、サポートを行える職業だろう。

 言い方は悪いが、臆病なティアがバリバリの前衛職なわけがない――――――――



「私ですか? 『騎士』ですっ!!」




 バリバリ前衛職選んでました。

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