風森怜

「すっごく、美味しいです。波奈ちゃん、ありがとう」


 本当に良く食べる。

 女子プロレスラーなのだから当たり前なのかもしれないが、風森怜は月読波奈がお見舞いに持ってきたティラミスケーキにイチゴショート、ふわふわプリンをぺろりと平らげる。

 いや、三人で食べるつもりだったのに、ケーキ十個をぺろりと食べてしまった。

 大食いタレントかよ。 

 ちょっとした美少女だし、華奢な身体だし、秋月玲奈のようながない分、明るくていい子に見える。


「波奈も嬉しいよ。喜んでくれて」


 内心、月読波奈も呆れているのが見てとれる。

 彼女はいつもの黒のゴスロリファッションに高めのブーツ姿で、フランス人形のような華奢な身体である。

 

「怜ちゃん、身体は回復した?」


 神沢優はダークレッドのサイバーグラス、黒コート姿であり、鴉のようにみえなくもない。


「もう少しで退院できるそうです。もう筋トレははじめてるんですが」


 確かにベットのそばにバーベルが置いてある。


「良かったわ。勇はどんな感じ?」


 神沢勇が人狼と戦ったことは本人から聞いている。

 

「もう元気、元気です。やっぱり、私の師匠は特別ですよ」


 本当に無茶をする妹だが、その戦闘力にはおそれいる。


「それには同意するわ」


 神沢優も呆れながらもうなづくしかない。


「でも、玲奈師匠のことは心配です。対人狼の必殺技も教えてもらうはずだったのにちょっと残念でもあります」 


 確かにそれは神沢優にとっても痛かった。

 月読波奈もどちらかというと後衛タイプであり、強力な異能をもつとはいえ、物理攻撃には弱い。

 ここはイマイチとはいえ、無いよりましな公安警察の部下を呼び出すしかなかった。


「失礼します。神沢少佐、お呼びでしょうか?」


 ドアをノックして、男がひとり入ってきた。

 黒のスーツ姿のなかなか精悍な男である。

 安堂光雄、一応、神沢優の唯一の部下だといわれている。


「今日から人狼退治に付き合ってもらうわ」


 神沢優はいきなり切り出した。


「了解。この前は魔女だったし、もうさすがに驚きませんよ。そちらの方は?」

 

 安堂光雄は何の疑問もなく承諾したが、風森怜の方を気にしている。

 月読波奈は軽く無視している。

 ブスには興味はないらしい。

 分かりやすい。


「人狼と戦った風森怜ちゃんよ」


「何か……カオルちゃんと似てますね」


「――確かに、そういえば」

 

 人狼が何故、新宿に現れるのか。

 何故、風森怜だったのか。

 神沢優は何か重大な情報を見逃していたことに気づいた。

 

 

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